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幕間 プロローグ2(芭風やよいの場合2)


「……もう、大丈夫です。ありがとうございます」


 やよいはそう言って、顔を上げる。

 すぐ近くには、金髪の美女の顔があった。


 やよいはその後、緊張の糸が切れたのか、大きくなってからは記憶にないほどに大泣きし、彼女にしがみついていたのだ。


 彼女がやよいに対して優しく声をかけ、いたわるように頭を撫でてくれたため、ついつい無遠慮なことにしてしまった。

 また、赤ん坊のように大泣きしてしまったことも手伝って、やよいの顔は耳まで赤く上気した。


「それはよかったです。……私の名前はエイヴァ・ソーダー。失礼ながら、あなたのお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」


「え、えっと……私の名前は芭風やよいと申します。芭風が苗字になります」


 そこまで答えると、やよいは自分が未だにエイヴァにしがみついていることに気づき、目を回すように慌ててその手を離した。


「あ、す、すみません! こんな、しがみついてしまって!」


 するとエイヴァは微笑みながら。


「いや、構いませんよ。女性に胸を貸せるのは騎士の誇りです。それよりも、ここは浅いとはいえ魔の領域。いささか危険故、早く帰還するとしましょう。ついてきていただけますか」


「は、はい、分かりました。ありがとうございます」


 エイヴァは小さく微笑むと、灰色の鎧たちへ指示を出す。


 それは帰還の指示だったが、やよいの耳にはその言葉は日本語に聞こえた。

 今更ながら、明らかに日系ではない金髪の女性が日本語を話し、空飛ぶ鎧たちがそれを理解しているような光景にひどい違和感を持ったが、今はそれを頭の隅へと追いやる。


「それではハナカゼさん。今から基地へと帰還する故、それについてきていただけますか?」


 その言葉と同時に、エイヴァについてきていた一人の灰色鎧が、背中にあるバックパックのようなものから、直径一メートルほどの銀色の円盤のようなものを取り出し、地面へと置いた。


「それは救命活動用のポッドでして、それに乗れば私たちと共に移動することが出来ます。それの上に乗ってください。それと、それに乗るときは、体を動かさず、じっとしていてくださいね」


「は、はい」


 やよいは少し戸惑いながらも、エイヴァに言われたとおりに円盤の上に乗る。

 すると、円盤から球状に透明の水色の膜のようなものが発生し、徐々に上へと広がっていく。


 想像できないことが起こり、やよいはいささか戸惑ったが、エイヴァの言い付けどおり、不用意に体を動かすことはしなかった。


 しばらくして、水色の膜はやよいの体をすっぽりと囲うような球状となった。

 興味を惹かれて膜を指でつついてみると、まるでガラスのような硬質な触感が返ってくる。


 不思議な経験に感じて、ついつい水色の膜を何度もつついてしまうが、そこでエイヴァからやよいへ声がかかった。


「その中にいれば安全です。これから私たちの基地へ飛行してお連れします。しばらくご辛抱ください」


 密閉空間にいるにもかかわらず、僅かにもくぐもった様子のない声を聴いて、もう何度目かも分からない驚きを感じるが、それは胸の奥にしまって彼女の言葉に頷く。


 エイヴァは声を上げ、地面から中へ浮く。


 すると、やよいの救命ポッドもそれに合わせて浮上し、遂には遠くが見渡せるまでの上空へと至った。


 高い。落ちそうで怖い……

 頼りになりそうなものは、今立っている銀色の円盤だけ。

 それ以外は水色透明のガラスのようなものだけ。


 それもやよいのまったく知らないであろう原理で浮かんでいるのだ。


 どうしよう。

 高いところは苦手じゃないけど、それでもこれは怖すぎる。


 足が震えてへたり込む。

 自分が落っこちるさまをしっかりと想像してしまった。


 ――でも、エイヴァさんは大丈夫って言ってた。だったら私はそれを信じるだけ。


 やよいは覚悟を決めると、周りを見渡す。


 オレンジの鎧――エイヴァと、灰色の鎧の計五人が周りを飛んでいる。

 それはちょうど、やよいを中心に円を描くような配置をしていた。


 ――守ってくれているんだ。


 心が温かくなった。


 そして、六人はゆっくりとオレンジの鎧を先頭にして前へ進み始めるのだった。



お読みくださりありがとうございます。


まだ、終わりません……

しかし、次話で別視点は終わりです!

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