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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

君と見たあの空をもう一度

作者: CH3COOH

この作品を手にとって頂き誠にありがとうございます。原稿用紙30枚程度の短編となっております。ぜひスキマ時間などにお楽しみください。

 あぁー、緊張する。今日、俺、(にのまえ)(はじめ)小鳥遊(たかなし)星歌(せいか)に告白をする。俺の名前について言いたいことがあるんだろ、それはまた別の機会に。告白について話を戻そう。星歌とは幼稚園からの付き合いだ。今、俺たちは高校二年生だから、かれこれ十年もの付き合いかぁ。俺らの親も相当仲がいいからな。その影響で顔合わせる機会は異常なほど多かった。

 だから心配なことがある。俺は果たして星歌は俺を男として見てくれるだろうか。そのぐらい長い年月一緒にいる俺たちだが、俺が星歌に惚れたのは意外にも最近なことなのだ。今でも思い出す三年前の星歌と俺の家族で行ったキャンプの日だ。




 「ミーンミンミンミン」

 まだ夏が暑く、セミが鳴いていた時だった。俺は川で魚を取ったりバーベキューをしたりして楽しんだ。まだ中学生で後先考えず、遊びに遊んだのでとても疲れていた。

 その夜、俺は蝉の鳴き声で目を覚まし、外の空気に触れていた。

 ぼーっとしていると首の後ろだけが急に温度が下がった。俺は誰だとかを考える前に声が出た。そっと振り返るとジュースを持った星歌がいた。

 「やったー、ドッキリ成功ー」

 ニシシとはにかむ星歌はテントのランプに照らされ綺麗だった。

 「なんだ星歌か、ジュースありがとう」

 怪談を少し間にしていたからびびった。丁度飲み物が欲しかったんだよね。

 「お礼言うところ(はじめ)っぽいわ普通脅かされたらお礼言わないよ」

 星歌は俺の肩に手を当ててそう言ってきた。俺っぽいってなんだよ。そんな疑問は置いておこう

 「ここで見る星、綺麗だよね」

 星かぁ、気にしてなかったな。そう思い空を見上げた。

 「はっッ、、、、」

 口を開けたが何も出なかった。都会で見る空とは違い、無数の光が散らばり、それぞれが綺麗に輝いていた。それはまるで人々の魂のように見えた。

 「ねっ、綺麗でしょ。こんな事言うの恥ずかしいけど自分の星探してるんだ」

 自分の星、星座とかではなくて、、、、

 「お母さんがよく言ってくれてるの、『貴方は星が授けてくれたの』って、だから探してるの。見たら多分自分で分かると思うから」

 屈託なのない心からの笑顔でそういった。その顔は今でも目を閉じればまぶたの裏に鮮明に浮かんでくる。

 ───うん、この時から俺は星歌に心を奪われたんだ。俺は今、星歌を待ってるんだ。星が綺麗な屋上で。

 「ガチャ──」

 ドアが開く音が聞こえた。星歌が入ってきた。

 「どうしたのこうなところで」

 そう聞いてくる。本人を前にするとやっぱり緊張するな。

 「ちょっと言いたいことがあって」

 星歌は待ってくれている。俺か決意を固め、深呼吸する。

 「俺は星歌が───」

 『すきだ』そう言った瞬間だった。世界が真紅に染った。

 「**※△◆〒▼▲〒」

 星歌がなんて言ってるか分からない。空には0と1が浮かび流れている。二進数か、まるでこんなのコンピューターじゃないか。

 空間がぐにゃりと曲がり何もかもが壊れる。そして星歌も崩壊を始めた。星歌はいや星歌だった者はどんどん近づいてくる。そして手を伸ばす。

 「く、くるな!」

 足を滑らせながらも何とか逃げ出した。『くるな』そういった時怯んだようにも見えた。こんなになっても人の心は残っているのか、、、何もかもが分からない。ここや君がどんどん分からなくなっていく。

 「なんなんだ……なんなんだよぉぉぉぉぉぉ」

 混乱し俺はペタッと地面に座り込んだ。そして心の底からの悲痛、絶望を叫んだ。その瞬間、比喩ではなく本当に時間がゆっくり流れた。この感覚が正しいのかすらも、もう分からない。そして全てが真っ白になった。純白の世界、そう言えば聞こえはいいかもしれない。でも、すべてが白一色だ。建物もない、人もいない、自然もない、本当に何も無い。そして自分だけが存在し、色をもっていた。

 なんでなんでなんでなんでなんでどうしてこんなったんだ。平凡な日常がずっと続けばいいと思っていた。それに星歌に勇気を出して、告白して………なんでこんな事が・・・・

 考えたって仕方ない。今となっては全てが意味をなくした。平凡、平和、普遍、普通、通常……そんな何も変わらないごく普通の高校生として過ごしていたはずだ。

 なぜ俺だけ残った。俺だけが、俺だけが正しかったのか、いやみんなが可笑しかったのか。そうだみんなが異常だったのだ。みんなのほうが壊れていたんだッッッ。俺が正常だッ。俺は正常だ! あんな奴らとは違う! 俺が正常だっただけだ。そしてまた俺は叫んだ。

 「ウアァァァァァァァァァ──」

 目をつぶり叫び続ける。なんで叫んでるのか分からなくなるほどに。絶望からなのかはたまた生存願望からなのか。声が枯れて喉に痛みを感じ始めようやく叫ぶのをやめた。少しずつ目を開いていく。

 「ここは・・・・」

 先程までいた、純白の世界はそこになかった。この空間は森のようになっている。しかしツタが絡まっているのは大樹ではなく高層ビル。カフェには木が生え、道路だったはずの道は土に還っていた。多くの違いはあるが俺はこの場所を知っている。ここは東京の新宿だ。看板らしいものに着いているツタを取り払う。

 『ようこそ新宿区へ』

 かすれた文字でそう書かれている。あぁ、間違いない、ここは新宿だ。また混乱し始める。こんなに世界がパラパラと変わるのはなぜだろう。考えてるがやっぱりわからない。

 なにか背中に視線を感じた。

 「誰だッッッ」

 希望を微かに懐きながら周りを見渡す。

 「カサカサ」

 葉が何かにあたる音。恐る恐る音の場所に目を向ける。そこには人の顔を持つ何かがいた。何かとしか言いようのないその姿。言葉に表そうとするなら蜘蛛とゴキブリと人そしてカエルを混ぜたようなおぞましい姿だ。こんなヤツは本当に何かとしか言いようがない。

 と言うかそんな場合じゃない。その何かはこちらを睨んでいる。まるで獲物を狙う捕食者のように。逃げないとなんか追いつかれちゃダメな気がする。人の本能で感じたのか一瞬でヤバいと感じた。俺は捕まらないように走って逃げだした。幸い『何か』の足は遅いらしい。これなら余裕で逃げる。

 「はぁはァハァハァ」

 肩で息をしないとつらい。多分三kmは走ったんじゃないか。高校生で肉体的には最盛期らしいが、たいして運動していない俺にとって三㎞は十分キツイ。一つ訂正、余裕ではなかった。一つ一つの個体に速さはない。しかし、数が多すぎる。異常なまでに多い。俺が始めてみたのは一匹だったが走っているときに周りを見るとヤツらで埋め尽くされていた。俺は一つの仮説を立てた。これはもともと人間では無いかということ。人がいそうなところに多くいるその性質から考えて、あの崩壊をきっかけに壊れた異常者なのではないか。星歌が崩壊したのを見ている。あれの成れの果てがこれではないのか。そう思わずにはいられなかった。なら俺のように助かった正常者入るかもしれない。俺以外の正常者はどこにいるんだよ、、、、

 取り敢えず自分の家に戻ってみよう。蔦が絡まっていることや看板の文字が掠れていたりするから結構な時間が立ってるかもしれない。でも何かわかるかもしれない。ここは新宿、家は埼玉、無理な距離じゃない。線路を辿っていけばほぼ確実につくことが出来るはずだ。俺は異常者のいないコンビニやスーパーで非常食や保存が効く商品を漁り、ホームセンターで寝袋とリュックを手に入れて家へと向かった。



 【一日目】

 俺は日記をつけることにした。月、日にち、曜日は分からない。しかし俺が何日間生き残れたか、俺が生きた証になるものを遺すことにした。また、ココにこうやって書き残すことで今日のことを振り返れる。また心を落ち着かせることができる。


 取り敢えず、新宿駅に着くことが出来た。異常者たちは水が苦手だということが判明した。これは水たまりを避けていて、川や池、プールには異常者が居なかったためそう結論づけた。そのためペットボトルを大量に持った。これに効果があれば優位を取れる。これから向かう先は池袋駅。山手線を外回りすれば着くはず、これでつかなければ俺の知っている東京ではない。そうなると何処なのだろうか。今は新宿駅があったことを喜ぼう。そして池袋駅につくことを願おう。着かないことはないはず……

 俺は池袋駅を目指して歩き続けた。

 「スゥーー、フゥー、、、、」

 駅のホームにあるベンチに腰掛けた。新宿から二駅先の高田馬場駅に着くことが出来た。ちゃんと駅の順番や周りにある建物は元の世界と同じだ。ここはどうやら東京で間違いないらしい。これからどう生きようか、、そんな不安は募る一方だった。でも何故か俺は孤独を感じていなかった。

 「元から俺は一人だったのか」

 口を開いた瞬間、無意識にそう漏れた。俺だけいや、でも、、やはりそこまでは残酷になれないのか。心のどこかで星歌を求めている。星歌が隣にいるそれは俺にとって日常だった。でもこんなにも支えになっていたなんて……。『もしかしたら』まだそんな淡い希望を抱いている。異常者を元に戻せないのか、絶対に無理なのに考えてしまうのは俺が弱いからかもしれない。

 ふと空を見てみた。星はまだ見えない。太陽が傾いていた。時計を持っていないため時間は分からないが夕方だった。

 「んんぅー、もう少しだけ歩くか」

 希望を捨てるのは時期尚早か。もう少しだけ胸に秘めておこう。

 『ギャァァァァァァァヮヮ』

 突然、ハウリングのような音が響く。目で音源の方を向いてみる。そこには数え切れないほどの異常者が砂埃を立て障害物なんてお構い無しに走ってきていた。すぐに前向き走り出した。

 「はぁはぁはぁ」

 荒い息遣いとドクドクという心臓の鼓動が耳につく。ダメだ前からも来ている。周りを見渡すがそこには異常者の塊しか見えない。四方八方から『ギャアギャア』と鳴き声が聞こえてくる。四面楚歌、俺はこの言葉を身をもって体験していた。

 異常者は水が苦手である。俺の持っている水は飲水を抜き、500㎖ペットボトル三本。これでどうにか乗り越えないと。水の補給はどこでもできる。全て使ってしまうか。ここで水をケチって捕まるなんてたまったもんじゃない。じゃあ、突破の仕方を考えよう。水が多い場所はどこだ。プール・・・・ダメだ水が入っている保証がない、それにこの近くにはない。住宅街・・・・水道は止まっていなかったが家の中にアイツらがいないとも考えにくい。実際前に偵察したときにいたしな。リスクの方が高いか。池、、、、ため池はどうだ。周りをもう一度よく見る。西の方に小さな池が見えた。

 「そこだッ」

 思わす声が出た。一番可能性が高い。そして恒久的に水を得ることが出来る。ホントに近くにあったのが奇跡だな。

 周りに水を撒けば、しばらく寄ってこないはず。あそこに行ければ勝機はまだある。ペットボトルの蓋を開ける。覚悟を決め走りだりした。走った後ろに水がドッドッドッドッと出ていく。水の残量は減っていく一方。周りは異常者だらけだ、水を止めるとすぐに捕まる。クソッ、一本のペットボトルが空になる。ため池まではまだまだある。二本目は節約しながら、走る。あと半分、撒く水の量が少ないほど効果が薄くなる。水を出す量を少なくするのは命に関わる選択だ。減らすことはできない。そして二本目も終了。三分の一分あと三分の一分でいいんだ。それまでもってくれ。俺は最後の一本に命を懸けた。俺に向かって波のようになだれ込んでくる異常者。巻き込まれると命はない。俺は最後を使い切ると同時にため池に飛び込んだ。

 「バッシャーン」

 水しぶきを避けるように異常者は逃げ出す。全身濡れている俺に手を出すものはいない。ひとまず安心できる。風邪にかかる可能性はあるが、異常者が少なくなるまでここにいよう。

 日が沈み出していた。異常者との我慢対決かな。

 根気よく待とうと構えていたら、二、三十分でどこかへ行ってしまった。異常者は変なところで諦めが早い。やっぱり、異常者の性質は理解しがたい。


 

  【四日目】

 ヤバい、完璧に計画が狂った。これにはいくつか理由があるのだが…………

 まず、一日目の逃走劇により、体が濡れて風邪をひいた。これは仕方がないかもしれないがおかげでホテルに1日籠ってしまった。また、ドラックストアや薬局がなくて薬を探すのを苦労した。ここまでに時間がかかり長期の足止めを食らってしまった。

 そして、食料の確保などにも手間取りながらも二駅進み何とか池袋駅に着くことが出来た。ここから埼玉まで進まないといけない。まだまだ道は長い。体力も風邪のせいで十分に回復している訳では無い。一旦、安全に休憩したい、いや、ダメだろッもし俺の自宅やその近くに正常者がいれば早く合流したい。自宅を目指す途中からだが、柱などに自分の名前とこの現象が起こってから何日目か、向かっている場所を書いた布を結びつけている。もし、まだ俺以外に正常者がいればまた会えるかもしれない。自分の家族の変異は止められていないだろう。俺だけ正常なのも新宿まで飛ばされたのも何か意味があるんじゃないかな。そう思っている。だからこの足を簡単に止める訳には行かない。進み続けないと。

 俺は心のどこかで希望を求めていた。家に行けばいつもの日常が戻ってくるんじゃないかと。目が覚めれば全てが夢だったのではないかと。

 「ジャリジャリジャリジャリ」

 砂利道を歩く音が響く。確率は0%に近い希望を胸にいだき歩き続けている。たとえ叶わぬ希望だとしても希望というだけで光になる、心の支えになる。

 正直、この先に生存者がいないなら俺が生きる意味はない。俺一人だけいる世界は何が楽しんだろう。一人だけなんて何もできない、自分でできることなど限られる。人は誰かにもたれ掛かってこそ人だと思う。自分勝手で他人行儀かもしれないが、寄り添うあうのが人じゃないかな。

 とりあえず歩き続けている。人がいることを願って、目的地に付くまで希望を捨てない。




 【10日目】

 昨日俺は自宅についた。希望を持って開けたドアの先には人はいなかった。

 「ハハハハ」

 なんでこんな浅はかな希望を持ったんだろう。少し考えれば分かるだろ。ここに来るまで正常者には一人も会わなかった。その時点で俺の家に正常者がヒョンといるはずないじゃないか。なんで希望を抱いたんだ。希望なんていつも裏切られるだけじゃないか。分かってたよ、分かってたんだよそんなことでも俺は抱いたんだ。何にすがってんだよ。この世界に神もいなければ悪魔もいない。どんなに願ったところで何かが変わった試しはない。人一人の思いなんてたかが知れてる。叶わないと分かってたよ。でも俺の心を殻で覆うには虚構の希望が必要だったんだ。こんな世界になる前ですら俺は自分の心を虚構の希望で覆って誰にも本心を見せず、人並みの暮らしを望み、どこか上辺の付き合いで過ごしたいた。だからすぐに変われる分けないだろ。だから、だから、誰もいないのなら本心を吐き出されてくれ。

 「世界よ、戻れないのなら、周りに仲間がいないのならこんな世界壊れてしまえェェェェェェェェェェェェェェェェェもう少し俺は十分に苦しんだぁ!早く開放してくれよォォォォォォォォォォォォォォ、、、ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 悲しいのか苦しいのか寂しいのか疲れたのか怒っているのか絶望しているのか希望がほしいのか死にたいのか生きたいのか自分の感情を吐き出した結果なにもかもわからなくなった。隠していた心は自分でも理解できないらしい。感情を押し殺した人の末路か。

 最後ぐらいもしかしたらいるかもしれない正常者の役に立つか。アイツらは非常に音に敏感らしい。一度隠れたときに服の擦れる音で見つかった。それを使っておびき寄せ俺が自爆それに巻き込む。生憎、爆弾の作り方は知っている。それもテロに使われるような。殺傷能力はシャレにならない。きれいに散るか。これで俺は天国にでもいけるかな。支離滅裂な事を言っていて、している自覚はある。まぁそのへんはご了承ください。じゃあドデカイ爆弾を作る道具や材料を集めるか。というか今日は寝よう。



 【15日目】

 爆弾の製造は難なく完成した。ある程度は吹っ飛ばせるだろう。30人以上は巻き込める。日本の人工は約1億200万人、俺が起こす爆発の被害はないに等しいだろう。でも復讐としては十分かな。全てが平凡な俺が元人間を30人も巻き添えにすることが出来るんだ。十分じゃないか、異常者の群れに大打撃を与えることは無理だならこの毎日を綴った日記と爆発という花火を残して華々しく散ろれる。多分俺が生き続けるのよりも意味のある死に方じゃないかな。無駄に生きるよりも意味のある死を。そう望む俺のほうが異常なのかもしれない。俺の主観で異常、正常を判断していたが、異常者側からは俺が異常なのか。まぁ、そんなことはどうでもいい。俺の人生に終止符を打つか。

 野外ライブ用のアンプと音楽プレイヤーそして爆弾を持って外に出る。

 異常者の姿はチラホラとしか見えない。

 「あぁー、どうせ来るなら隠れるなよ」

 呼ぶの面倒だろ。俺の一世一代の大仕事だぞ、もう少し観客集まってもいいだろ。

 アンプの電源を入れて音楽プレイヤーをつなぎ曲を流す。大音量で音楽が聞こえる。異常者は音にも敏感で音に反応にて集まってくる。

 「お、キタキタ」

 見えるだけで20人以上の異常者がこっちに向かっている。予定どうり30人ぐらいか。こんだけ巻き込めれば御の字よ

 パチンと頬を叩く。パンッと軽快な音が響く。

 「おっし、やるかァァ!」

 気合を入れ直し、爆弾のタイマーを一分後にセットする。俺も異常者を集めるため拡声器を使って叫ぶ。

 「おら!異常者たちぃぃ隠れてないで俺を襲いに来いよぉぉぉぉ」

 何人かはこっちによってきた。もうこのあたりに異常者はいないか。全員集まったなら最高じゃないか。じゃあ、もうそろそろだな。

 そこそこ楽しい人生だったな。この事件さえなければもっと生きられたかも、そもそも俺が死を選んだだけだけどね。

 告白したときの光景が頭に浮かんだ。

 「走馬灯ってほんとに見るんだな」

 頭にはあの学校の屋上。星歌が入ってきた瞬間の光景がパノラマのように流れていった

 俺の告白の言葉、それに反応する星歌。そして星歌が言った言葉は

 「君は誰?」

 …………え。脳内で再生されたその光景。全く同じはず、あの聞き取れなかった言葉が聞こえた。死を決した俺の心にあっさりと穴を開けた。衝撃的すぎた。

 『君は誰?』

 っえ、君と俺は幼馴染がじゃないか。小さい頃から一緒にいたはず。なんでそんなこと言うんだ。なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで────

 俺の精神も肉体も限界だった。そして爆弾のタイムリミットもなくなり、爆発し俺は死に至った。爆弾の中に釘を仕込んでおいた、爆風でこれが高速で飛び出し身をえぐる。殺傷能力は高い。おかげで釘が俺の脳を貫き即死。なにも苦しまなかったよ。これは俺にとって唯一の救いだったな。一瞬で楽になることができたよ。





 「被検体の脈を確認中───終了まで30秒、、、20秒、、、10秒、、、、終了。 被検体の脈拍0 脂肪を確認しました。これにて博士に実験の終了を申請します」

 「こちら博士のアシストAI、博士の権限により、実験の終了を認定します。 被検体No.1 通称(にのまえ)(はじめ) 検査終了 死因、脳損傷  生存年数 17年5ヶ月16日  状態 精神異常 幻覚 幻聴 認識障害 記憶改竄以上が結果となります」

 「あぁー、(はじめ)君死んじゃったかぁー。残念、せっかくいい検体だったのになぁ。『君は誰』って言ったのはやり過ぎたかなぁー。精神崩壊に拍車をかけたなぁ。ごめんねぇやり過ぎちゃってアハハハ」

 「星歌、検体死亡したならはやく研究成果のレポートを提出しろ」

 「はいはい、わかりましたよ所長」

 サッサッとレポート書くか。ここでは人の脳について研究している。もちろん違法の。精神干渉を物理的、精神的に行い脳の能力など解明させる事を主にしている。一君は私の研究の被検体第一号だったのに。まぁいいデータが取れたからいっかぁー。私の研究は精神崩壊時の脳の反応についてあと幻覚、幻聴の時の脳についてかな。どうしても知りたかったんだからしょうがないじゃん。違法でも知りたいことが分かるならいいよね。結局これは人のためになるし、多くのために多少の犠牲はしょうがない。

 「んー」

 伸びをする。あぁー、机にへばり付いて画面をマジマジと見るのより体を動かして実験するほうが好きなんだけどなぁー

 じゃあ、精神崩壊を始めるところから見直してまとめるか。



 研究者視点【星歌視点】

 

 「えぇーとこれで録画始まってるんだよね。」

 パソコンを使い録画を始める。これは研究結果を残すための義務だ。パソコンといってもスーパーコンピューターなので市販のパソコンとはスペックが桁違いだ。

 「私は小鳥遊(たかなし)星歌(せいか)24歳 脳研究者です。これから干渉する検体は検体No.1 (にのまえ)(はじめ)17歳です。これからこの子の精神を壊します。研究に必要不可欠な検体のため、全国の健康な高校2年生から無作為抽出により一人を選出しました。この子の日常生活の世界を完璧に再現した状態で干渉します。No.1が干渉中に死亡した場合No.1の脳に大きな負荷がかかり廃人状態になります。注意説明は以上。これから実験をスタートします。20xx年5月6日」

 この実験は何が何でも成功させなければならない。そのために法を犯しても研究できる、この研究会に所属しているのだから。そもそもここに来るまでに既に4年たっている。これ以上私は時間を無駄にできない。

 まずはNo.1が私に好意を持つように仕向けないとな。

 そのために私はNo.1の意識に入り込んだ。


 ここは何処だ。私はNo.1が異性を相手に最も大きな好意を抱いた時の場面にいる。ここでその対象を私に書き換える。記憶を変えるのだ。

 No.1の姿が見えた。そしてここはキャンプ場のようだ。そして近くに対象の女子がいる。私はその女子に乗り移った。いやコピーしたという方が正しいか。記憶まではコピーできないが容姿をコピーし、No.1の好みの異性となる。

 No.1の思考はこちらでは完璧に分かる。この時どうされたいのか何が欲しいのか。そのおかげで好意を自分に向けされるのは簡単だ。

 私は近くにあるクーラーボックスから缶ジュースを取り出し、No.1に近寄る。そして首に缶ジュースを当てた。

 「うわ、冷たっっっ」

 思った通りの反応を見せた。何でこんなこととされたいのか私には理解できないわ。そう思いながらもNo.1の理想の異性を演じきる事を決意した。

 「やったー、ドッキリ大成功ー」

 私は歯を見せながら笑った。No.1は元気がある女子の方が好みらしいな。渡しと真逆だからちょっと演じにくいな。

 「なんだ星歌か、ジュースありがとう」

 こう言う所は律儀だな。No.1は実は真面目な人だったのかな。

 「お礼言うところ(はじめ)ぽいわ普通脅かされたらお礼言わないよ」

 私は単純な疑問と嫌味をこめてそう言った。

 『俺っぽいってなんだよ』って思ったなコイツ、引っかかるところそこかよ。

 「ここで見る星、綺麗だよね」

 No.1に星を見るように勧めた。星が好きなのか。私の住んでいるところは地下だからしばらく星どころか空さえ見ていない。私は久しぶりに空を見上げる。これが本物ではなくNo.1の記憶だという事は分かっている。

 だけど私は綺麗だと思ってしまった。つい見惚れてしまうほどに。これは記憶の映像だとは理解してる。これほどに綺麗な空はないだろう。No.1の記憶だから多少美化されている部分もあると思う。しかしこれほどまでに綺麗なのは、星がNo.1にとってどれほどの憧憬なのか計り知れない。

 「ねっ、綺麗でしょ。こんな事言うの恥ずかしいけど自分の星探してるんだ」

 この子、体を借りている子は純粋なのか馬鹿なのかわからないな。確かにNo.1の記憶ではこう言ったらしいな。

 No.1は私の言ったことに驚きながらも理解しようとしていた。どこか思い当たる節でもあるのかな。

 「お母さんがよく言ってくれてるの、『貴方は星が授けてくれたの』って、だから探してるの。見たら多分自分で分かると思うから」

 私は心からの笑顔でそう言った。

 このセリフどこかで聞いたことがある、どこかは忘れたが同じことを言った人がいたような。



 っと、ここでNo.1はこの子に堕ちたのか。あとは高校生活の記憶に入って、脳に嘘の感覚を流し、いつもの日常を送っているように思い込ませて、告白までもっていかせるか。それまでに徐々に精神を壊していこう。


 それからNo.1にばれないように干渉の度合を上げていき少しまた少しと精神に圧力をかけた。

 「これでよしッ、ふぅーー」

 息を吐き、一服する。休もうとはいってもNo.1の意識の中なんだけどなぁー。

 なんとか崩壊寸前まで圧力をかけられた。それに明日は告白される日だ。ここで精神に必ず大きな圧力がかかる。そこでNo.1は自覚していないと思うが、No.1の精神はもうこの圧力には耐えられない。ここからが私の研究の本領だ。 

 



 コツコツと階段を歩く音が響く。楽しみだ楽しみすぎる。やっとやっと研究ができる。この研究のデータが集まれば、私の夢が叶う。

 「ガチャ」

 ドアがきしむ嫌な音を立てながらも屋上へと入った。

 「どうしたのこんなところで」

 早く壊れろ、データと私に頂戴。No.1はこの緊張さえ崩壊を助長させるヒビとなる。告白した瞬間にNo.1の精神は崩壊する。

 「俺は星歌が──」

 そこでNo.1の精神は崩壊した。

 「君は誰」

 私はNo.1の精神をより破壊されるためにそう言った。だが、もうこの言葉もNo.1には聞こえてないだろう。

 全てが赤く染まっている。これからはNo.1のトラウマのオンパレード、それに一番起こってほしくない世界に変化する。

 ほら始まった。今度は一瞬にして世界が真っ白になる。

 精神崩壊によりNo.1が思う最悪の世界に作り直される。No.1の記憶からだから地獄とかは無理だが、どんな世界になるのか楽しみだ。そしていいデータがとれた。これは誰も成し遂げたことのないボトムアップ型AIの開発に使える。これでやっと……… 

 まだデータがとりたい、崩壊後のNo.1の精神体死亡までやってみるか。No.1が廃人になったところでさっきのデータを使えば復元は可能だ。

 世界が戻った。これは人が他の生命体に変化し、人類がいなくなった世界か。

 私はこの他の生命体に少し細工をした。

 「何事にも希望は大事だからね」

 私はこの生命体が水に弱くなるようにした。そしてこの生命体が一定時間No.1に触れていると、No.1が消滅するようにした。

 「これでスリルある実験が楽しめる」

 No.1の方に目をやる、早速新たな生命体と接触している。

 「アァァァァァァ」

 No.1の叫び声が誰もいなくなった街でただただ響いていた。







 「っとここまでまとめればあとは分かっている。死亡時の記録もまとめるか」

 それにしても疲れる。もう少し頑張るか、私の夢のために




 【No.1死亡記録】


 爆弾が完成したようだ。科学者の私から見てもとても高性能そして、殺傷能力が高い。多分これはNo.1が父から教わったのだろう。

 この記録をまとめる上でNo.1の父は欠かせない存在となる。 No.1の父は化学者である。そしてノーベル賞受賞者でもある。しかし彼の実験は凶悪すぎた。新たな化学反応を身近なもので見つけた。そこまでは良かったのだが、それを悪用した。悪用と言うが知的好奇心が抑えきれなかったのだろう。彼は頻りに人体実験を繰り返し、外部から簡単に内部を爆破されることができるようになった。そして、人体実験が終了後事件は起きた。実験の被検体の一人が自分の思い道理に爆破できるようになり、彼を街で爆破。そしてその被検体も爆死した。この事件で30人が死亡、54人がケガをした。

 話をNo.1に戻そう。No.1も父に実験体にされていた。そして、体内で高濃度の水素と酸素の球状の個体を生成できるようになった。今回の爆弾にそれを使ったのだろう。

 おぉ、もう爆発してしまったのか。これで実験は終了か。


 よし、データのまとめはできた。No.1の犠牲は必要だった。また私は必要悪である。これで彼の父を生き還らせることができる。

 No.1や彼の身近な人の記憶、そして脳の記憶の構造。崩壊の現象からわかる、再生の方法。これらが必要だった。

 No.1は自分が正常だと信じて疑わなかった。真実は自分が異常なのに。人は、特殊な状況下に置かれるそして敵がいるこの二つの条件が揃うと自分が正義だ、正常だと思うようになる。だから戦争はなくならない。これはもう人の(さが)だろう。

 しかし彼は、No.1の父は、正義も何も区切りをつけなかった。多方面から考え、絶対的な正義や悪をつくらない。私の理想とする人物だった。だから生きかえらせる必要がある。

 No.1の死んだ場所はたまたま彼の死んだ場所だった。親子だなそう思った。

 私は彼を復活させはじめた。

 「えっ、なんで、、、、、」

 世界が真っ赤に染まった。世界が崩壊し始めた。ここは記憶の中ではない。なんで…………私はここで一つの結論に辿り着いた。私自身も実験の被検体であると。ここも現実の世界じゃないと。実験は終わらない、上には上がいる。現実の世界が壊れるまで、無限の円環の内にいる。出れない。終わらない、終わらせない。私は科学者だ。

 「君の抱いている彼への好意はこちらでつくったのもだよ」

 そんな声が聞こえた。

 「うそよ、、、」

 この思い、私はちゃんと感じてるこの思いは偽物なんかじゃ……



 全てに嘘をつき、偽り続けた結果。自分までもが偽物になった。死の理から外れ、永遠を苦しみを味わう。そしてこの研究者もまた、実験台となるだろう。

恋愛からサイコに変わる感じを楽しんで頂けたでしょうか。

恋愛編がすこし少なかった気もしますが中心はサイコの方なのでご了承ください。

表現や言葉が足りていない思われることもあると思います。コメントでご教授頂けると幸いです。誤用、誤字、脱字などもありましたら、コメントでよろしくおねがいします。

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