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34話 災禍

「貴様……」


ポツリと部屋の中に呪いが落ちる。


「‼︎?」


それと同時に捲き上るのは怨嗟の炎であり、狐の尾を纏わせた黒龍がハヤブサの眼前にて大口を開ける。


「お、おいセッカ‼︎?」


「あらあら、用済みになったら殺してまうの? これがギルド雪月花のやり方かぁ。あなおそろしや、あなおそろしや」


「デタラメを抜かすと脅しではなくなるぞ……ハヤブサ。足先から灰になっていくのは嫌であろう?」


「べっつに、人の世はいつも泡沫の夢。いつ死のうが僕には関係ありまへん。人をころすのが好きなんや、人に殺されるのも同じくらい好きやなきゃ釣り合いがとれへんやろ?」


「狂人が……貴様などに時間をさいた我の愚かさを呪うよ」


「あははは、狂人いわれるんは慣れてますがな……せやけど、嘘つき呼ばわりされるのはどうにも堪忍ならん。 堪忍ならんからさぁびすでさらにもう一つお話をしてあげまひょ」


「聞く耳持たん……」


全身の毛を逆立てて怒りをあらわにするセッカ。 しかしその表情すらも楽しげにハヤブサはカラカラと笑う。


「まぁまぁそう言わんと、聞くだけただやろ? まぁ聞かんっちゅーても勝手に喋るんやけどな。 君のお父はん、ヨタカ様は今もまだ狐の尾をさがしとる。 すでにその手に収められているのは三本。 今頃はきっと、東の関所を通ってこっちに向かってると思うよ?」


「……東の関所って……確か今朝……」


「あら? 情報はいっとった? いやはや、ヨタカ様行動派手やからなぁ。せっかく僕が隠密行動しても何もかも台無しにしてしまうんやものなぁ……はぁやれやれや」


俺は今朝おっさんから聞いた話が頭によぎる。


東の関所が、何者かに両断された。


ありえない与太話かと思ったが……それが狐の尾をもった誰かの仕業だというのであれば話はわかる。


だが、問題はそこではない。


「お、おい待てよあんた。 さっきから聞いてりゃ、まるでセッカの親父さんといっしょに行動してるみたいな口ぶりじゃねえか?」


「ははっ‼︎ そりゃぁもちろん行動しとりますよ? だって僕、ヨタカ様の御剣やもの。やなかったら、クビになった職場の上司に様なんてつけへんやろ?」


「なっ‼︎?」


セッカは驚愕に瞳を見開き、龍を押しのけてハヤブサの胸ぐらを掴む。


「本当に……本当にお父様がいきているのか‼︎? お父様がいきて……本当に国を……お母様を殺したとのたまうのか貴様は‼︎」


明らかに混乱をしている状態。

セッカは取り乱しながらも、思いの丈をハヤブサにぶつける。


「セッカ‼︎ 落ち着けって」


今にも首を絞め殺しそうな勢いのセッカに、俺は止めようとセッカにふれるが。


「そなたは黙っておれルーシー‼︎」


セッカは腕をふるって俺のことを撥ねとばす。



「くっくくく、やっぱ女の子はからかうとおもろいなぁ。 あの人と同じで、見た目は優しそうなのに、仮面ひっぺがしてやったらそらもうどす黒いものドロドロやないかセッカはん。隠れ刀、鷹の爪にいた時はそら退屈で退屈で仕方なかったけど、あの日自分の国沈めた時のヨタカ様の狂った顔……今のあんた、そっくりやで?」


「お父様が、お父様がそんなことするわけなかろうが‼︎ 誰よりも、誰よりも国を愛し、厄災から世界を守ると言っていたお父様が……そんなこと」


「狐の尾は人を狂わせる。どれだけ人がよかろうが、どんな世間知らずのお姫様だろうが、魅入られてまえばただの厄災に堕ちる。現に、一国の姫さんであるセッカはんだって、ぼくの首を締めて殺そうとしてるやないか……そこになんの違いがあるん?」


「え、あ……うそ……」


胸ぐらを掴んでいたセッカの手は、気がつかぬうちにハヤブサの首に伸びていた。

セッカがハヤブサを殺そうとしたとは思わない。 セッカの恐怖に青ざめるような顔を見ればそれはわかる。


激情し、偶然手が首に伸びてしまっただけ。


ただの偶然。


だが、もしそれが狐の尾が導いたのだとしたら。


ガルドラのように、すでに狐の尾に飲み込まれかけているのかもしれない……。


「セッカ……」


「あっ……うぅぁ」


セッカも同じ考えに至ったのか。


力なくその場に座り込むと、恐怖に怯えるように自らの手をじっと見つめ、カタカタと震えだす。


「あらら、ちょいと意地悪しすぎちゃったかな? まぁええわ。 君たちが勝つにせよ、ヨタカ様が勝つにせよ……どちらにせよもうじき九尾は完成する。君たちは九尾を手に入れて何をするつもりなん?」


「……」


セッカは震えたまま答えない。 答えられない。


「九尾を封印する。それがセッカとこのギルドの使命だって聞いた」


だから俺が代わりにそう答えると。


「封印……へぇ、そう」


「何か変なことを言ったか? あんたのいう通り狐の尾っていうのは世界にあっちゃいけないものだ」


「いや、変なことは言うとらんよ? ただ、気になってなぁ」


「何が?」


「あれだけの呪いの塊、確かに今まで封印できてたんやから封印自体はできるんやろうな。せやけど……一つあるだけで人を狂わす呪いの塊よ? そう簡単に行くものかね?」


「何が言いたいんだよ、回りくどいぞあんた」


「ははは、それが分からんから回りくどいんや、ただいつの世も大事をなす時に犠牲はつきもの。 だから、後悔だけはしないようにな?」


「?? よく分からないが、忠告は覚えておくよ。ありがとうハヤブサ」


「どういたしまして……」


ニヤリと口元を緩めるハヤブサに礼を言い、俺はセッカを連れて医務室を出たのであった。




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