幕間 プロローグ(芭風やよいの場合)
一週間お待たせしました。
これだけ待たせて今回別視点です。
この主人公洞窟内にしかいないので、そろそろ世界観だしとかんとなーと
あと、ちょくちょく出ていた魔力、気力、霊力の役割も出したいと思います。
芭風やよいは高校で授業を受けていた。
うららかな平日のお昼時。
カーテンの空いた教室の窓からは柔らかなお日様の光が差し込んでいる。
スピーカーから響くチャイムの音。
授業の時間が終わった合図だ。
今は四校時目がちょうど終わったところ。
やよいのお腹は、その中が空っぽであることをとても主張している。
さすがにお腹が鳴ることは無かったものの、もしそうなっていたらとても恥ずかしい思いをしていたところだ。
まあ、仮にそうなっても、気合でそんな音は封じ込めてみせるが。
青春真っただ中の女の子にとって、そんなことは造作もないことである。
それでも、空腹で授業の集中が途切れかけていたことも事実。
やよいはいそいそと、その長く滑らかな黒髪を揺らしながら、カバンの中から今日持ってきたお弁当を探す。
そして、目的のものを見つけ出すとそれを掴み、鼻歌でも歌いそうな心地で、クラスの友人のところまで歩いていく。
その柔らかい笑顔につられて、クラスの男子の多くがやよいの方に顔を向ける。
やよいは、少なくとも十人中九人が振り向くほど顔の整った美少女だった。
「やよいはさー、自分の容姿に対して鈍感だよねー。やよいのその笑顔でいったい何人の男子が不幸になることやら」
そう言って目の前でニヤニヤしてくるのがやよいの友人の加賀真璃。
実に楽しそうな表情だ。
やよいは心持ち小さな声で言葉を紡ぐ。
「いや、私もそのくらい分かってるよ。……その、自分の容姿が平均より優れているってことくらい。でも、そういうの……あまり必要以上に意識しないようにしてるってだけ」
「ふーん……、ま、それは別にいいんだけどサ。取り合えずメシ食おうぜ、メシ!」
真璃はいい笑顔でそう言って、自分の手の持つお弁当箱をやよいに見せつけた。
「別にいいって……まあいいけど。お昼にしよっか――」
――そのとき。
教室内が、強烈な光に包まれた。
――なに、これは。
それは余りに唐突な出来事で。
やよいは何もすることが出来なかった。
そしてその視界が真っ白に染まる瞬間。
やよいは、教室の隅で自分の同じく呆然と立ち尽くしている生徒を視界の隅に捉えた。
口をぽかんと開けて、そのまま動かない彼の名前は――
――麻取悠人という、クラスメイトだった。
これは、もしかして、あなたも……
そして、意識は真っ白につぶれた。
◇◇◇
やよいの意識が浮上する。
目覚めは思いのほかすっきりとしていた。
しかし、時間があいまいだ。
まるで何年間も眠っていたような気がするし、ほんの数秒しか眠っていなかった気もする。
ぼんやりとしながら目を開け周囲を見渡すと、そこは、鬱蒼とした森の中だった。
「え……? どこ、ここ……?」
やよいは目を見開いた。
ギャアギャアとどこからともなく聞こえてくる野鳥の鳴き声。
ざわざわとざわめく周囲の草木。
鼻にはむせ返るような土と青い植物の匂いがにおってきた。
「なんで……、ここは……」
やよいはあまりに現実離れした状況に顔を青くしながら、ふらふらと立ち上がった。
やよいは、辺りがグルグルと回っているような感覚が渦巻いた。
気持ち悪い。
なに、これは?
いったい何が起こっているの?
やよいの思考は千々に乱れ、意味のあることを考えることが出来なかった。
しかし、その思考は長くは続かなかった。
近くから、大きな気配がしたのだ。
やよいは生まれてから今まで感じたことが無いほどの恐ろしい悪寒に襲われ、反射的に気配の方を振り向いた。
するとそこには、想像もできない程大きなオオカミがいた。
オオカミは四つ足だというのに、やよいは上から見降ろされ。
瞳は爛々と紅く光っていた。
その顎には包丁よりも大きく、鋭い牙がずらりと並べられ、牙の間からは溢れるようによだれが零れ落ちている。
地面に落ちたよだれは、地面にあたったとたん、ジュウッと音が鳴った。
やよいはその場にへたり込んだ。
余りに絶対的な捕食者に、やよいの体は生きることを放棄したのだ。
「あ、あ、ああ……」
思考は真っ白に染まり、体は自分でも簡単に分かるほどガクガクと震えている。
濃厚な死の気配。
巨大なオオカミはそのアギトをゆっくりと開き。
やよいが己の死を幻視した瞬間。
轟音が響いた。
目の前にいた巨大なオオカミが吹き飛ばされる。
やよいには何が起きたか分からなかった。
しかし、目の前ではどんどんとその景色が変わってゆく。
空から複数の何かが降ってきた。
それは人の形をしていた。
灰色やオレンジ色のした、鎧だろうか。
そんなものを纏った人型が、空を縦横無尽に駆け回る。
鎧が手に持った剣を振るえば、オオカミから血しぶきが上がり。
鎧が構えた銃から光が放たれれば、その毛皮は焼かれ煙が上った。
巨躯の獣も唸り声をあげその爪を振るう。
しかし、それは軽快に宙を舞う鎧たちにはかすりともしそうになかった。
絶対的だったはずの捕食者を、いとも簡単に追い詰める四つの灰色と一つのオレンジ色の鎧たち。
そして遂に、オレンジの振るった剣が光を放ち、巨大なオオカミの体を胴から真っ二つの断ち切った。
巨躯は崩れ落ち、もはやピクリとも動かない。
鎧たちは警戒するように倒れたオオカミの周囲に集まると少しの間何かをして、それが終わるとオレンジ色の鎧が一つと灰色の鎧が一つが、ゆっくりとやよいの方に近づいてきた。
やよいはあまりに現実離れした光景にしばし呆けていたが、近づく鎧に気が付くと、尻もちを突いたまま僅かに後ずさりし、体を震わせる。
すると、鎧たちが少し逡巡する仕草を見せる。
そしてオレンジ色の鎧の、兜にあたる部分がゆっくりと開いた。
やよいは驚きのあまり、口が半開きのまま固まる。
その兜の下にある顔。
それは美しい人間の女性だった。
滑らかなシルクのように鮮やかな金髪。
肌はミルクのように白かった。
澄んだマリンブルーの瞳を持つ目は、強い意志を体現するような鋭さを持っていたが、今はそれは緩められ、ほのかな柔らかさを感じる。
スッと通った鼻梁と小ぶりながらもふっくらとした唇は理想的な配置を取っていた。
その唇から、音が零れ落ちる。
「△△△△△。△△△△△△△?」
意味は、分からなかった。
何かの言語には聞こえるが、やよいの知っている、英語や中国語、フランス語などといった言語とはまるで違った言葉に聞こえる。
困惑したやよいの仕草から、言葉が通じていないのが分かったのだろうか。
彼女は自身の兜の横に一度手を当てると、また話しかけてくる。
「もう大丈夫です。怪我はありませんか?」
努めて柔らかい声音で話す彼女の声が聞こえる。
やよいはその言葉を理解すると、目から一筋の涙がぽろりと零れ落ちるのだった。
お読みくださりありがとうございます。
終わらんかった……
もうちょっと続きます……
別視点続くけど、みすてないで、みすてないで。