表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
400回目の誕生日  作者: 黒い折り紙
2/5

400回目の誕生日・後編

400回目の誕生日、と息巻いたわけだが、結局いつものように古本屋に行き、漫画の続きを買って家に帰ってきた。昨日は9巻を読んだから、今日は10,11,12巻を買った来たわけだ。昨日は、用事というか仕事があった為に1巻で抑えたが、今日は記念日だ。ゆっくり休むとしよう。休むと言っても、一日一日全てがリセットされるわけで、昨日の疲れなんて1つも残っていない。それでも、心の休息は必要。そう自分に言い聞かせ、無理矢理にでも休んだ。


昨日の終わり方は余り良くなかった。400の大台に乗せないために、必死で足掻いてみたものの、気付けば朝の8:26、いつものスタート地点。さすがにメンタルに来た。今日は1回全てを忘れて、学生らしくサボってみようと決め込んだ。


テレビをつけた状態でミュートにしてある。一応、日々に異変がないかを確認するためだ。それをチラチラ見ながら、漫画を読み続けた。

この瞬間は幸せを感じられる。何と言っても、時間と金が無限に(望んだことではないが)あるのだ。日本に溢れる漫画、ほかにも映画やらアニメやら、大きな声では言えないモノも、今僕が持っている金が許す限り楽しむことが出来る。長編漫画も少しずつ読み進めていける。今日という日が続く限り、時間に余裕が腐るほどある。時間が無限にあるのは、本当に幸福なことだ。


だが、その所為で苦しんでいるのも事実だ。記憶が続いているからこそ楽しめている部分が大きい。それは事実だ。でも、その所為で「進めない」、「終わらない」、「分からない」、という不快感が日を増すごとに押し寄せて頭を埋め尽くす。漫画のページをめくる手がピタリと止まる。

テレビを見ると、有名女優の引退会見が明日開かれるという報道がどの局でもなされている。21歳になった日、ループの一発目の日になっていることも気付いていない日はこれ以上無く驚いた。でも僕の中で止める止める詐欺をそこから380回受けているのだ。もうこの女優の顔すら見たくない。

テレビを消して、漫画も置いた。11巻の途中に12巻を挟み込んだ。洗面所に行って顔を洗って髪を上げた。そして、左拳で鏡を砕いた。


血が吹き出たが、もう痛みに慣れすぎて特に何も感じない。部屋の中を滅茶苦茶にして、ソファーに深く腰掛けた。ソファーの上は綺麗なままだ。ここまで部屋を荒らし慣れたら、1つは心を休められる場所を無意識に作れるのだろう。そして座ったまま、テーブルを思い切り蹴った。

これで少し落ち着いている自分にも嫌気がさしたし、ここまでしてまだムカつきが残っている自分にも嫌気がさした。

諦めと絶望、そして少しだけ401回目への希望を持って、家を出た。もちろん、鍵は掛けなかった。


ここで今分かっているリセットのルールについて触れておく。僕の21歳の誕生日は8:26から始まり、一番遅くて23:04に終わる。スタート地点はどうやら変更不能のようだ。どれだけ早く寝ても、夜更かし(アレを夜更かしというのかは分からないが)をしても朝起きる時間は変わらない。ただ、終わる時間だけは操作が可能なようだ。

どんな工夫をしてきたかは・・・明日にしよう。階段を上り終えてしまった。


時間は21:30だ。いつものようにスマホで明日の天気予報を確認する。

「やっぱり。」

どれも同じだ。海外の天気予報まで手を伸ばしても、同じ。

立体駐車場の屋上から身を乗り出す。400回目の誕生日の終わり方はもっとロマンチックなものが良かったが、あんな目に遭うくらいならこっちの方が数段マシだ。


このループ生活の酸いも甘いも経験できた日はそんなに多くない。その日の多くが自分を休めようとこの世界を楽しんだ日だった。そして自己嫌悪に陥るのだ。今日で分かった。僕はこの世界から必死で抜けだそうとしていた方が精神衛生上良いということだ。今日のように自分で終わりを決めてしまう事が最近増えてきた。でも23:04まで必死に抗う方が良いに決まっている。


何としても、この世界から抜け出さなければ。このバグった世界から。


こうして決意を固めた僕の頭が地面すれすれになる。しかし頭が着地する直前に、全身に強烈な痛みが走った。どうやらちょうどのタイミングでトラックに轢かれたようだ。


ここまで色んな経験をしてきて、痛みになれてきた僕は、即死級の事故でも、少しだけ耐えられるようになった。自分でリセットを選んだつもりだが、こんな形で終わるとは思わなかった。高いところから飛び降りて、トラックの上に着地する事はあるかも知れないが、ちょうどトラックに轢かれるというのは、凄いタイミングだ。幸運とは言えないが、ある意味僕は持っているのだろう。なんせこんな奇妙な世界に迷い込んでしまったのだから。こんな薄い確率を引けるのならば、宝くじでも買っておけばよかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ