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12話 セッカのライバル? 王女フェリアスの襲撃‼︎

「くくく、まさか風呂場で腰を抜かすとはなぁ。 ひさびさに見ていて滑稽であったぞ? ルーシー」


「くっ、笑うなっての……」


「これが笑わずにいられるか。 弱いとまで言っておったのに腰を抜かすんだものなぁ、ぷっくく」


「性悪め」


その後、十分体の汚れを落とした俺は、セッカにからかわれながらも森を歩き帰路につく。

セッカは腰を抜かして溺れかけた俺が面白かったらしく。

風呂から上がった今でも思い出してお腹を抑えている。


「ふっふふ、そう怒るなルーシー。温泉、溺れるくらい気持ちよかっただろう?」


「くそ、あんたいつか痛い目見るぞ」


「くふふ、その時は其方が守ってくれるのだから、なにも心配はいらぬだろ?」


「口の減らない奴め」


「はっはっは、口先一つでギルドを立ち上げた人間を舐めるでない。其方なんぞ逆立ちしたって勝てるものか」


自慢げに笑うセッカに俺は口を尖らせて抗議をしてみるが、当然のことながら逆効果。

勝利に酔いしれるかのように、夕日を背に鼻歌なんかを歌いだす始末だ。


全く忌々しい限りであり、俺は自然と深いため息が漏れ出してくる。


「はぁ、しかし結構な時間温泉に浸かってたけど誰も人来なかったな。あれだけいい温泉なら、もっと人が立ち寄ってもおかしくないのに」


「そりゃこんよ、だってあれ私有地だもん」


「え? セッカの?」


「いんや、他人の」


当たり前じゃろ? みたいな顔して首を傾げてくるけどセッカ。

それ犯罪ですよね。


「おいおい、いいのかよ。それって不法侵入って奴じゃないのか?」


「いいのいいの、そこの奴とはちょっとあってな」


「あ、なんだ仲がいいのか」


「殺してやりたいくらいの犬猿の仲だ。だからいつも嫌がらせに勝手に使ってやってるのじゃ」


「だめじゃねえか‼︎? というか嫌がらせがみみっちいなアンタ‼︎」


「な、雇い主に向かってみみっちいとはなんだみみっちいとは‼︎? 嫌がらせをしながら自分たちの利も得る、そこは頭いいというべき場所だろう‼︎」


「えー……」


俺の中のセッカのイメージに、【みみっちい】が新しく登録される。

ちなみにそれ以前に登録されているイメージは他に悪女、性悪、ロクな死に方をしない奴。であり、今のところ8対2でネガティブなイメージの圧勝だ。


「なんじゃ、何か文句あるのか? お前だってここの森の持ち主のことを知れば、我と同じような考えに至るさ。 ここの土地の所有者はな……」


「あら、私がどうかしたのかしら? セッカさん?」


「げっ……」


森の中で悪口を垂れようとするセッカ。

しかしそれを遮るように森の中に凛とした声が響き、同時にセッカは心のそこから嫌そうな表情を見せる。


「……誰だあんた?」


「それはこちらのセリフよ。 私の私有地に勝手に入って、誰だは随分とご挨拶じゃない」


森の中をかき分けて出てきたのはひとりの少女。

青い服を身にまとった栗色の髪の少女。

その腰には細身の剣が刺さっており、胸にはミスリルだろうか? 宝石のように輝く鎧を身にまとっている。


よく見ればその左右には鎧を着た騎士が立っており、クロスボウなものでこちらを狙っている。

俺はセッカを守るために剣を抜こうとするが。セッカはそれを片手で静止して前に出る。


「これはこれは、リガルドヘルム王国のジャジャ馬姫、フェリアス様ではないか。 こんな森の中に一人でどうした? 虫取りか?」


「誰が虫取りなんぞするか‼︎」


「失礼、熊狩りだったか。聞いておるぞ? 見合い相手の前でクマを素手で殴り殺して見せて破談になったらしいな?」


「素手じゃないわよ‼︎ へんな噂流すなっつってんでしょ‼︎」


素手でなくても殺しはしたのか。


「そうだったか、それはすまんかったな。 それで、どうして其方がこんな辺鄙な場所に?」


「白々しさもそこまでいくと清々しいわね、セッカ。アンタが呼び出したんでしょうに……わざわざお気に入りの温泉の結界分かりやすくめちゃくちゃに破壊して、私が来るまでゆうゆうと温泉に浸かって待ってるなんて。 どこまでふてぶてしいのかしら?」


「おやおや、結界など貼ってあったとは知らなんだ……あまりにもお粗末すぎて気がつかなんだよ。フェリアス様」


挑発をするように鼻で笑うセッカに、フェリアスと呼ばれた少女はセッカの発言ごとに青筋が一つまた一つと増えていく。


「え、えと。 セッカ……あんまり怒らせないほうが」


「黙っておれルーシー、これはあやつと我の真剣勝負なのじゃ」


「だいたい、そこの小汚い犬は何よセッカ?」


セッカをなだめようとするおれに、刺すような冷たい視線が走るが、セッカは鼻を鳴らす。


「こやつはルーシー、我の御剣よ」


「御剣ぃ? あなた気は確か? 御剣っていうのはね、一国を背負うものにのみ許される特別な護衛のことを指すのよ? 国のないアンタに、御剣なんているわけないじゃない」


「むっ……」


「え? セッカ……国がないってどういうことだ?」


「あら、アンタ何も聞かされてないの? きっとこいつの口八丁にだまされたのね、お気の毒に。この女の国はね、九尾の封印を解かれたと同時に、その恨みをかって滅ぼされたの。国も民も権力も何もかもなくして、だけどその女は全てを取り戻すために、狐の尾を欲しているのよ」


「……そうなのか? セッカ」


「はぁ、まぁ国が滅んでいると黙っていたのは事実よ。言ったところでせんなきことだからな。だが一つ違うのは、九尾の封印はわが月白家の使命であるから……国の復興は悲願ではあるが、貴様のように狐の尾なんぞに頼らなくても自力で成し遂げて見せるわ」


「ぐっ、口の減らない……わたしからまだ尾っぽの一本も取り戻せてないくせに……前に負けた時の罰ゲーム、一週間城のトイレ掃除だったかしら? 随分と気に入った見たいね?」


そういうと少女は剣を抜く。 その額には青筋が浮かんでおり、セッカはその姿にニヤリと口元を緩めると一歩下がる。


「くふふっ。吠えずらを書くのは貴様の方よ。 今日は我が御剣が相手をする、前のようには行かぬぞ?」


「はっ、そんなひょろくて小汚いのがわたしの相手になるとでも? 負けすぎてとうとう頭がおかしくなったようねセッカ……仮にも御剣とこの男をいうなら、その責任は剣の持ち主であるアンタが負うのよ?」


「もちろんお主がルーシーに勝てば、潔く負けを認めよう。メイドだろうが奴隷だろうがなんにだってなってやる」


「ふふふっ、言ったわね? わかったわ、軽くひねってあげる。わたしが負けたらいつもの約束通り、この剣に宿った狐の尾をあげる」


そういうと、フェリアスは剣を抜きおれに向けて構える。


腰を落とした状態、後ろ手に構えられた剣……無駄のない構えに、途端に研ぎ澄まされる呼吸。


その姿だけでも無駄ない達人の領域。

だがそれだけではなく、フェリアスの剣かららは異様なまでの殺気と血の匂いが漂ってくる。


その立ち姿を見た瞬間、本能が「こいつは危険だ」と告げる。


「勝負は武器を破壊するか相手に参ったと言わせるまでだ、これでも相手は一国の姫、間違っても殺すなよルーシー?」


念を押すようなセッカの言葉に、俺は一つ頷き銅の剣を構えるが。

フェリアスは驚いたような声をあげた。


「アンタ、ふざけてんの? そんな剣でどうやって戦うっていうのよ」


「悪いけど、剣はこれしか用意はない」


「はぁ……本当滑稽で笑えてくるわ、セッカ、本当にアンタおかしくなっちゃったみたいね。

いいわ……こんなのに負けるぐらいなら、わたしだってメイドだろうが奴隷だろうが何にだってなってやるわよ」


にんまりと満足げに笑うセッカ……俺はその表情に青ざめる。


一体いつからこいつはこの展開を予想していたんだろう……。


女って怖ぇ。


「くくく、能書きはいいからさっさと始めるぞ。いいなルーシー?」


含み笑いを浮かべるセッカに、もう勝った気で剣を向けてくるフェリアス。


俺はそんな怖い少女二人の間に挟まれながら一つため息をつき。


「いいよ、始めてくれ」


銅の剣を構えて合図を待つ。


「……よし、それでは。 両者、いざ尋常に、勝負じゃ‼︎」


セッカの掛け声。


【アイシクルニードル‼︎‼︎】


その言葉と同時に、俺の目の前に突如巨大な氷柱が襲いかかるのであった。


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