24 VS”漆黒の母蛇” 壱
お待たせしました。
今回短めです。
なろうのメンテナンスが執筆時刻にクリティカルヒットしました……
次回からは文字数戻ります。
無数のヘビを絡ませ、空を飛ぶ巨大なヘビのような姿を持った怪物が、空中から悠人を睥睨する。
その腹からは、一軒家ほどの大きさを持った黒き卵――”舞い降りる黒水晶”が透明な粘液をまき散らしながら生まれ落ちる。
どちゃりと地面の落ちた黒卵は、甲殻に張り付いた五枚の翼を広げると、それを動かして空中へ浮かび上がる。
「――ふざけんなよ……」
悠人は思わずつぶやいた。
どうやらあいつが、忌まわしい黒卵――”舞い降りる黒水晶”の母体らしい。
これと戦わなければならないのか?
本当であれば逃げ出したいところだが、どうにも逃げられそうにない。
あの黒いヘビ――仮称で”漆黒の母蛇”とでも呼ぼうか。
それの威圧感は悠人を逃がさんとばかりに襲い掛かり、これまで何体もの怪物と戦ったことで研ぎ澄まされた悠人の感覚は、これに少しでも背を向ければ瞬きする間もなく無残に殺されるだろうと警鐘を鳴らしていた。
悠人が動けずに様子をうかがっていると、”漆黒の母蛇”はその巨大であり縦に裂けた口をガパリと開く。
するとその牙の間に、見る見るうちに眩いばかりの大きな光の球が形成される。
それを見た悠人が距離を取ろうとした瞬間、光の球からミラーボールのように四方八方に破壊の光が放たれた。
その無数の光の奔流は、一本一本が黒卵が発していたビームに匹敵することを悠人は即座に感知する。
悠人はボロボロの体に鞭打って、最もビームの密度が少ない場所に躍り込んだ。
強烈な破壊音。
しかし空気を透過している悠人には、音も衝撃波も感じない。
全方位から体中をじりじりと焼くような、強烈な放射熱を感じただけだった。
爆弾などの爆発が周囲の物を破壊するのは、熱でも光でもなくそれに伴う、気体膨脹による衝撃波だ。
それを完全に透過する<虚ろな身>があるからこそ、悠人はビーム本体を避けるだけで爆発自体から逃げる必要はない。
もしそれが無ければ、これまでの戦いで悠人の五体はあの核爆発の如き爆発で、少なくとも百回は木っ端微塵になっていただろう。
周囲は土埃に塗れ、濃い霧のように視界を塗りつぶしている。
空気から熱が薄れ、伏せていた体を起こす。
――くそッ、どうすれば……
悠人が気配を探すように首を巡らすと、前方から背筋が凍るような気配がした。
悠人は全力でその気配から逃げるように跳んだ。
音速を超えたジャンプは土煙の中を突き抜け、視界を取り戻す。
周囲を地平線まで見渡せる草原地帯は、先ほどの攻撃によってあちこちに無数の巨大なキノコ雲が立ち上り、まるで核戦争でもしているかのような光景であった。
一撃でそれを成したことに唖然とする悠人に、しかし相手は待ってくれるはずもない。
悠人が先ほど脱出した前方の土煙の中から、艦砲の如きビームが襲い掛かる。
それをとっさの判断で、限界までしゃがむことで回避できたことに、悠人は安堵するとともに額に汗を流した。
放たれたビームにより土埃が吹き消され、そこで悠人の目に飛び込んできたものは――
――泰然と浮遊する”漆黒の母蛇”。それに従属する五体もの”舞い降りる黒水晶”だった。
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