不穏な空気
「それで、何用でしょうか」
そう発言する目の前の男を睨みつける。それだけで顔を青くし、発汗するコイツは実力としては下の方なのだろう。だがどうにも胡散臭い。
「日本幻想監視組織、お前らのことでいいんだよな?」
「そう確信してらっしゃるのでは?」
「一応の確認だ、これで違っていたら目も当てられないからな」
日本幻想監視組織、それは日本に存在する魔法使いや陰陽師、霊能者などといった摩訶不思議な力を扱う人物達を扱う組織。それに伴って日本中に発生する現代科学で判明しないことを調査する仕事や地域ごとの守り神や守護霊との交渉、戦闘なども行う│幻想を扱うプロフェッショナルだ。そんなヤツらの支部組織と思わしき場所を発見したため今回交渉しに来ていた。今目の前にいる男はそこの所長だということだ。
ここに来た理由は俺と穂乃果の為と言える。俺が住む地域には既に守り神が居たようなのだが、どうやらそいつ俺を恐れて本拠地に帰ったらしい。というかそもそもその地域の存在ではなく散歩がてら休憩しに来た存在が一時的に住み着いただけだったようだ。そのため今俺が住む地域には守り神も守護霊も、ましてや怨霊などといった存在が居なく不安定な状況だ。このまま放置しておくと陰か陽、どっちらかに偏りすぎていつか崩壊するだろうな。それを防ぐために俺がそこの守り神となろうとしたのだが……JFO──Japan Fantasy Monitoring Organization、日本幻想監視組織の英訳の略──が突如干渉してきた。まぁぶっちゃけるとこいつらは俺らの居る地域を管理下に置きたいらしい。
別にそれはいいんだ、管理してちゃんとした場所にしてくれるならいいんだが聞く限りこいつら俺らがいる地域を実験場にする気だったようだ。具体的には極度に陰か陽に偏った地域の情報収集が目当てらしい。一応そこに住む地域の人はJFOの人間だけにするつもりらしいが俺はそれを認めなかった。俺は神だからな、しかも災厄などと呼ばれる類の死神だ。下手に怒らせたら怖いらしく交渉しようと言ってきた。絶対に認めないが。
「何がダメなんでしょうか?何か気になることでも?」
「その行為そのものがダメだから言っているんだよ。話は終わりだ、あそこに二度と干渉するな」
「ちょっ!お待ちください!あそこしかもう何もいない場所はないんです!他の所へ交渉して住まいを用意してもいいです!頼みますから──」
「身の程を弁えろ」
「……は?」
「お前が言っていることは守り神や守護霊の領分だ、過度な干渉は災厄を招くだけ」
──死にたいのなら他所でやれ
JFO支部、その所長室に苛立ったように椅子を蹴り飛ばす男がいる。
「なんなんだあの死神とやらは……!人と違う種の分際でなんだ! 何が守り神の領分だ、今の世の中はそんな存在信じられちゃいねぇんだよ!」
苛立ってはいるようだが少しは理性があるのだろう。だがその思考回路は理性的とは言えなかった。会社内の内線を使い情報科に怒鳴り込んでいた
「あの死神の情報をよこせ!」
『分かりました、専用のパソコンへデータを送ります』
パソコンへと送信されたその情報を見て所長は悪い笑みを浮かべた。
「へぇ……養子、ねぇ」
「あぁ、そうだ」
「今回のことの件で障害ができた、それを排除するために」
──平坂穂乃果を拐え