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20話 なりそこない。 丸呑みセッカ救出大作戦

「セッカ‼︎」


「あ、あのバカ‼︎? だから油断すんなって言ったのに‼︎」


飲み込まれていったセッカを救出するためフェリアスは剣を抜き、俺もそれに続くように剣を抜く。


だが。


【あlk;はふぁkljふぇkj‼︎】


魔獣塊は不気味な音を立てると、セッカを飲み込んだまま村の中へと引っ込んで行く。


「に、逃げた‼︎? お、おい。 魔獣塊って知能なんてないんじゃなかったのかよ」


仮に待ち伏せが偶然だったのだとしても、剣を構えた俺たちから逃走した泥の行動は、間違いなく知性が確認できる動きだ。

俺は話が違うとフェリアスを見るが、フェリアスも慌てた表情を見せている。


「いや、まぁ見たことはないけれど。文献上はいないわけではないんだけど……ってかそんなことよりも追いかけるわよ‼︎ ご主人様‼︎」


「あぁもうなんだか嫌な予感がするぞまじで‼︎」


セッカを飲み込んだ泥の後を追いかけるフェリアスに、俺はそう悪態をつくように叫んで人狼の村へと入る。


「うっ……ひどい」


「そんな……飲み込まれたって……本当だったんだな」


村の中は文字通り泥に飲み込まれていた。


俺の記憶の通りに立っている建物は何一つなく。 代わりに建物だったものの残骸が村の中央に集められるように泥まみれになって固まっている。


中央に集まる水たまりならぬ泥溜まり。

きっとこの泥が村中を駆けずり回り、民家を一つ一つ丁寧に、しかし確実に飲み込んで肥大化をしていったのだろう。


今、泥は村の中心から入り口付近までひろがっており、まるで一匹の巨大なスライムが如く、中央付近は呼吸をするように盛り上がったり沈んだり泡を吹き出したりをしている。


呼吸でもしているのだろうか?


「これ以上ないってくらいひどい惨状ね……全滅とかいう陳腐な言葉は使いたくないんだけれども……。 全滅って言葉しか思い浮かばないわ」


フェリアスは顔をしかめながらも、泥の中を歩いていく。


「お、おい。 そんなに泥の中を歩いていっていいのかよ。 魔獣塊ってやつは危険なんじゃなかったのか?」


「それは核に近い部分の話よ。 泥は狐の尾が宿主にした人間の老廃物みたいなものだから。

泥自体にはさして毒性があったりするわけじゃないの。 死ぬほど不衛生だけどね」


「老廃物?」


「そう、狐の尾っていうのは、宿主を見つけるとその体を乗っ取って新しい九尾の狐を作ろうとする。 実力や精神力、呪いや穢れに対する耐性が高ければ呪いに飲み込まれることはないんだけれども、一度飲み込まれれば最後。 体がどんどん狐になろうとする。 体の代謝は異常なほど早まり、ありえない形に肉や骨はドロドロに溶けて新しく作り変えられる」


「全然作り変えられているようには見えないけどな」


「ええ、もちろん。呪いに体を奪われるような存在が九尾の尾の願いを叶えることができる訳ないもの。 そういうのはただ呪いに飲み込まれて、呪いと泥を生み出すだけの災厄になる。そうしてなってしまったらあとは、近づくものを飲み込みながらに泥を生み出すだけの化け物さ」


「……うぇ」


俺は想像しただけで吐き気を催す。

森で見た、いろいろな魔物が複合されたような姿の泥の塊。


目の前にある泥はただの泥だが。森の魔獣塊は一体どれほどの被害をうみだしていたのだろう。


今まで気にしてはいなかったが、魔獣塊という存在の恐ろしさがひりひりと伝わった。


と。


【ああああぁぁぁ……】


不意に足元の泥から不意に手が伸び、俺の足を掴む。


「なっ‼︎? ななななな‼︎」


泥の深さは足首程度。

しかしその腕は深い泥のそこから這い上がるように伸びてきている。


「きゃっ‼︎? きゃあぁ‼︎ 何よこれぇ‼︎」


「フェリアス‼︎」



気がつけば俺たちが歩く泥一面に腕が生え、海藻のように揺れており、フェリアスもまた無数に泥から生える腕にその足や服を捕まれ、泥の中に沈みそうになっている。


「くそ‼︎ どうなってんだ一体‼︎?」


俺は手にもっていた剣で泥から生える腕を切り落としてみるが。 死んではまた生まれてくるかのように、泥の中から生えてくる。


「ら、拉致があかない‼︎」


フェリアスはそう叫び、自ら剣で足を掴む腕を切るがそれでも腕はさらに伸び、フェリアス、そして俺のことを泥の中に引きずり込もうとしてくる。


「お、おいおい‼︎? これ本格的にやばいぞフェリアス」


「あぁもう仕方ない‼︎ ご主人様、合図するから一瞬だけ跳んで‼︎」


「跳ぶ? なんで?」


「いいから‼︎ 私を信じて‼︎ いくわよ、3……2……1‼︎ 跳んで‼︎」


「ああぁもう‼︎? なんなんんだよ‼︎?」


フェリアスの言葉の足らない説明に俺は苛立ちながらも、俺はなにかをしようとしているのが理解できたため、言う通り周りの腕をすぐさま切り落としその場でジャンプをする。


と。


【アイスエイジ‼︎‼︎】


フェリアスの身につけているペンダントから膨大な魔力が放出され、同時に足元の泥を全て氷漬けにする。


「お、おおおぉ‼︎? や、やったなフェリアス」


氷漬けにされた腕と泥は、流石にこれ以上動くことはなく、俺は氷の上に着地をすると惜しみなくフェリアスをたたえる。


「大したことじゃないわ……だけど、あの腕は一体……っ‼︎ 避けて‼︎」


不意に響くフェリアスの声。

俺はその言葉に反射的に前方に跳んで、回避行動を取ると、「チッ」と頭を刃のようなものが掠める音がする。


「なっ……なっ、なな‼︎? 一体なんだ‼︎」


完全な不意をついた一撃に俺は慌てて背後を確認すると、そこには水たまりより少し大きい程度の泥溜まりがあり、その泥溜まりからカマキリの鎌のようなものが伸びている。


やがて泥溜まりは鎌を吸い込むように吸収すると、なにやら泥人形のように、人の形へと変ぼうする。


ぽたぽたとどろを垂れ流しながらも、人のように、人の形をしてなにやらこちらの様子を興味深そうに伺う泥人形。


それは、子供の無垢な姿と、子供の残酷な姿を両方混ぜ合わせたかのよう。


「あれは……」


その存在を前に、フェリアスは苦虫を噛み潰したような渋い顔をする。


「知ってるのかフェリアス?」


「いやね……見るのは初めてだけど、ごく稀に、本当に一握りなんだけれど。 魔獣塊が知性の多い存在を飲み込み続けた場合……ああして泥も操れるようになることがごく稀にあるって、文献で読んだことがあってさ」


「そんな奴がいるのか?」


「あぁ、人間と同等の知識を有する魔獣塊。文献で見ただけだから見るのは初めてだけど、

そいつらはこう呼ばれてた。【なりそこない】ってね」


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