4話 狼さん、理不尽な八つ当たりをしてきた族長の息子をボコボコにする
「こ、黒龍の幼体だと‼︎? それは本当かセッカ殿」
黒龍といえば、神に最も近く、時に神すらも殺すと言われる魔物であり、幼体と言えども一度人の前に現れれば街一つは簡単に消し炭にすると言われている。
「は、ははは。そうだったのか、弱すぎて間違えちまったぜ。なにせ勝負は一瞬だったからなぁ」
ガルドラは顔を引きつらせながら、わざとらしく笑い声をあげる。
セッカは変わらず貼り付けたような笑顔を続けていたが。
その表情が一瞬うんざりだ、とでも言わんばかりに歪んだのを俺の目は見逃さなかった。
「それはそれは素晴らしき力。 では一つその力をお見せ願いたいものよな」
「え?」
「人狼族の力、幼体と言えども神を食らう黒龍。その首を落とす様をぜひぜひ我に見せていただきたい。ガルドラ殿……その手に持った首を一部両断して見せてはくれぬかの?」
だらんと垂れ下がった首を指差し不敵に笑う。
「な、なんでそんなこと……」
ガルドラの額から冷や汗が滝のように流れるが。
刺すようなセッカの瞳がガルドラを射抜く。
悪魔も裸足で逃げ出しそうなほど怖い笑顔……絶対セッカは性格が悪い。
「ははは、面白いことをいうなセッカ殿。 手を組む前に力試しというわけか……見せてやりなさいガルドラ。 ワシも息子の成長を見てみたいからな」
「う、うぐぅっ‼︎?」
族長の言葉がさらにガルドラを追い詰め、ガルドラの呼吸が荒くなるのがわかる。
なんだかガルドラが可哀想になってきたので、助け舟を出して見ることにした。
「が、ガルドラはさっきの戦いで……」
「貴様は黙っていろ、なりそこない‼︎」
まぁそうなるだろうとは思ったけど。
フォローを入れようと俺は口を開くが、族長の一喝によりかき消される。
人の話を聞かないのは族長譲りなのだろう。
セッカの方を見ると、口元がヒクついている……あれは絶対に笑いをこらえている顔だ。
「ぷぷっ……こほん。 どうされた? ガルドラ殿、もしや出来ないのでは?」
邪悪な笑顔は完全に悪魔の微笑みであり、その言葉にガルドラはプルプルと震えながらも。
最後には観念したのか、叩きつけるように床にドラゴンの首を置く。
「できらぁ‼︎ やってやろうじゃねえか、出来ねえわけがねえ。 俺は次期族長のガルドラ様なんだからなぁ‼︎」
そういうと、ガルドラは自らの体を人狼へと変化させていく。
大口を叩くだけあり、実力は村の中でも一、二を争うガルドラ。
若さ故に戦術や体術はベテランの戦士に劣る部分はあるものの、その怪力と肉体の強靭さは他とは一線を画すものがあり、爪の硬度は鋼鉄をはるかに凌駕する。
その威力は、鎧を身にまとった人間を鎧ごと両断するほどであり。
「うおりゃあああああぁ‼︎」
そんな強靭な一撃を、ガルドラは全霊を持ってドラゴンの首へと叩き込む。
だが。
―――ポキン
「あ、折れた」
「なっ……なっ……」
先ほどの説明がバカらしくなるほどあっけなくガルドラの爪が音を立てて折れる。
しかも一本だけではない、ガルドラの右手の爪全てが小枝のように折れて床に転がる。
もちろんドラゴンのクビには傷一つない。
呆然とするガルドラを前に、セッカは満面の笑みを向ける。
「おやおやおやぁ? 首を切るどころか爪が折れてしまったようだのぉ? 確かに勝負は一瞬だったが」
「こ、これはどう言うことだガルドラ!?」
「ち、違う……これは、本当は……」
慌てて言い訳を模索するガルドラ。しかし弱った獲物を追い詰めるようにセッカは瞳を光らせて逃げ道を塞ぐ。
「本当は? なんだろうかの、本当は誰かほかの人間に倒してもらいました、かの?」
ちらりと俺の目を見るセッカ。 その言葉に族長とガルドラの目が一斉に俺へと集まる。
「お、おい約束しただろ‼︎? そのことは言うなって……あっ」
俺の馬鹿……自分で話してどうする。
知らぬ存ぜぬを通せば良かったのに、今の自分の言葉で完全に自分の首を絞める。
「テメエ‼︎ 計りやがったな、なりそこないが‼︎ 追放だ‼︎ いや、ここでぶっ殺してやる‼︎」
人狼の姿のまま、牙をむき出しにして迫るガルドラ。
正直自業自得にも思えるが、それでもそんな言い訳が通じる相手ではない。
それに、族長の前でこれだけガルドラに恥を掻かせてしまったのだ。
当然俺はこの後追放だろう。
牙とガルドラの残った爪が振り下ろされるまでの間の刹那。
俺は少しだけ思案をすることにした。
まず、このまま気分良く殴らせてもきっと追放は変わらない。
恨みを込めてセッカを見るが、気分良さそうにコロコロと笑うその表情は約束を破った反省どころか満足げだ……この野郎。
こうなると痛い思いをして追放されるか。
抵抗をした後に追放されるか二つに一つ。
「……よし、潰そう」
ならば当然、最後くらいは自分の満足できる行動を取ろうと、俺は銅の剣に手をかけ。
今までのお礼も込めて、俺は銅の剣を抜き、迫る左手の爪全てを丁寧に切り落とす。
「へ? なっ……ぶっふおおぉ」
あの程度の硬さのドラゴンの首すら落とせない爪など小枝同然であり、呆然とするガルドラの顎を鞘で思いっきりぶっ叩く。
鈍い音が響き、牙が音を立ててボロボロと崩れた。
うん……もう失うものがないって思うと意外とスッキリするものだ。
武器を使って卑怯かもしれないし、誇りもないかもしれないが、もうこの村にいられなくなるならそんなものに縛られる必要もない。
「な、なんで……なんで俺が、なりそこないなんぞに」
涙目で床を転がりながらそう零すガルドラ。
「さぁ、武器を使ってるからじゃないか? それよりも覚悟はいい?」
「ひっ‼︎? た、助けて……助けて‼︎?」
「ダメだね」
そんなガルドラに対して俺は率直な感想を述べ、戦いという名の蹂躙をガルドラが意識を手放すまで続けたのち、泣き叫びながら止めに入った族長の命令により、晴れて村を追放されることになる。
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