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400回目の誕生日  作者: 黒い折り紙
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401回目の誕生日・後編

金の心配も無いし、ある意味では時間の心配も無い。どこぞの王や魔王が望んだ「不老不死」というヤツを、擬似的にではあるが体験して感じたことは、良くも悪くも無い、ということだ。この孤独を共有できない。そのためこのループから抜け出さなければ永遠に孤独のままだ。いい加減抜け出さないと、今度こそ精神が砕ける。今度こそ、つなぎ合わせられないほどに。


もう既にボロボロだ。声質や話し方は何度も変わったが、心なしか顔も変わっている気がする。やはり、何でも気からというのは正しいようだ。まぁ、僕の変化に気付いてくれる人がほとんど居ないということは、大して変わっていないのだろう。顔写真を取って家族に送ってみたものの、「気持ち悪い」という言葉しか返ってこないのも、その証拠か。しかし自分では別人のように変わってしまっている。やはり相当病んでいるのだろう。


ところで、今要るのは街の図書館だ。ここでやることは1つ。


本を読むことだ。


こんな感じで一人きりでボケて、自分で突っ込む生活をこんなに続ければ病むのも仕方ない。まぁ、本を読んでいるのは事実だ。読みあさっているのは歴史書物から低俗な漫画まで幅広いジャンルに渡る本の数々。この中に、少しでも奪取るのヒントになるモノがあるかも知れない。そう思い込むことでしか出来なかった。


今日は黒魔術にまつわる分厚い本を一冊読破した。ほとんど関係の無い話だ。でも、自分の今要る境遇を考えると、そのどれもがまんざら嘘では無い様な気がする。どれも興味深いものだった。そのうち僕も小さい悪魔くらいは召喚できそうだ。


未だ終わりの時間まで余裕がある。しかし小難しい本を読んだ後で何もやる気が起こらない。じゃあ、またあの遊びでもするか。


そうして図書館を後にした僕は、大学に向かう。今回は僕が所属する大学でいこう。


今からやる遊びはたいしたものじゃ無い。大して喋ったことのない大学の女性に話しかけ、連絡先を交換できれば僕の勝ち、というつまらないゲームだ。大抵僕の負けだ。かといって悔しくも無い。そしてたまに勝つ。人当たりの良い女性は僕を面白がってくれる。そうやって連絡先を交換する。僕の勝ちだ。かといって嬉しくも無い。ただの時間つぶしだ。



今日は負けだった。でも悔しくない。そういう意味でやっているのではないからだ。時間は過ぎ、夜が更けてくる。人も減り、電気が消えていく。僕はいつもの場所へと向かった。


大学の北館、2回の奥の廊下を進んだ先にある倉庫だ。綺麗とは言えないが、倉庫にしては整った環境。寒くも無いし熱くも無い。絶妙な空間だ。ふかふかのソファーがなぜか置いてあるし、コンセントもある。くつろぐには良い場所。そしてなにより警備の人間が来ないというのも大きなメリットだ。この場所を見つけるまでに、200回くらいのループを費やした。


時間はまもなく22:30。終わりが来る23:04までもう少し余裕がある。倉庫を出て、人が居ないことを一応確認する。こんな遅くまで大学にいるのは僕くらいのものだ。


誰も居ない大学、警備員こそいるがそんなに多くは無い。しかしその中の一人が僕の視界に入ってくる。これも今まで通り。思い通りに行くことに少しだけ快感を覚えるが、同時にループ地獄の現実を突きつけられる。


警備員が過ぎ去るのを見送った後、彼の後をゆっくり追いかけた。彼の行き先も既に分かっていた。


トイレだ。小さい方を済ましている。音を立てないように僕もトイレに入り、警備員の背後を取る。そして警備員の首を後ろから絞める。力を込め続け、落ちるまでそれを続けた。


実に手慣れていると自分でも感じる。あれほど他人を傷付けていれば、こんな程度は朝飯前だ。グッタリした警備員から鍵を奪い、ライトを奪って今回も旅に出る。


とりあえず鍵を使って手に入れられる、出来るだけ鋭利なモノを探す。鋭利であればあるほど良かった。結局探してみても、たどり着くのはいつもプラスチック片だ。何のためにあるのかは不明だが、一応、誰かを傷付けることは出来る。これで、例の使者がきても抵抗できるかも知れない。


そして背後を取られないように曲がり角の直角の壁に背中を当てて、時間が過ぎるのを待つ。


そして23:00になった。すると、右側の通路から別の警備員がこっちに向かってきた。


普段は来ない方向から、来ない男が来た。確かに、ループの継ぎ目となる23:04の付近になるといつも通りの日常というわけでは無くなる。今回は来るはずの無い人間が来たという程度だが、僕にとってはピンチだ。


咄嗟に逃げ出す僕は、階段を降りて出口に向かう。そこでふと思った。別に捕まっても、ループを抜け出すために利用できればそれで良いのではないか、と。急に立ち止まり、振り返る。


両手を挙げて警備員に手を振ると、警備員は呆れた顔で僕を叱った。正直何を言っているかは聞いていない。僕は周囲の状況を確認するのに必死だった。もう時間が無い。時計を見ると、あと2分。未だ余裕がある。


その時、さっき首を絞めて落とした警備員が階段の上から現れた。首元を気にしながらやってくる。すると、一段階段を踏み外した。転がり落ちてくる警備員。


今回はこれか。いつもこの時間になると今日という一日を急に終わらせに来る。急に気を失ってしまうのはどうしようもないため、チャンスがあるのはこういう外的要因によって引き起こされる終わりだけだ。今回は階段から落ちてきた警備員に巻き込まれて終わり、というモノだろう。これなら簡単に避けられる。



光明が見えた。更に、落ちてきた警備員を支えようと僕を追いかけてきた警備員が支えるために構える。これは僕の作戦勝ちだ。


そして無事、23:04を迎える。しかし未だ油断できない。人を呼んでくる、と口実を作り、気を付けながら北館を出る。雨も降っていないし、雷に打たれる心配もなさそうだ。ここで調子に乗って動き回ると危険がありそうなため、ここでじっと23:05を迎えよう。



そんな浅はかな考えは簡単に打ちのめされる。建物の影から現れたスーツの人物、暗くて顔は見えなかったが、体格からして男。そこまでは頭が動いた。しかし身体は動かない。一瞬息を止めたその時、男に頭を殴られた。地面に倒れる僕は気を失いかけていた。痛みに耐えられるはずの僕も、ヤツの一撃だけは非常に堪える。またアイツだ。


ループに入ったはじめの頃は、急な目眩によって気絶し誕生日の朝に戻っていたが、少しして僕も学び始めた頃、そこからこの男が姿を現し、僕を殺しに来た。背はいつも同じ、声は発さずいつも暗がりで襲われる。明るい場所でもいきなり停電して現れたりするほど、「異常なヤツ」だ。


つまりアイツこそ、ループの終点を作り僕を始点に送る外的要因の最たるものだ。アイツを何とかすれば、何か掴めるかも知れない。今回もそう思って武装して待ち構えたわけだが、どうも上手くいかない。


スーツの男は倒れる僕に近づき、頭を踏み潰そうと足を大きく上げる。僕は時計を確認した。23:04の55秒。


「まだ、無理か・・・。」


56,57,58・・・,

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