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2話 狐娘を助ける狼さん、目をかけられる。

「悲鳴? でいいんだよな……」


悲鳴というには聞きなれない叫び声であったが。

その声は紛れもなく女性のものであり、俺はロングソードを抜いて森の奥まで走っていく。


と。


「なんだ、あれ……」


森の奥、普段であれば動物達が水飲み場として活用をしている泉にいるのは、巨大な大角を生やした真っ黒な魔物。


ドラゴンにもミノタウロスにも見えるし、その両方が混ざり合った存在にも見えなくもなく、体からは触手のようなものがうねうねと伸びて蜘蛛の巣のように木と木の間にへばりついている。


「なんか……ヤバい奴いる」


人狼としての本能か、それとも見た目が生理的に受け付けないのか、俺はゾワゾワと体が総毛立つのを感じ、これからこいつに追い回されなければならないという現実に肩が重くなる。


なんか口?からポタポタ黒い液体が溶けてるし……泉の水もピンクがかった灰色になってるし……。

食べたらお腹を壊しそうだ。


と。


「ち、近寄るでない貴様ぁ‼︎ 我を誰と心得ておるぅってそ、そのドロドロを近づけちゃだめええぇ‼︎」


先ほどの悲鳴の主だろうか、泉の近くで見慣れない耳を生やした女性がその魔物に襲われている。


見たこともない服は昔本で読んだ東洋の服だろうか?


「あ、まずい」


そんな余計な思考を巡らせていると、目の前の女性にドロドロとした太い触手が伸び、先端が大口を開ける。


「にょおおおあああ‼︎? ま、丸呑みはいやじゃああぁ‼︎」


悲鳴をあげて身じろぎをするが、腰が抜けてしまったのだろう。

なす術もないその姿に俺は一瞬だけ助けるか否かを悩み、助けることにした。


「へっ?」


ロングソードを引き抜き、触手に一太刀。

バッサリと切れた触手は少女の目の前に落ちると、煙をあげるように消滅していく。


「大丈夫? 怪我ない?」


「え、お主一体……というか切……?」


「話はあと」


「ぎゅああらあらら‼︎?」


呆けたようにぽかんと口を開ける少女と対照的に、怒り狂うように触手を蛇の首のように持ち上げる怪物。

見れば切り落とした触手も切った先端から再生を始めている。


正面から見るとドラゴンの頭に、ミノタウロスの体が混ざったようななりをしており、余計に気持ちが悪い。


「い、いかん‼︎? あれの場合は首を落とさない限りいくらでも‼︎?」


「首落とせばいいのね、ありがと」


「へ?」


弱点を親切に教えてくれた女性に俺は手短に礼を言うと、そのまま触手をかいくぐって首まで走る。


当然迎撃するように触手はまっすぐ俺を狙うが、そんなもの止まったようにしか見えない。


俺は体の一部……足のみを人狼変化させて力を込め。


「地歪み」


爆ぜる。


触手が伸びきるよりも早く、反応するまもなく、魔物の眼前に躍り出る。


魔物をおびき出すのが役目だが、首だけもらえれば満足するだろう。


「ギャオレアァ?!」


「悪いな……でも森の動物食い尽くされるとこっちも困るんだ」


刃を通し、丸太程度の太さの首を真っ二つに両断をする。

一瞬で切り落としたから、きっと痛みは感じていない……筈だ。


「うそじゃろ……あれを、あんな錆びた剣一本で?」


女性の言う通り、首を切り落とすと触手やドロドロとした体は力を失ったかのようにぼたぼたと泉に溶け込んで行き、その姿を消し、泉からは腐った動物や小鳥たちがプカプカと浮かび上がってくる。


「よかった、首は溶けないみたいだ」


体とは異なり、魔物の首が形を保ってくれていたのは助かった。

もしこれで首まで溶けてしまったら、ガルドラになんて説明したらいいかわからないところだった。


「魔獣塊をそんなもので倒すとは、お主一体どこのギルドのものだ?」


「ギルド、なんだそれ? 」


首の無事を確認したのち、腰ヒモにくくりつけていると。

襲われていた少女は訝しむような表情で俺にそんな聞きなれない言葉を投げかけてくる。


ふさふさの耳をはやした少女は、年齢にして10代後半程度だろうか? 白と赤色の東洋の衣装はこの辺りの人間ではないことを物語っており、色々とよくわからない少女と聞きなれない言葉に首をかしげる。


「ギルドを知らない? となるとその耳、人狼族の戦士か。 しかし、人狼族といえば武器は使わず己の肉体のみで戦うのが誇りだと聞いたが」


「あぁそうさ。 だけど見ての通り俺は人狼変化をしても爪も牙も生えてこない出来損ない、村では人モドキなんて呼ばれてるよ」


「それだけの腕を持ちながら出来損ないとは謙遜にしか聞こえないの」


「どれだけ強かろうと、武器を使うのは臆病で弱い奴のすることだ。 だから今日もこの魔物をおびき出す囮役をやらされた」


「で、容易くその魔物を屠ったと」


「こいつが弱くて助かった」


「弱い……ねぇ」


「?……あんた、うちの村に用があるのか?」


「ん? まあの……ここを通るのが安全な近道だと教わったのじゃがあの始末よ」


「あいつが出るようになったのは先週からだ。まだ残りがいるかもしれないし、村まで案内するよ」


「良いのか?」


「あぁ、ここからなら西門が近い。 だけどそのかわり条件がある」


「条件? まぁ助けてもらったしそうだろうな……金か?」


「いや、そんなものいらない。どうせ持ってたって族長たちに取られるだけだ」


「では何を?」


「条件っていうのは俺がここにいたことを誰にも言わないで欲しいってこと。本来この森は立ち入り禁止だから……バレたら飯を食えなくなる」


「?異な事を、その脅威を取り除いたのだし、我がその証人になったほうが其方の利になるのではないか?」


「そんな事をしたら村に居られなくなる。この魔物は族長の息子ガルドラが倒したことにしないと……本当は森の外までおびき出してガルドラたちが倒す筈だったんだ。 だけどあんたを助けるために殺してしまった。 あんたが黙ってればまだガルドラが倒したことにできる。そうすれば、手柄を横取りされたってガルドラにいちゃもんをつけられて村を追放されることもない」


出来るだけ簡潔にわかりやすく説明をしたつもりであったが、目の前の女性はさらに怪訝そうな表情をして首をひねる。


「変な話よなぁ〜。 其方が倒したのなら其方が賞賛されるべきであろうに」


「しつこいな、そうすると村を追い出されるんだ。 族長の息子にはその権利がある。理不尽だけど、ここを追放されたらどこに行く当てもない……こんな、なりそこない受け入れてくれる集落なんてないんだから」


「そうなのか? なら、今よりはるかに高待遇な場所が其方を受け容れるって言われたらどうする?」


「そりゃ行くに決まってるさ……でもそんな夢物語はみないことにしてる。ほら、お喋りはここまでにして行くぞ。あんまり遅いとガルドラたちに怪しまれる」


「ほっほーう、そうかそうか。 では案内してもらうとするかの……えーと」


「ルーシーだ」


「そうか、ルーシーか。 いい名だの‼︎ 我はセッカじゃ。よろしくな、ルーシー」


なにが楽しいのか、鼻歌を歌うセッカ。


そんな不思議な女性に俺は首を傾げながらも、森を抜けた先にある西門まで女性を送り届けた後、森を通ってガルドラの元まで戻る。


「そういえば……名前褒められたの、初めてだな」


理由は分からなかったが、気がつけば俺も知らずのうちに鼻歌を口ずさんでいた。



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