4 セーブ&ロード
おまたせしました。
羊皮紙に表示された謎の文字列。
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魔力:7
気力:7
霊力:12
特異能力
セーブ&ロード
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「はぁ? なんだこれ」
魔力、気力、霊力。
なんだこれ、良く分からない。
いや、何となく分かるけど、なんだこれ。
きっと、悠人自身の力か何かなのだろうが――あくまで推測でしかないのであるが――どういった力なのか分からない。
そしてどう使ったらいいのか分からない。
また、この数値がどのくらいの高さなのか分からない。
つまり何も分からないと。
ひとまず、比較対象が欲しいところだ。
そして最後の特異能力。
セーブ&ロード、ね。
おもっきしゲームじゃねーか。
なんだ、コンテニューでもできるのか?
死んでも復活できるなら、これほど有用な力もないが……
と、冗談はここまでにしておいて。
実は、このセーブ&ロードの文字を見たときから、悠人はその使い方が何となく分かっていた。
なぜ分かっているのかは分からない。
こういった力なんだなと、漠然としたイメージが頭をよぎったのだ。
ともかく、今はその理由よりも、それが有用かの方がはるかに重要なのは明白である。
少し検証をしてみる。
悠人は、地面から小石を一つ拾う。
そして、それをアンダースローで投げた。
それと同時に言葉を一つ。
「セーブ」
小石は放物線を描きながら飛翔し、コツリと音を立てて地面へと転がった。
悠人はもう一つの小石を取ると、手のひらの上に乗せた。
そして言葉を一つ。
「ロード」
すると、その小石は、何の力も与えていないにもかかわらず、先ほど投げた小石と同じように放物線を描いて飛びだした。
これがこのセーブ&ロードの力。
対象の情報? 状態? を保存し、それを任意のタイミングで読み込んで発動する。
今回の場合は、まず石を投げたときの、『放物線上の移動』を保存する。
すると、悠人の中に『放物線上の移動』という情報体が一つストックされる。
どうやらこういった情報体は、いくつも同時にストックできるようだ。
そしてそれを、手のひらに乗せた小石を対象に読み込んだ。
情報を上書きされた小石は、その情報通りの挙動を取る、つまり『放物線上の移動』を行うべく飛び出したのだ。
そして、『放物線上の移動』の情報体は消失した。
これは一回の保存に対して、一回までしか読み込みができないようだ。
……使えるのか、これ?
いや、どう考えても使えない。
石壁砕く怪物に小石投げてどうするっていうんだ。
なんなんだ、このクソゴミカスしょぼしょぼ能力はよぅ!
子供の遊びじゃないんだよ! サバイバルは遊びじゃないんだよ!
くっそう、いったいどうすれば。
悠人はやけくそになりながらも、石を投げつつ情報体をストックする。
一つ、二つ、三つ。
「うん……?」
情報体を複数ストックしたら分かったのだが、どうやら類似の情報体は統合できるらしい。
試しに『放物線上の移動』、面倒くさいから『放物線』を二つ試しに統合してみると、『放物線Lv2』とでもいうべきものになった。
何が違うんだ、これ。
試しに使ってみる。
ヒュ~コツン!
……何も変わらない気がする。
いや、心なしか威力が上がったような……?
もう少しLvを上げてみれば、もっと分かるかもしれない。
そして悠人は、ひたすら小石を投げ続けることに集中することになった。
はたから見ればもはや異常者にしか見えないが、そんなのまったく気にしない。
Lv2にするのに同じ情報体が二個必要。
Lv3にするのにLv2の情報が二個必要。
Lv4にするのにLv3の情報体が二個必要……
Lv上げるのにめちゃくちゃ面倒くさいんだが?
なんで初期の情報体の必要数が二次関数的に増大するんだよ。
ゲームの装備合成じゃねーんだぞ。
もうLv5を作るのに三十二回も石投げてるんだけど。
面倒くせぇ……
悠人は心の中で文句を垂れ流しながら作業をする。
しかし、それとは別に悠人の心が躍っていた部分もあった。
レベルを上げていけば、最終的にどれほどの威力になるのだろうか。
――そうして、しばらく時間が経ったのち、遂に『放物線Lv10』が完成した。
小石を投げた試行回数、実に千二十四回である。
まだLvは上げられそうな感触はしたのだが、またLvを一つ上げるのにはさらに千二十四回の試行回数が必要である。
それはさすがに嫌だったので、とりあえずこれの結果を見てから次の実験を考えることにしようと思った。
これを読み込んだ瞬間、これまでの苦労が一瞬にして消費されてしまうのだが、それでもわくわくする。
さて、結果はいかに!
悠人は手のひらに乗せた小石に向けて、『放物線Lv10』を読み込んだ。
すると、小石は今まで通りにゆるく投げたような速さで放物線を描く。
そして石壁に着弾すると、恐ろしい音が響き渡った。
まるで鋼鉄のドリルが石を強引に削り取っているような破壊音。
小石は石壁を強引に砕き、削り取りながら、穴を掘って、停止した。
できた穴を覗き込んでみると、こぶし大の大きな穴の底には、もはや原型を留めず、石の粉となった元小石君が存在していた。
……これは、大きな拾いものをしたのかもしれない。