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32 荒野地帯


 空は、どす紫色の重い雲が蓋をする。


 辺りは雨が降っているように薄暗く、空気は死んでいるように停滞していた。


 周囲は灰色の荒野であり、しかし渓谷のように大地は凹凸を繰り返していて、積み木の山をひっくり返したように視界が悪かった。


 踏み出した足、その足裏が地面の砂利と噛んで鈍い音を立てる。


 靴は履いていなかった。

 幾たびの凄惨な戦い、そして上昇した身体能力に、ただのスニーカーが耐えられるはずもなかった。


 同じく纏っていたまずの高校の制服も、今では体に襤褸布を張り付けている様態であった。


 その人物、麻取悠人は前だけを見ていた顔を周りに巡らせる。

 そして僅かだけ腰を落とすと。


 突如として、世界が揺れるような地響きが鳴り起り――――


 ビルにも達する巨大なワームが、目の前に現れた。


 その全身は太くて長い触手に覆われ、ぬらぬらとした粘性の液体をまき散らす。

 先端の口腔は針山の様になり、体表に飛び出たその針牙は舐めずるように蠢いた。


 金属を引き裂いたような奇っ怪な叫びを上げるその怪物に、悠人はすでに走り出していた。


 触手ワームの口腔が、一瞬前まで悠人のいた場所に激突する。

 その巨体が倒れ込む振動は、まさに隕石が落下したかの如き衝撃だった。


 怪物の全身に埋め尽くされた触手が長く伸びて、走る悠人に殺到する。


 しかしそれは、流れるようにひらりひらり、と躱されて何もない大地に突き刺さる。


 岩塊の壁面を地面のように走り抜ける悠人。


 その矮躯から考えてあまりにも巨大なビーム光線が放たれる。


 その光の奔流は触手ワームの体をごっそりと抉り取り、薙がれて巨体を容易く切断した。


 大きな体に溜め込まれていた緑色の体液が辺りに流れ出る。


 悠人はそれには目もくれずに疾走する。


 辺りから、また振動が走り出す。


 その振動は、少し前のものよりも遥かに大きく。


 世界が啼く様な鳴動と共に、異形が姿を現した。


 二足歩行するトカゲでありながら、頭部が触手のみであり、腕が鎌になっているもの――

 巨大な複眼を持ち、ウニの様に無数の節足を持つ巨大な蜘蛛であるもの――

 四つん這いの猿の様な形、それでいて腕が六本、骨だけに皮を張り付けた様なもの――

 こぶし大の蟲が無数に集まり、ボールを形成しているような形をしているもの――

 太さが成人男性程もあり、先が見えないほど長い体、紐の様に全身をくねらせ羽が幾つも生えているもの――


 他にも様々な異形、異形、異形の怪物が。

 空から、地面から、いたるところから現れる。


 さっきの戦闘、そのときの振動と音で存在を気づかれた。


 草原を抜けた先の荒野。

 ここは一見、生物一匹いない不毛の地に見える。

 しかし実際は、今までで最も怪物の数も種類も多い地獄だった。


 普段やつらは、地形の陰に、地中に、雲の中に、身を潜めて隠れている。

 しかし何かのきっかけ――獲物の気配を感知すると、その姿を現してそれに喰らい付く。

 そしてその捕食活動を感知すると他の怪物がそれを喰らう為に姿を現し、捕食者は得物へと変わる。


 戦闘が起ればそれに呼応して他の怪物が姿を現し、戦闘が大きくなればさらに多くの怪物が姿を現す。

 それは連鎖し、遂には無数の怪物が集まる地獄と化す。

 ここは、そういう場所だ。


 悠人の戦いの音に吸い寄せられて集まった怪物の数は目算で百匹以上。

 普段姿が見えないだけで、あり得ない程の怪物の密度だ。


 戦っても戦っても終わりが見えず、敵が増え続ける砂地獄に長居するなど阿呆のすることに違いない。

 生き残るには、ここから何としても抜け出すこと。

 早く抜け出すほど生存率は上がってくる。


 最初に騒音を出した悠人がいるのは、怪物の集団の中で中央だ。


 激化が増してくるだろう戦場の中心地から抜け出すべく、悠人は走る。


 ――目の前に、悠人を喰らおうと大口を開けた怪物がいた。


 見上げる程の大きさの肉の球体に、牙の生えた大口だけが開いている怪物。


 それに向かって、大小様々な大きさの石が、横向きの豪雨(スコール)の様に無数に飛び出した。

 石はひとつひとつが、まるで様々な野獣の牙や爪のような形を持っている。


 情報体で作られた理外の頑丈さを持つ数百の小石が、同じく情報体で移動情報を与えられ、超音速で降り注ぐ技。

 <暴星雨メテオスター・ストーム>。


 横殴りに降り注ぐ殺意の雨は、大口を開けた怪物に次々と突き刺さり――。

 しかし貫通せずに、その身を押し出し、吹き飛ばした。


 荒野で手に入れた、無数の怪物の牙や爪の情報体を使用した<暴星雨メテオスター・ストーム>。

 この技は牽制やノックバック目的で制作した。

 この程度の威力の技では、もはやここの怪物たちには痛痒を与えることはできない。

 しかし、今の様に複数の敵に囲まれたときや、敵に隙を作りたいときには重宝していた。



お読みいただきありがとうございます。

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