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半身




「〝ユラユラと、揺らめく魂〟」

「『ん? 今更詠唱か、もう遅いわ!このまま細切れにしてくれる!』」


大鎌を手放し、左手を天に向け、右手を胸に添えた死神をその宣言通り切り裂いていく月読尊(つくよみ)。しかしそのどれもが切られた瞬間に修復されていく為、ダメージにはなっていない様子。


「〝ゆるりゆるりと、下っていく〟」

「『……なんの言ノ葉じゃ!』」


月読尊が攻撃を繰り返すも、微動だにせず、全てを無視していく。


「『〝カラクリ旋盤〟!』」


麦畑を割り、地下より現れた丸ノコギリが数百。その全てが死神に向かう、が、無視。


「〝魂の輝きが眩く、故に(オレ)は乞い願う〟」


いつの間にか、左手に握られていた短剣。その装飾は美しく、あまりにも……不気味すぎた。傍から見れば美しい短剣であるはずなのに、それを構成していたのは人の骨であった。


「〝今一つに、戻らん〟」

「『なんじゃそのおぞましい短剣は……!』」


それは己のかつての体、それはかつて別たれた己の半身。人であった名残。そして悲しみの象徴。


「さぁ、特と御覧じろ」


死神が短剣を刺そうとした瞬間、月読尊は走り出し、周りの全てを操って止めようとした。麦も、風も、水も、土も、月さえも動き、己の主のために動いていたにもかかわらず。止まることなくそれ(短剣)は容易く、突き刺さった。




「──♪、~~~~♪」


鼻歌が聞こえる。


それは楽しそうな曲であった。陽気に踊り出したくなるような、そんな明るい曲であった。


「『ぐっ……止めよ!』」


天から降り注ぐ月の光は刃となって降り注ぐ。何もかもが積み重なり、封印されかけていた死神を貫く。しかし、そんなものは意に介さないようにその光の刃の群れより刃が飛んでくる。それは綺麗に、月読尊と優子の魂の境界線に入り……


「『……!』」


月読尊の魂が、優子の魂と分離した。


「ぐっ、分離だと……」


優子はその場に崩れ落ち眠っている。そして、月読尊としての本体が、麦畑に顕現した。その姿は黒髪で目の中に月が浮かんでいる、幼子。


「人の身のままだとやりずらいと思ってな、こっちの配慮だ」


土煙の中、ゆるりと、優雅に脚を伸ばす姿がひとつ。


「さて、このままだと私は死神とは名乗れないんだ。聞いてくれるかな、豊穣神及び月神ツクヨミ」


その姿は死神とは到底思えない白さ(・・)。いや、ある意味死神に近いかもしれない。神々の間で白さとは、魂の純白さ、転生前の魂に違いないのだから。


「何者じゃ……死神の表裏神など聞いたことなどない。オマケにその神力(しんりょく)、その不気味な神力はなんだ、生と死が同時に混在するなど有り得てはならんぞ!」


髪は全て白く、肌は全てが黒い。服は修道服のようで所々に傷が存在し、左手に持つ本には『生と死の境目』と異世界の言語により書かれていた。右手には先程の美しい骨の短剣が握られていた


そして、月読尊を見つめる目には重瞳と呼ばれる黒目が2つ存在していた。


「改めて」


優しく微笑みながら、優子を元の世界に戻していく。


「表裏の神、活命神(かつめいしん)コウマ。行くぞ──」


力が吹き荒ぶ、周りの光景にヒビが、空間にヒビが入る。


渇命(かつみょう)してくれる」

「っ!」


今、月読尊の命が削り始めた。



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