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7話 いきなり波乱? 敵意むき出し、ギルドマスター【ゲンゴロウ】

セッカの声を遮るような叫び声とともに、ギルドの奥から初老の男が走ってくる。

小柄ながらその身につけているのは朱色の甲冑。

腰には立派な刀が刺してあり、口には胸まで伸びる二股の口髭がはえている。


「おや、いたのかゲンゴロウ」


「いたのか、ではありません姫様‼︎ 書き置き一つ残してまた勝手にギルドを抜け出して‼︎」


「我がおらんでも其方がいればギルドは回るであろう。 なんのためにギルドマスターに其方を据えておると思うておるのだ」


「それとこれとは話が違います姫さま‼︎ ギルドの象徴たる姫がいなければ他のものに示しがつきませぬ‼︎」


難しい話はわからないが、とりあえず俺は気になったことをセッカに確認をするために口を挟む。


「ギルドマスター? このおじさんがギルドマスターなのか? それにセッカ、姫様って」


「むっ、なんだお前は……その汚い身なりは、姫様のお召し物に汚れがついたらどうする‼︎ 去ね‼︎ 去ね‼︎」


しっしと犬を追い払うように手を払うおっさん。

どうやら嫌われてしまったようだ。


「どうしようセッカ」


「ふふっ安心せい。 おいこらゲンゴロウ、我が剣……【御剣】に去ねとは、随分と貴様偉くなったものよな」


「み、御剣‼︎?」


聞きなれない言葉に首をかしげる俺だったが、その言葉にゲンゴロウとよばれた男は目を丸くして俺とセッカを見比べる。


「みつるぎ?」


「ひ、姫さまお気は確かでございますか‼︎ このような氏素性も分からぬものを御剣に据えるとは‼︎」


「正気も正気よ。 こやつは我が目の前で魔獣塊、それも黒龍の首を核にした物をたやすく両断してみせた。 実力は我がこの目と身をもって体験をしておる」


「実力のみでは御剣は勤まりませぬ‼︎ 気品と風格と実力の三拍子揃いはじめて叶うお役目でございますぞ‼︎」


よく分からないが、悪口を言われたのはわかったぞおっさん。


「お行儀が良くて、無駄に賢いやつは裏切るが常。 忠義など砂上の楼閣、泡沫の夢。ならばこのような無垢な狼を従えるが正解だ、風格と気品など、無垢であればあとでいくらでも付け足せよう」


まくし立てるおっさんとは対照的に、さらりと受け流すセッカ。

まるで柳に風だなと思いながら俺はやらなきゃいいのに好奇心のままに口を挟む。


「なぁ、御剣ってなんだ?」


「御剣も知らぬとは……姫さま‼︎ 本当にお気はたしかですか‼︎?」


指をさして怒るゲンゴロウ。 しかしセッカはカラカラと笑う。


「知らぬことは教えてやれば良いのだ。 1を知って10を知る者はいるが、1をも知らずに10を知れるものなど存在せぬであろうて。 ルーシー、御剣とは簡単にいえば護衛のことよ。ただ少し特別な人間を護衛する場合にこう言った名前になる」


「へー。面倒だな」


「め、面倒だと貴様‼︎? 姫さまお考え直しください‼︎ 御剣ならば、私が必ず姫さまにふさわしきものを探し出しますから……」


「信用できぬ。 我が剣は我自らの目で見極める。 この話はしまいじゃ……こやつにギルドカードを発行せよ。ゲンゴロウ」


「うぐぐぐ……しかし」


「我の言うことが聞けぬのか?」


ぴしゃりと言い放つセッカ。

其の言葉にゲンゴロウは顔をしかめてしばらく額の青筋を浮かべては沈めを繰り返すと。


「……姫さまのご命令とあれば致し方ありません……ですが。その前にこのものが御剣としてふさわしいか、テストをさせてくださいませんか?」


そう呟く。


「えっと、入団テストなら済ませたんだけど」


「だまれぇい‼︎ 入団テスト程度で御剣になれるなら誰だって苦労はせんわ‼︎」


「なるほど……護衛は護衛で特別な仕事なんだな」


「いや、あ奴が嫌がらせしてるだけよ……まったくいい年してみみっちい……まぁしかしそれで納得するならばそれもよかろう。ルーシー、すまぬが最初の仕事だ、あのジジイに付き合ってやれ」


「ジジイ‼︎? 姫さま、幼少より世話係を任せれてきたゲンゴロウにそのお言葉はあまりにも……反抗期でございますか‼︎? 昔は、昔はゲンゴロウのお嫁さんになるとおっしゃっていらしたというのに‼︎」


「い、いつの話をしとるのじゃ貴様は‼︎ というよりもやるならさっさとテストとやらをはじめぬか‼︎」


「はっ……」


「準備って、何をするつもりだ? 斬り合いでもするのか?」


「ギルド内での抗争はご法度……いかなる理由があろうとも、ギルドの人間であるならばここでの戦いは決して許されぬ。ここは家でありここにおる者は皆家族。ゆえに、家族同士で血を流すことだけは認めぬ……頭に血が上ったとてそれを忘れる貴様ではあるまいな? ゲンゴロウ?」


「無論、心得ております」


語気を強めたセリフに、俺はセッカがどれほどここを大切にしているのかを知る。

彼女にとってここはそれほど特別な場所。


俺にはそんなものがあったことないから分からないが、でも彼女が大切にしたいと思うなら、俺はそれを壊してはいけないのだろう。


だからこそ俺は其の言葉を、馬鹿みたいに守り抜くことをきめてしまった。


「……なるほど。でも、それじゃあおっさん、戦わないなら何でテストをするんだ?」


浮かび上がる素朴な疑問。

その言葉にゲンゴロウは一瞬不敵に口元をゆるめると。


「無論、羊毛狩りよ‼︎」


勝ち誇ったようにそういった。


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