氷の麗剣?いやただの〇〇〇
氷の麗剣などという二つ名で呼ばれている騎士がいる。
我が第一騎士団所属、セシル・グラディ。前団長の息子であり、次期団長候補と噂されている青年だ。
氷という名の通り、彼の碧眼は突き刺すかのように鋭く、冷たい。またその戦い方もまるで妖精のように眩惑的であり、目撃した人々からは「間違いねえ、あれは氷の精だ!機嫌を損ねたらこっちまでやられるぞ…!」とのこと。一方、容姿端麗のため女性からの支持は極めて高く、前述の名も井戸端会議で考案されたものらしい。
確かにセシルの腕前は高く、相手を翻弄するような身のこなしは尊敬できるものだ。故にその点から麗剣というのは自分も異議はない。
しかし、しかしだ。
「団長、団長は右利きですが、右と左、どちらが好きですか?」
「…右…?」
「ほう、なるほど。フッ、右ですね。ありがとうございました」
獲物を前にした猫のような顔をして、件のセシルが去っていく。
これまでも謎な質問(「ネコと魚、どっちが好き?」「守護と攻撃なら?」「下と上は?」など)をされているが、その度に満足げな顔をしてほくほくと帰っていく奴の、どこに氷の要素があるというのか。
「団長…毎度のことですが、あれ、気にしないでくださいね…発作みたいなものなんで…」
隣で成り行きを見守っていたフィンが遠い目をして声をかけてくる。この男はセシルよりいくつか年上だが、奴とは幼馴染みという間柄で親しいようだ。
ちなみに質問に答えないとどうなるかというと、酷く気落ちしてすごすごと帰っていく。
一体人々は奴のどこに氷を見ているのだろうか。切れ長の目のせいか。慣れると割と人懐こく見えるものだが。
それだけでなく、奴は日常的にぼーっとしていることが多い。同僚が談話しているのを眺めている時や、模擬試合を見学している時にもたまにぼんやりしている。と思ったら目を爛々と光らせている時もあるので、一概には言えないのだが、それでも一つ確かなことがある。氷という名称は奴には不似合いということである。任務にも真面目に取り組むし、先の悪癖を除けば、立派な騎士であるのは間違いない。もっとも、奴は見習いから正式な騎士に就任してまだ一年目であるのだが。
「しかしフィン。その発作というのも他の者に発症しているのは見たことがないが」
「そんなことないですよ。確かに団長は一番頻度高いですけど…試しに一緒に街に買い物にでも行ってみてください。きっと俺の気持ちが分かるはずです…」
「そうか…では次の休みにでも誘ってみるか」
頷き、休憩を終えて仕事に戻ろうとしたところで「しまったあああ!敵に塩送っちまったあああ!」というフィンの叫びが聞こえてきた。どうしたのだろうか。
セシルの都合を尋ねてみたところ、こちらが引く勢いで承諾してきた。
「団長と買い物ができるなんて、嬉しいです。一生の思い出です」
「騎士団の買い出しで共に行ったことはあるだろう」
「仕事とはまた違った趣があるのです」
そう言ってニコニコと休暇を待ち望むセシルの姿を見ると、優しい気持ちになる。きっと親心というのはこれに近いものに違いない。
当日、城門の前で待ち合わせていると、「団長!お待たせしてすみません」と声をかけられた。
見ると、第一騎士の鎧でも制服でもない私服のセシルがそこにいた。品の良い灰色のコートからすらりと足が伸びている様を見ると、どこぞの貴族でも現れたかのような感覚に陥る。
「団長は休日も制服なのですね」
「部屋で過ごすならともかく、街に出るからな」
「流石団長。尊敬します」
そんな会話をしながらも歩き始める。
普段身に付けている黒色の鎧がないためか、任務時と比べて人に気付かれることは少なかったが、セシルはなかなかの美形だ。女性に声をかけられることはままあったが、その度にセシルは「今は休暇中ですので」と素っ気なく返していた。
人気商売とは言わずとも国民の好感度を得るのは重要であるし少しは応えてやれと思うが、年がら年中騒ぎ立てられたらうんざりもするだろうから、大目に見ることにする。
「ところで団長。今日は何をお買い求めなのですか?」
「第二の団長から頼まれてな。巷で評判の焼き菓子をご所望らしい」
第二騎士団の団長が甘いもの好きとは聞いたことがないので、おそらく誰かへの贈り物だろう。
「第二の騎士に頼めばよろしいのに…わざわざ団長が出向かなくとも」
「まあ、暇だったからな」
外出の口実に必要だったので別に何でも良かったのである。
しばらくぶらぶらしていると、セシルの目があちこちに向き始めた。それを追いかけていくと、美男美女のカップルやら、若い女性に囲まれた身なりの良い若者やらにたどり着く。
セシルも男ということだろう。
「いいな…あれ」
「どれだ?」
「外ではああいう風に見せつけていても、きっと中では屈服している。だから外では見栄を張りたい、自分はまともだと示したいからああしているが、中では調教されている」
「何だって?」
ハッとしてセシルは「先を急ぎましょう」と誤魔化した。
店についた。凄まじい行列だった。客層を観察するとやはり若い女性の姿がよく目についたが、男も子供も中には年配の人の姿もあった。老若男女問わず人気なのだろうか。せっかくなので自分も買ってみようかと迷う。
「これはすごい。何時間待ちでしょうか」
「自分で買いに行きたくないのも分かるな…」
そんなことを話しながら最後尾に並ぶと、前の客がぎょっと振り返った。
「ヴィトニル第一騎士団長!?」
意外にも口にした名前はセシルではなかった。
やけに露出の多い、特に胸部が大きく晒されている服装をした娘で、十人男がいたら九人が振り返るだろうと思うくらいには容姿が整っていた。
頬を紅潮させ、寄ってくる。近くで見ると改めて肌色がちらつく。寒くないのだろうか。
「初めまして、ファンなんですー!応援してます!」
「それは珍しい。ありがとう」
体が接触しそうになったためさりげなく距離を取ると、その分詰めてくる。ファンの勢いというのは時に恐ろしい。特にこういった出で立ちの女性には意識してもらいたいものだが。
「今日は休暇ですか?」
「ええ、まあ」
「じゃあ、この後って、お時間ありますかね?良かったらうちに飲みにきませんか?うち、実家が酒場なんです!」
酒か…。
「残念だが、またの機会に願おう」
「そうですかぁ…じゃあ、とりあえず場所を…」
その時、セシルが小さく何かを呟いた。
「地雷…」
「何だと?」
「…え?セシル様?」
途端に、娘はこちらを押しのけんばかりの勢いで身を乗り出した。
「セ、セシル様ですか!?本物!?」
どうやら今まではセシルが自分の大きな体に隠れて見えていなかったらしい。ということはやはりセシルより先に自分の名前が出たのは一種の勘違いだったようだ。それもそうだ。
「信じられない、こんなところで会えるなんて!私、セシル様をずっとお慕いしていて…!さ、さっき団長さんにファンって言ったけどそれはその、リップサービスです!本当はセシル様のファンで…!好きです!」
会ってすぐに告白とは、最近の娘は進んでいる。
娘を無表情で見つめてセシルは「それはどうも」と軽く頭を下げた。
それだけだった。もう少し何かないのか。
「あ、あの、セシル様…」
「団長」
「何だ?」
「焼き菓子は今度私が責任を持って買います。ですから、もう帰りましょう」
「いや、しかし…」
「…お願いします」
いつになく苦しそうな表情だったため、従うことにした。名残惜しそうな娘に別れを告げ、帰路に着く。
「…公式に介入するのはエヌジー」
セシルがポツリと呟いた。
ある日、セシルの実家であるグラディ宅に夕食の誘いを受けた。
奴の父、前団長であるアルバート・グラディには色々世話になったので、断る理由もない。
出かける際に団員から「団長!酒だけは絶対ダメですからね!」「クッ、俺達もついていけたらいいのに…!」「ぶん殴ってくれる人いないんですから自重ですよ!自重!」と騒がれる。言われずとも自分が一番よく分かっている。
馬に乗り込みセシルと追走して向かう。騎士団の詰め所からさほど離れていないが、人通りは多いため主に女性からセシルへの歓声が否応なしに耳に届く。
「キャー!セシル様ー!」
「やだ、目が合っちゃった!」
「バカ言わないで、目が合ったのは私よ!」
ちらりと奴を伺うと、涼しい顔をしていた。
「おい、あれって第一のヴィトニル団長じゃないか…!?」
「本当だ。見ろよあの筋肉。やべえな…」
ちらほらと自分のことについても話されているのが聞こえてくる。これでやばいなら副団長はどうなる、などと考えていると「団長!」と唐突にセシルが呼んだ。
「最高ですね」
意味が分からなかったので返事はできなかった。
屋敷についた。
グラディ家は代々嫡子が騎士団の団長を務めており(無論実力も見合っている)、王家からも大きな信頼を勝ち取っている。そのため、何かと便宜を計られているようだ。
自分の実家の何十倍はあろうか、という屋敷にはこれまで数回訪れたことがあるが、やはり慣れない。初期は厩舎でさえ実家より広いという事実に打ちのめされたものだ。
アルバートが玄関前に出迎えてきた。
「ただいま戻りました、父上」
「息災であったか、セシル。ヴィトニルも変わりないな。相変わらず反抗的な目をしている」
「いえ、そんな…」
アルバートはセシルによく似ている。体格に恵まれなかったところも、柔らかく指通りの良いであろう金髪も、氷を思わせる碧眼も。違うのは、アルバートは偽りなく冷淡であることだ。
齢五十を超えているはずなのに立ち振る舞いに隙がなく、全く衰えていない。下手すると老け顔とよく揶揄される自分よりも若々しく見えるかもしれない。
四十という若さで団長をやめたアルバートは後釜に若輩の自分を指名すると、屋敷に引きこもって実子の教育にかかりっきりだったらしい。そうしてみっちり鍛えられ周囲からの期待を一身に背負い、入団したのがこのセシルである。
アルバートの子供というからにはどんな冷血が、と身構えた自分の前に見習いとして現れたセシルは、初対面で「サ・イオーシダ」という謎の呪文を唱えて逃亡した。未だにその意味は教えられていない。
ぽつぽつと会話をしながら三人揃って席につき、とうとう食事が開始される。
先手を切ったのはアルバートだ。
「それで、セシルの使い心地はどうだ、ヴィトニル」
「グッ」と呻くセシルに一瞥を向けてから、頷いて答える。
「流石は団長の実子。同輩だけでなく二年目と比べても抜きん出ております」
「団長はやめろ。私はもう引退した身だ。しかし…お前から見てその評価とは。セシルが次の団長になれば、私もようやく肩の荷が下ろせるというものだ」
緩やかな笑みを浮かべるアルバートにまた頷き、言う。
「はい。次期団長はセシルと、まことしやかに噂もされております」
「ほう、では…」
「しかし」
確かにセシルの実力はその年にしては高い。だが、
「しかし、まだ軽い。技量はあっても、力が不足している。十八という年齢を考慮すれば十分ですが、月日が経っても今のままならば、団長の座は譲れませんね」
とはいえセシルは成長期ですし、このまま五年もすれば副団長クラスにはなっているかもしれませんな、ハッハッハと続けようとしたが、それは叶わなかった。
「…そうか」
補足を付け足せるような空気ではなかった。元凶、アルバートは腕を組んで眉間に皺を寄せ、実に不機嫌そうに目を細めている。セシルが困った顔をしてこちらに視線を投げてきた。
すまん。
「まあ良い。いずれお前が職を退き他に突出した者がいなければ済む話だ」
「それがですね父上。第一にはあまりライバルはいないのですが、第二にはものすごく見込みのある人がいましてね」
「ほう、誰だそれは」
「ハロルドとノエルって言うのですが、これがまたすごくて…」
騎士の話に花を咲かせているのを見ると、実の親子であるのが顕著だ。しかしセシル、ハロルドとノエルというのは戦闘力というより見かけの良さで話題になっている二人組ではなかったか。同期のためよく行動を共にしていたらしいが、それに対して「ああまたセシルの悪癖が…」とフィンが嘆いていたのを知っている。
しばらく仕事場の話で盛り上がっていると、アルバートが目ざとくあることに気づき、告げた。
「何だ、全く飲んでいないではないか、ヴィトニル。少しは付き合え」
きた。
こうならないよう全力で願っていたのだが、女神は自分を見放したらしい。
実はアルバートの前で酒を飲んだことは一度もない。というのも、その場には必ず副団長がいてうやむやにしてくれていたからだ。ちなみに副団長はアルバートより年上で騎士としての経歴も長く、頼りになる人だ。
だが今ここに彼はいない。
騎士になって一年目のセシルは自分の悪癖を知らないので、頼ることもできない。
「いえ、自分は酒に弱くて…」
「何だと。私の酒が飲めないのか」
万事休す。さてはアルバート、酔っているな。
セシル、何を悶えている。救難信号に気付いてくれ。
自分に酒なんて飲ませたら比喩でなくとんでもないことになるぞ。
「まあ良い。そこまで嫌ならやめておこう」
何と。女神は生きていた。
アルバートは満足げな猫のように微笑み、グラスを手に取った。
「なんて言うと思ったか」
「ぐわー!」
流石元団長。素早い!
目にも留まらぬ速さで忍び寄ってくると、琥珀色の液体がドボドボと口の中に注がれる。
死、の一文字が脳裏をよぎる。まずい、非常にまずい。
実を言えば、自分は下戸ではない。むしろ酒は好きな方だ。
だが、自分が酒を飲むと、周囲に多大なる迷惑をかけることになる。よって普段は一滴たりとも摂取しないことにしている。休暇をとって自室でたまに飲むくらいなら、まだいい。一人でいれば問題はない。部屋に外から鍵をかけてもらえば完璧だ。
しかし今は違う。一人ではない。アルバートも、セシルだっているのだ。
耐えねばならない。限界を超えるのだ。
「フゥーハハハハハ、何だその顔は。団長になって調子に乗っているからだ愚か者」
「父上、飲み過ぎですよ…もう若くないのですから自重してください。団長もすみません。今日は泊まっていってください」
「いや、構うな」
手の甲をつねる。よし、正気だな。
このまま帰って団員にぶん殴られれば、まだ間に合う。誰も傷つかなくて済む。
「いえ、そうもいきません。大丈夫です、部屋はちゃんとありますし、何も心配いりません」
「そうだ愚か者。私のむす…この命令が聞けんのか」
…そこまで言うか。
ならそうしよう。
「分かった。どうなってもお前の責任だぞ」
「え?はあ」
部屋に案内された。
どっかりと床の上に腰をおろして、誰からにしようか考える。
アルバートの奴は最後だ。深夜、ぐっすりと寝入っている時に襲撃をかけよう。何、いくら元団長と言えど五十を超えた隠居人で、こちらはバリバリの現役だ。勝負はあっという間につく。
アルバートが最後なら、やっぱり最初はセシルだろう。アルバートの愛息である金髪碧眼の美人。奴との力量ははっきりしている。奴は俺には絶対に勝てない。
奴の相手が終わったら、一つずつ部屋を回っていけばいい。
だが、実行に移すその前に、腹ごしらえだ。厨房で食料を補充しよう。先ほど食べた量では腹五分目にもならない。
のっそりと立ち上がり、部屋を出る。屋敷の見取り図でもどこかにあればいいが、おそらくないので侍女あたりに吐かせることにする。とりあえず廊下を真っ直ぐに歩き出す。
「うわっ、え、団長?どうしてここに?」
カモが向こうからやってきた。
目を丸くしてセシルが犬のように駆け寄ってくる。
「も、もしかして、うちの父を襲う気でした?なんて…」
何故バレた。
「す、すみません、そんな訳ないのについノリで…団長がうちにいるのが新鮮で。ああ、おばば様に公式を汚すなって散々言われているのに…」
何かを嘆いているが、気にすることはない。廊下でするのは久しぶりだが、まあいい。
セシルの細腕を掴み上げる。
「な、団長?」
口を寄せる。
「ギャアアアアア!?」
女のような声を上げてセシルがジタバタと暴れる。が、弱い。
「ウグッ…む」
驚いたように眉を上げ、必死で抵抗をする。貧弱のため意味はない。
ふと、腹に柔らかいものが触れた。
何気なく見下ろして、
「…は?」
大きく膨らんでいる胸があった。
……。
「は?」
「う、うわあああああああ」
「ぐわあああああ!?」
セシルが泣き喚くと同時に、俺も悲鳴を上げて飛び上がった。
そのまま廊下を走り抜けて鍵の空いている窓から飛び降りる。
二階だったが気にする余裕もなく着地し、地面に頭を打ち付ける。
「ぐわあああああ!ぐわあああああ!ぐわあああああ!」
いつもなら酒を飲んで夜にやらかしてそれを自省して次の日にする行為を夜中、道端で繰り返す。
地面では強度が足りないためそばにあった壁に頭をガンガンとぶつけ続ける。
ガンガン!ガンガン!
「だから言ったのに!」と悲愴な面持ちで脳内の団員達が自分を責め立ててくる。アンタは酒が入ると人が変わるわね。普段規則正しい生活してきっちり自制してる分、三大欲求モンスターになっちゃう訳よ、しかも男女見境なし…酔っ払いに絡まれても、自衛しないとダメよぉ?と諭してきた副団長の姿が目に浮かぶ。
酒を飲むと、あるだけ食料を食らい、手近な人を襲い、気が済んだら昼まで寝る。そうして目覚めた時、顔面蒼白になって自爆する。それが、第一騎士団団長、ヴィトニルの最高機密である。
「くっ…」
ずるずるとへたり込み、罪悪感で胸が締め付けられる。
セシルは女だった。どういう事情があるのか知らないが、女だった…。それをよりによって自分が暴いてしまった。清廉たる騎士団の長を務める自分が…。何という失態!
「…団長…」
ばっと振り向くと、そこに身嗜みを整えたセシルがいた。
「…すまん。本当にすまん」
それ以外に言葉が見つからない。
セシルは俯いていたが、やがて小さな声で尋ねてきた。
「団長は、私が女だと知っていたのですか?だから、あんなことを…」
「ち、違う!男女は関係なく、その…あれを…」
人生で最初に酒を飲んだのは副団長と一緒の時だったため、ぶん殴られて意識を失うだけで済んだ。しかし、副団長も自分と常に同行するわけにもいかない。故に、一部の力自慢の団員には秘密を打ち明け(その他の者には下戸だと誤魔化している)、どうしても飲まなければならない時には暴走する前に意識を奪ってもらっている。
しかしそれがうまくいかず、最後までは達しなくとも唇を奪ってしまった経験はある。その際は腹を切って詫びようとしたら泣きながら止められたので、今も恥を晒して情けで生き延びている。
セシルはプルプルと震えていたが、やがて叫び出した。
「こ、公式…」
「セシル?」
「公式だ。夢にまで見た公式。公式で、両刀…ま、まさか、本当に、公式でそんなものが実現していたとは…しかも、お酒がトリガー!仕方ない、これはもう決まりだな。団長、あなたは攻めです。全然手を出してくれないことに不安になった受けがお酒を飲ませて、そして解放されるフェロモン!めくるめく愛の一夜!翌朝、受けが満足そうに微笑む隣で羞恥に悶える団長!お酒のせいだと文句を言う団長に受けが口移しでお酒を飲ませ突入する第二ラウンド!正直に言えば私は受け派だったが、これはこれで素晴らしい。一刻も早くおばば様に報告せねば」
何てことだ。
自分のせいで、セシルが狂ってしまった。アルバートに申し訳が立たない。
愕然とする自分の手をセシルが掴み、揺らす。
「団長!」
「あ、ああ…」
「あなたは私が女だと知ってしまった。そして私もあなたがビッチだという秘密を握った。これでおあいこです。事情を知ったからには互いに協力し、良い関係を築いていきましょう」
「あ、ああ?」
「ね?」
ニコニコとセシルは笑った。
…今一度問いたい。
これのどこが、氷の麗剣なのだと。
セシル
腐女子
ヴィトニル
三大欲求モンスター
フィン
不憫系幼馴染み
アルバート
息子が生まれなかった…そうだ娘を息子にしよう
ハロルドとノエル
名もありイケメン
副団長
逆らってはいけないオカマ
おばば様
貴腐人転生者