7 VSゴブリンもどき(不意打ち)
悠人は黙々と石を落とす。
一個、十個、百個……
落とし続ける。
二百個、三百個、四百個……
まだ、落とし続ける。
千六百個、千七百個、千八百個……
ずっと、落とし続ける。
そして、最後に二千四十八個。
全て合成し『加速直線LvΩ』を獲得した。
「……これで」
悠人は一つ頷くと、近くにある壁に目を向ける。
壁の窪みに置かれていた一つの小石に集中すると、それは独りでに動き始めた。
地面と水平方向に動き始めたそれは、直線状に移動しながら徐々に加速していき、しかし二メートルほどそのまま進むと、下へ下がってコツリと落ちた。
『加速直線』の有効距離は二メートル程度。
悠人が手を伸ばして落とした石の落下軌道の情報体なので、当たり前である。
しかし、それではゴブリンもどきは殺せない。
洞窟の直径はどんなに小さくても三メートルはある。
『加速直線』は動作はゆっくりで、とても殺傷能力はあるとは言えない。
武器はただの小石。『加速直線』で飛ばしても、とても刺さりそうにもない。
……ゴブリンもどきを殺すには、高Lvの情報体特有の謎破壊力を使うしかないのは確かだ。
しかし、これは壁などの障害物があれば破壊してでも突き進むのにもかかわらず、手で遮っても尋常でない力で押してくるだけでそれ自体に殺傷力は無いようだ。
故に、これをうまく使ってゴブリンもどきを倒すのならば、ゴブリンもどきを壁や小石で挟み込んで潰すしかない。
だから。
悠人は、きょろきょろと辺りを見回しながら仮称『安全地帯』から抜け出す。
そしてゴブリンもどきが近くにいないことを確認すると、悠人は洞窟の壁の両側、ちょうどゴブリンもどきの頭の高さの位置の窪みに、それぞれ小石の置いた。
そして、こちらへ近づいてくる気配がないか警戒しながら、ちょうど二つが重なるように微調整を繰り返す。
そしてしばらくたった後、満足したようにうなずくと、『安全地帯』の方へ隠れた。
――しばらくたった後、一匹のゴブリンもどきがこちらの方へやってくる。
そう。
二つの小石で挟み込んで、圧し潰す。
小石を仕込んだ場所の通路の幅は約三メートル。
二メートルは直線移動を続けるこの小石を、両端から発動させれば、問題なく中央のものを潰せるはずだ。
確実にゴブリンもどきを絶命させられると思われる頭部の高さに、小石の配置。
居場所がバレないように、遠距離から情報体を読み込む技術も身に着けた。
今はまだ空腹は感じないが、それも時間の問題だろう。
これを成功させれば、悠人は自身の生存に、また一歩近づけられる。
だから、ゴブリンもどきよ。
――俺の、命の、糧になれ……!
ゴブリンもどきは近づく。
悠人の配置した、小石の地点へと。
そして、タイミング。
まだ。
……まだ。
…………まだ。
…………ここだッ!
悠人は洞窟の陰から、視界に入る二つの小石へと意識を集中させる。
読み込み。
二つの小石は、全く同じタイミングで、ゆっくりと動き始めた。
それは加速しつつ、ゴブリンもどきへと迫ってゆく。
ゴブリンもどきには、十個の目があった。
しかし、そのどれもが小石へは反応しない。
そして小石は、重力加速度で起こる加速を起こしつつ、遂にゴブリンもどきの頭へと到達し。
――その頭を、木っ端みじんに砕き散らした。
真っ赤な血液がシャワーのように飛び散り、洞窟の壁を濡らす。
降り注ぐ肉片が、べちゃりと悠人の傍へと落下した。
飛び出た眼球が地面へ落ちてころころと転がった。
ゴブリンもどきはその体を、力が抜けたようにへたり込ませ地面へと倒れると、自らの血だまりへと水音を立てた。
そして、数度大きな痙攣をおこし、その体を永遠に沈黙させた。
――しかしその光景を目の当たりにした悠人は、初めての一歩を喜ぶこともなく。
その場で胃液を地面へぶちまけることとなった。
お読みくださりありがとうございます。
最後、
――しかしその光景を目の当たりにした悠人はSANチェックでs と書きそうになって、耳慣れってこわいなあと思いました。まる。