6話 ギルド【雪月花】へようこそ!
「……本当に死ぬかと思ったわ」
その後、見事ギルドとやらの入団テストに合格をした俺は、セッカとともに人間の街【リガルドへルム】へとやってくる。
本来人狼族である俺は、許可なしに立ち寄ることのできない人間の領域であったが、セッカはこの街でもそこそこ顔が知れ渡っている人間らしく、門番は人狼族でみすぼらしい俺を警戒することもなく街に入れてくれた。
俺は初めて訪れた街を口を尖らせて未だに文句を垂れてくるセッカと並んで歩く。
「聞いてるー‼︎? 本当に‼︎ 死ぬかと、思ったのじゃー‼︎」
「聞こえてるよ、っていうかそれは俺のセリフだから。ほかの入団者はみんなあれを倒してるのか?」
「まぁ、あれは最高難易度といったところよな。 龍をうまく回避し、我に触れられれば合格じゃ」
「随分簡単なテストだな。 それでよかったのか」
「簡単とかいうがの其方、あのテスト合格したもの其方以外おらぬからな?」
「そうなのか?」
「あぁ、たやすく突破するとは思ったがまさか両断するとは、ちょっとショックじゃ」
「そう言われてもなぁ」
ぶすーっとふてくされるセッカに、ルールをちゃんと説明しなかったお前が悪い……と心の中で俺は呟いてみるが。
そんなことを言おうものなら余計に機嫌が悪くなることを何となく察知できたため、それ以上は何もいうことなく代わりに街の様子を見回してみる。
街は草と森に囲まれ、緑と茶色しかなかった村とは異なり、色彩豊かに彩られた街には赤や青や黄色といった様々な色が、視界いっぱいに広がっていて心が躍る。
まるで虹の中を歩いているようだ……そんな感想を抱きながらも、セッカと一緒に中央通りを抜けていくと。
「さて、ここじゃ」
「え? ここって……」
到着をしたのは一つの巨大な建物。
中央通りを抜けた先の広場。 その中央に堂々と立つその建物の看板には大きく【雪月花】
と書かれている。
「これがギルドじゃ。 これからはここが其方の家で、其方の仕事場になるぞ」
「ギルド……なんかもっとこじんまりとした場所を思い浮かべてたけど……。俺、これからこんなところにすむのか」
待遇改善なんてもんじゃない。
村では石の家に住むことが許されるのは族長だけだったというのに。
こんなにあっさりと石の家に、しかもレンガの家に住むことが許されるだなんて。
生まれ変わったような気分だ。
「まぁ、普通のギルドメンバーであれば自分の家を持ってたりするが、其方は我の護衛だ。故にここで我と共に暮らすことになる」
「こんなおっきな家に住めるだなんて。 ありがとうセッカ、俺、あんたについてきてよかったよ」
「まだギルドの中にすら入っていないのじゃが……。 其方本当にろくな扱いされてなかったようだの。まぁいい、とりあえず中に入るぞ」
そういうと、セッカはギルドの巨大な門を開く。
「……人がいっぱいだ」
石造りの建物の中は、鏡のように磨かれた床やテーブルが並ぶ酒場。
体の大小、種族問わずに酒を飲み交わし、談笑をする人間の姿。
一番奥には、沢山のビンが並んだカウンターと、書類が大量につまれたカウンターの二つがならんで立っており、人々はそこで酒を飲んだりカウンターで書類を眺めたりとおもいおもいの時間を過ごしている。
柱や壁を見ると、そこには至る所に魔物や人の顔が描かれた紙が貼ってあり、その下には金額が書かれている……それもすごい金額だ。
「どうだ? 東洋出身の堅物が営んでいる冒険者ギルドだが、なかなかに良い場所であろう」
にやりと自慢をするように語るセッカであるが。
「たしかに……すごいよ」
騒がしくもどこか落ち着いた室内は、とても居心地がよく。
俺はそんな称賛の言葉しか思い浮かばずそのままを口にする。
「くふふー‼︎ そうであろう? 其方はやはり見る目があるの」
嬉しそうに笑うセッカ。
しかしながら俺はここで一つ疑問に思う。
ギルドというのがこれだけ大きな組織であることはなんとなく理解ができた。
となると、俺はこれからこの組織の一員となる訳だ。
「あれ? でもこれだけ大きな組織となると、いいのかセッカ? こういった組織の一員には簡単にはなれないものだろう普通? 少なくとも得体の知れない人狼族なんて、一番偉い人の許可が必要なんじゃ?」
その言葉に、キョトンとしたような表情を見せるセッカ。
その顔は「こいつ、今まで気づいてなかったのか?」とでも言いたげだ。
「其方、今まで気づいていなかったのか?」
口に出された。
「……なにをだ? まさか、お前がそのぎるどますたぁ? ってやつなのか?」
「いや、ギルドマスターではないが……だが、少なくともお主のような得体の知れない人狼族を一存でギルドに加入させられるくらいの権限はある」
「? なおさら意味が分からんぞ」
「ふむ……どう説明したものか、つまりだな……」
困ったような表情を作りながらも説明をしようとしてくれるセッカ。
だが。
「姫様あああああぁ‼︎」
セッカの声を遮るような叫び声とともに、ギルドの奥から初老の男が走ってきた。
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