29 戦いの後、次のステージにはまだ行かない
遅くなり申し訳ございません。
で、でも、あらすじに不定期更新って書いてるから多分大丈夫な気が……
はい、すみません。
がんばります。
空を染め上げる眩い光が収まった後、その空には何もなかった。
悠人の魔法によって、怪物は影もなく燃え尽きていた。
草原の上に、悠人は力が抜けたように仰向けに倒れる。
「……勝ったか」
ギリギリの戦いだった。
今生きているのが不思議に感じる程だ。
なんというか、あまりの衝撃というか。
気分が一周まわって喜びの感情がでてこなかった。
ただ、終わったなぁ……、と、それくらい。
勝てて良かったとは思っている。
思っているが。
頭の中は、なんだかとても平静な状態だった。
”漆黒の母蛇”がもう一段上のビーム攻撃を撃ってきてくれたおかげで、悠人はそれを解析し模倣することで勝利することが出来た。
もしやつがそれをせずに、通常の攻撃しか使っていなかったら悠人は負けていただろう。
……本当なら、”漆黒の母蛇”や”舞い降りる黒水晶”が撃つ通常のビームを保存できればよかったのだが……、それはできなかったのだ。
生物に保存しようとした時と同じように、弾かれる感覚があった。
悠人の予想であるがおそらく保存は、霊力や、強く制御された魔力と気力があると弾かれてしまうのだろう。
生物の体には、体と同じ形の霊力の塊があるし、肉体に制御された魔力と気力が流れている。
放たれる攻撃も、攻撃者に強力に制御された魔力だ。
また、保存できないものには読み込みもできない。
保存と読み込みはどちらも根は同じ能力だからだ。
だから、ビームを『透過』して攻撃を避けるなんてことはできなかった。
「とりあえず、まずは傷を治して……」
悠人は幾つもの<外傷治癒>を並列起動する。
すると、ビームの衝突の余波で負った火傷や緊急運動による筋肉の断裂が即座に回復していく。
普通なら戦いのときにつくはずの、切り傷や打撲などの傷はついていなかった。
<巌の身体>で防がれていたのだろう。
悠人はゆっくりと立ち上がる。
そして、前に見た草原の崖までやってきた。
直線距離で一キロメートルにもなる奈落。
底は見えないほど深い。
遠目に見える対岸は、まるで魔界の様な荒野になっていた。
悠人の第六感が警鐘を鳴らす。
――この奈落に落ちてはならない。
ここに落ちたら死ぬだろうと、誰に言われることもなく悟った。
生物が生きていくことが出来ない気配がする気がする。
それは、地上の生物にとっての宇宙の様なものなのかもしれない。
しかし、悠人の能力ならばここを飛び越えることもできるだろう。
少し怖いが魔力が対岸の方から流れてきている以上、行かない選択肢は無いのだから。
「ただ、このままでは行けないな……」
これまでのことを考えれば、おそらく向こうは”漆黒の母蛇”や”舞い降りる黒水晶”よりも強い怪物がいるはずだ。
先ほどの戦闘で死にかける自分では、おそらく生き残れないだろう。
悠人が目を向ける先。
一面、灰色の荒野。
そこには針山の如き山々が天を貫き。
鉄くずとスクラップの山の様な荒々しい地形が広がっている。
空は、毒の様な紫色の雲が分厚く広がる。
そこからは時折、赤色の稲妻が漏れ出ている。
雲があるためなのだろう。
その場所は、つねに薄暗く見えた。
まさに魔界と呼べる場所だ。
あそこに行く前に、一度鍛え直そう。
まずは、新しい技の開発からしていくか。
そう思い、悠人は崖から背を向けるのだった。
◇◇◇
悠人は地上付近の洞窟の中にいた。
一面がクリスタルで埋め尽くされた洞窟である。
ここにいた巨人はすでに討伐済みだ。
やはり、隠れる場所のない草原よりはここのほうが、何というか安心する。
怪物の強さ的にも、洞窟のやつらはすでに瞬殺できるが、草原のやつら相手はまだまだ苦戦するから。
まずは現状持つ情報体から技を開発したり、今まで作った技の改良をしておこうと思う。
まずは、最初から使っていた石弾系の上位技<石の衝撃>なのだが。
これから相対する相手に対しては、おそらく通じない。
もちろん悠人の身体能力もこの技を作ったときの、草原地帯に来た当時に比べれば劇的に向上している。
だから、これより速い直線系の情報体を保存して威力を上げることはできる。
しかしそれでも大した効果は無いという予感が、悠人にはあった。
牽制にはなるだろうが、決定的な一撃とすることはできないだろう。
だとしたら、その敵を殺傷できる一撃の開発が必要になるのだが。
それの一番の有力候補は、最後の一撃を”漆黒の母蛇”と”舞い降りる黒水晶”に叩きこんだパクりビームになるだろう。
あの時は即興で作ったため、非常に粗削りな技になってしまった。
でも改良すれば、実用に耐えられるだけの技になるかもしれない。
というわけで、早速改良を始めることとにする。
まずはビームの威力だ。
理想の威力としては、敵を一撃で倒すことができるだけの力があればよい。
そう考えれば、前に撃ったアレは威力が高すぎるというものだろう。
倒せればよいのだから、敵を一撃で蒸発させるような火力は必要ない。
そうだとすれば、魔力を周囲から取り込む過程はある程度省略できる。
また、ビームにあれほどの太さもいらない。
あの時はビルの様な大きさの”漆黒の母蛇”と一軒家ほどの大きさの”舞い降りる黒水晶”三体を、覆いつくすほどの規模にまでなっていた。
しかし、ビームを常用するとすればアレも確実にオーバーキルと言えるし、なにより自分の技で自分の視界が封じられるのは戦略上もいいとは言えないだろう。
ビームは太さよりも貫通力と使い勝手を重視する方針にすることにする。
あのビームは、物体に接触したら大爆発する性質があるようだから、敵の体を貫通させ内部で爆発させるのが効率よく倒すのに繋がるはず。
そうして方針を決め、使用する情報体にも目星がついたところで、悠人は実験の為、草原地帯に赴くことにした。
下手をしたら生き埋めになりかねない洞窟で発射実験をやるわけにもいかない。
結論から言うと、実験は上手くいった。
ビームを繰り返し撃っているうちに、理想の出力を実現することが出来た。
周囲の魔力を多く取り込むようにしたため、技の派手さの割には体内の魔力消費が少なく、多くの実験が出来たのも良かった。
最終的には、チャージ時間約三秒。
直径一メートル程の、黒卵より火力が高いビームを開発することに成功した。
ただ、音速に匹敵する高速戦闘を行う悠人にとって、三秒は非常に長く感じた。
しかし今の悠人にはこれが現状の限界だったためこれ以上の改良は難しそうだ。
でもチャージ中に<石の衝撃>を併用することはできるため、<石の衝撃>で牽制してビームを撃てば十分実用の範囲だろう。
新しく作り上げたこのビームの技の名前は――――<戦きの人閃光>にしよう。
うん、カッコいい。
この<戦きの人閃光>を実際に、近くにいた黒卵に撃ち込んでみたところ、一撃で爆散させることに成功した。
申し分ない威力だ。
散々苦労させられたヤツが無残に爆発する光景は、なんだかとても胸がスッとする気分だった。
お読みいただきありがとうございます。
今回、解説が多く入りましたが、やっぱり文内で解説書くって難しいですね。
あんまりうまくかけた気がしません。
ただ、完全に納得のいくものを書こうとするといくら時間があっても足りないのがもどかしい……




