北風の贈り物
森にも春がやってきました。
表紙絵:こたかん様
ある早春の朝のことです。
森のそばの小さな家の光る窓辺で、赤ちゃんが眠っていました。
清潔なブランケットにつつまれ、ゆりかごですやすや寝息をたてている姿は、まるで天使のようです。
赤ちゃんのお母さんは、庭で洗濯物を干していました。
お日様は、その可愛らしい赤ちゃんをあたたかく照らしました。
「まだ、春とはいえ寒いからね。日だまりの中でゆっくりおやすみ。それに陽の光は、命を育てる。それが私からの贈り物だよ」
森の動物たちも、赤ちゃんがかわいらしくて、次々と贈り物をします。
きつねは、赤いつやつやした実を窓辺にそっと置きました。
「この赤い実、赤ちゃんのほっぺみたいでしょう。さぁ、どうそ。」
リスは、きれいなむらさき色の野の花を窓のそばの透明なコップにさしました。
「小さいけれど、良い匂いがするのよ。あぁ、赤ちゃんも良い匂いだなぁ。」
ねこは、川で取った魚をプレゼントしようとしましたが、赤ちゃんは食べないからやめなさいと慌てて仲間たちがとめました。
「なんで?食べられなくても、匂いをかげばいいじゃない」
仲間たちはやれやれと、そう言ったネコの口に魚を押し込んで、幸福を呼ぶ鈴をそっと赤ちゃんの枕もとに置きました。
いぬも、宝物だった10年ものの骨をプレゼントするつもりでしたが、ねこを見て、すぐさま骨をかくし、前に庭で拾ったきらきらのビー玉を贈りました。
「赤ちゃんの未来も、お日様に照らされたビー玉のようにきらきらしていますように」
「さぁ、次はわれわれの番だぞ!!われわれの美声で健やかな眠りを!!」
ここぞとばかりに森の木々に止まっていた小鳥たちがいっせいに出てきました。
茶色や赤や緑、青、黒まで何千羽の鳥たちが集まったでしょうか。
そして、ぴーちく、パーちく、ちゅんちゅん、チュチュんチュンと大合唱。
赤ちゃんのお母さんも、なにごとか、とびっくりして手を止めました。
「きみたち、それで子守歌のつもりかい?あかちゃんが起きてしまうじゃないか。もっと優しくうたったらどうなんだい?」
もうすぐ消えてしまう北風が、注意をしました。
「おや、北風さん。まだいたのかい?さぁ、早く行った行った。北風さんがいたら、春が元気になれないし、赤ちゃんが風邪をひいてしまうよ!!」
小鳥たちはそういって、楽しませるためとおかまいなしにぴーちくぱーちく歌い続けました。
北風は、むっとするよりも寂しくなりました。 北風も、かわいい赤ちゃんに何かを贈りたかったのです。
赤ちゃんに幸せな気持ちになってほしかったのです。
が、自分がそばに行くと、確かに赤ちゃんに寒い思いをさせてしまうでしょう。
せっかくの春なのに、それではかわいそうです。
小鳥たちの大合唱に、赤ちゃんが目を覚ましました。
目が窓の方を見ています。
そして、手をあげ、体を動かし始めました。
ごそごそ。
ゆりかごではいはいし、窓辺へ手を伸ばします。
『あっ、危ない!!このままではゆりかごから落ちてしまう!』
と皆が思った時、庭の洗濯物がふわっと巻き上げられました。
そして、窓辺にひっかかります。
「おぉ、寒い!もういたずらな北風ね!まぁ、私の赤ちゃんが!!」
ゆりかごから落ちそうになっている我が子に気付いたお母さんは、慌てて窓辺に身体を突っ込み、赤ちゃんを抱き上げました。
赤ちゃんは、何事もなかったようにお母さんの腕の中で、きゃっきゃっと笑っています。
北風は、ほっと胸をなでおろして、ほほえみました。
「良かったね。元気に育つのだよ。一緒に遊べるのはまだまだ先だけれど、冬には雪を連れてくるから、楽しみにしていてね」
そうして、一つ目の贈り物を贈ることができた北風は空の向こうへ消えていきました。
おわり
最後まで読んで下さって、ありがとうございました。そして、素晴らしい絵を描いてくださった方、心より感謝いたします。誤字をご指摘くださった方も、ありがとうございました。