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幕間 オルド王国(芭風やよいの場合5)

申し訳ありません。

一昨日更新したつもりで更新できておりませんでした。


 国際エネルギー研究所の霊力研究部部長のオダナリが話を始める。


「さて、ハナカゼ様。我々国際エネルギー研究所は貴女を歓迎いたします」


 オダナリのその言葉に、やよいは弾かれるように頭を下げた。


「あ、はい! 芭風やよいと申します。よろしくお願いいたします」


 隣のエイヴァもそのすぐ後に挨拶を交わす。


「地上陸軍中央軍魔装師団第112大隊のエイヴァ・ヤー・ソーダ―少佐です。私はハナカゼ様の付き添いとしてここへ参りました。よろしくお願い致します」


 深くお辞儀をするやよいと、軽く会釈をするエイヴァに、オダナリは薄い笑みを浮かべた。

 しかし寝不足の濃い隈の奥に隠れた瞳から、その感情を読み取ることはできない。


 上目で彼の顔を見たやよいは、その眼に背筋がぞくりと泡立つ。


 だがその研究者の表情は、次にはただの笑顔にしか見えなくなっていた。

 先ほどの震えるほどに平坦な瞳は、ただの錯覚だったのだろうか。


 あまりに一瞬のことで、やよいはそんな気さえしてしまう。

 いやちがう、それこそ錯覚だ。

 オダナリには彼なりの何かがあるのかもしれない。

 しかしそれはやよいが如何こうできることでもないし、記憶の片隅にでも留め置いて気を付けるしないだろう。


 オダナリは、少し大仰にも見える手ぶりで言葉を話す。


「おお、これはご丁寧にどうも。私ももう一度ご挨拶をば……国際エネルギー研究所霊力研究部部長のオダナリ・レディベリーと申します」


 そうしてオダナリはやよいとエイヴァの顔を見る。

 そうして二人の内、軍人の方にチラリと視線を向けた。


「それにしても、我らがオルド王国の未来のエースであるソーダ―卿を見ることが出来るとは思いませんでした」


 オダナリはそんなことを言う。


 そしてその言葉の中に出たオルド王国。

 それこそが、やよいが保護され、そしてエイヴァが所属している国の名前であった。


 オルド王国はその名が示す通り国王が国主の君主制国家であり、共和制が世界中に浸透している地球、その中でも民主制の日本に住んでいたやよいには馴染みのない国家だ。

 頂点は国王とその一族である王族で、その下には貴族がいるらしいが、あまりうまく想像ができない。

 王族も貴族も、やよいにとってはどこか遠いところの話だったのだから。


 やよいは王政国家だからといってオルド王国を見下したり、遅れているなどと言って蔑むこともない。

 共和制と君主制はどちらも一長一短で、どちらが優れているとも言えないと思う。

 それがやよいの考えだった。


 それよりも、先ほどオダナリが言った言葉。

 それがやよいには気になっていた。


「未来のエース……?」


 小さく呟いて、エイヴァの顔を僅かに視界に映す。


 その意味を考えると、エイヴァはもしかしてとてもすごい人なのではないのだろうか。

 それこそ、やよいの保護者などやっている暇はないくらいに。


「おや? お知りではないのですか?」


 やよいの小さく呟いた声。

 しかしその小さな声は、どうやら対面のオダナリに聞こえていたらしい。


 自分の呟きに対して思いにもよらぬ言葉を返され、やよいは驚いて返事をする。


「は、はい」


 そう答えると、オダナリは驚いたような、それでいてどこかおどけたようなポーズを取る。

 そうして口を開くような仕草をした。


 そのとき、やよいがもう一度エイヴァの顔を盗み見る。

 するとどうも不機嫌そうな彼女の顔が見て取れた。


 どうもこの話は、エイヴァにとって愉快なものではないらしい。

 そう気が付いたやよいがオダナリを止めようとするが、それは遅かったようだ。 


 彼は(うた)でも(うた)うように話し始める。


「未来のエース……いや、もうすでにエースの一人といってもいいでしょう。打ち立てた武功は数知れず、民にも慕われ、そして何より19歳という若さでありながら既に少佐。さらに武官位に関しては大佐となのですから。佐官なので、子爵相当の位でもある――」


「やめなさい」


 オダナリの話を遮った声。

 それは今話されているエイヴァのものだった。


 エイヴァは不機嫌そうにオダナリを睨みつける。


 幾たびも修羅場を経験しているのであろうその眼光は、傍から見ているだけのやよいでも体に震えが走るほどのものであった。


 ただ、その中でもやよいの頭は勝手に回っている。


 エイヴァは子爵相当らしい。

 やよいの記憶が正しければ、子爵は上から三番目の貴族位だ。

 貴族の中でも、上級貴族と呼ばれる(くらい)である。


 やよいにはオルド王国の貴族がどれだけの力を持っているのか分からない。

 このオルド王国は文明も進み、人権や公平性が重んじられているようで、それほど大きな権力があるとは思えない。


 しかし、ここは地球ではないのである。

 ここは惑星ティアピアだ。

 地球とは全く異なる歴史を歩み、発展を遂げてきたティアピアでは、それらの性質と貴族の強権が共存している可能性もある。


 だがその実態は、まだひと月ほどしかこちらで過ごしておらず、軍基地から外に出たことのなかったやよいには分からない。


 もしかして、自分はエイヴァに対してとても失礼な行為をしてしまったのではないのだろうか。


 やよいがそう顔を青くしていると、そのエイヴァが口を開く。


「ここで話すべきことは、そのようなことではないはずです。その様などうでも良いことよりも、もっと意義のある話をいたしませんか」


 怒気を滲ませるそのしゃべりに、しかしそれを向けられるオダナリは欠片も怯えることは無い。


「……ふむ、それもそうですね。それではやよいさん」


 エイヴァの怒りに飲まれていたやよいは、その言葉で我に返って返事をする。


「は、はい! 何でしょうか?」


「早速ではありますが、羊皮紙の魔道具を見せてはいただけませんか?」


お読みいただきありがとうございます。

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