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23 VS二体の”舞い降りる黒水晶” 後編

いささか難産でした。


 二体の”舞い降りる黒水晶(ダークネススフィア)”はビームを打ち続ける。


 もはやこの辺り一帯はクレーターだらけで草木など一本もなく、まるで月面のようだった。


 十、二十と回避を続ける悠人は、いつしか<石の衝撃(ロックバースト)>を発射しなくなり、回避だけを専念するようになる。


 しかしそれでも余裕はなく、すぐに追い詰められてしまう。


「くそッ!」


 悠人は<魔を拒む魔(マギパラレルマジック)>を展開して避けきれない艦砲ビームをいなす。


 あらぬ方向へ飛んで行ったビームは遠くで爆発音を響かせた。


 体内の魔力がガクリと減少する。


 ――もう一回使ってしまった。


 使わなかったら死んでいただの事実だが、それでも悠人は悔しさで奥歯を噛み締めた。


 悠人は浮遊する”舞い降りる黒水晶(ダークネススフィア)”を見ながら走り続ける。


 集中力が続かない。

 激しく痛む腕のやけどが、頭の中をかき乱す。


 悠人の額には、多くの脂汗がしたたり落ちていた。


 呼吸が荒くなる。


 現在の戦いは、今まで比べて非常に長いものだった。

 今までの戦いでも”舞い降りる黒水晶(ダークネススフィア)”一体を倒すのにも数時間はかけていたが、今はすでに戦い始めてから実に十五時間以上経過していたのだ。


 魔力と気力を少しでも長く持たせるため<巌の身体(ハードボディ)>はすでに使えず、<氣闘術(オーラアーツ)>と<虚ろな身(シースルー)>も要所要所に一瞬だけしか使えない。


 それでも未だに戦闘を続けられているのは僥倖というほかなかった。

 危機的状況における極度の集中状態が、それを可能にしていたのだろう。


 しかしそれは逆に、これ以上ない程の絶体絶命を現しており、もはや打つ手が限られているという事実を指し示していた。


 脚は鈍り、腕が上がらなくなる。


 魔力は残り乏しく、気力もわずかにしか残っていなかった。


 切り札である<魔を拒む魔(マギパラレルマジック)>の残り回数も、あと数回が限度だ。


 そして、遂に――


 悠人は膝をついた。


 息は上がりきり、全身から汗が吹きあがる。


 時間が経つにつれてどんどんと増す腕の痛みがあまりにも強くなり、もはや全身に激痛が走るように感じる。


 悠人が上を見上げると、ちょうどこちらを挟むように二体の”舞い降りる黒水晶(ダークネススフィア)”がこちらを見下ろしていた。


 それらはその口腔を太陽の色に染める。


 そして。


 二条の光の奔流が、同時に放たれた。


 そこから発せられる熱の光を呆然とするような表情でそれを見ていた悠人は――











 ――その口をにやりと歪ませた。


 悠人は二枚の<魔を拒む魔(マギパラレルマジック)>を空中に張り付ける。


 そしてそれらは迫る二条のビームを正確に歪ませて進路を捻じ曲げた。


 その閃光はちょうどV字のように曲がり、二体の黒い怪物が発したそれは、それぞれがその相方を貫いた。


 左右で聞こえる爆発音。


 それを見つめると、”舞い降りる黒水晶(ダークネススフィア)”は互いのビームで砕け散り、その破片が炎と煙を上げて周囲に散らばる光景を見ることが出来た。


 そして、その空に何もいなくなってからもしばらく顔をこわばらせるように宙を見つめていた悠人だったが、すでにその脅威が完全にいなくなったことを認識すると警戒を解いて、仰向けに倒れ込んだ。


「やっ――た……」


 悠人はふわふわとした表情で、小さく口を動かす。


「勝ったんだ……」


 その体は完全に弛緩して、手足は投げ出されていた。

 もはや、ピクリと動かすことすら億劫であった。


「ざまあみろ――痛つつッ!」


 思い出したように、腕の痛みが主張する。

 それを悠人はなけなしの魔力と気力を絞るように、<外傷治癒(フレッシュヒール)>で治癒してゆく。


 するとちょっとずつ、本来の肌色がやけどの爛れ傷から顔を出し、あと一日もかからず傷は完全に治癒できそうだった。


 そして悠人は大きく息を吐く。











 その瞬間――










 悍ましい気配が、辺り一帯を支配した。


 頭に冷水をかけられたがの如く、意識が強く覚醒し、悠人は痛む体を無視して勢いよく起き上がる。


 そしてその気配の方を振り向くと、そこにはあり得ない怪物が存在した。


 遠目に見える、草原の終わりを告げる巨大崖の下からそれは姿を現した。






 それは、地獄の底から這い出た一匹の巨大な爬虫類の姿をしていた。


 体の色は、深淵を切り取ったかのような底の見えない黒色。


 その体は一見してみるとまるでヘビそのものであったが、その体はあまりに大きく、家を一つ丸呑みできそうなほどであった。


 そのヘビの体表に来あるべき鱗は無く、その体は全てが小さなヘビの集合体であった。

 幾万幾億ものヘビが絡まり、一匹の大きなヘビを形作っているような姿。

 それは正体不明の粘液で全身が濡れている。


 その背には巨大なコウモリの翼を十枚生やし、体は宙に浮いていた。


 頭は縦に裂けて口となり、その裂け目には鋭い歯を幾つも持って、飢えたように涎が滴っている異様に長い舌が垂れ下がっていた。


 それの腹部が突然割れると、中から、真っ黒な鱗を持ち鶏卵の形をした巨大な生き物が生まれ落ちた。






 「――ふざけんなよ……」


お読みくださりありがとうございます。


強敵をやっとこさ倒したら、それよりはるかに強い敵が簡単に出現するドラゴ〇ボールスタイル。

この黒卵の親的なポジションのこいつが草原エリアのボス枠です。


また、明日は更新休みます。

次回更新は明後日の予定です。


※追記。

 申し訳ございません。本日6/30の更新が出来そうにありません。

 予想外に執筆速度が遅くなり、もしかしたら明日7/1ないしは7/2の更新になるかもしれません。

 お詫びといっては何ですが、前に書いていた5話ほどで終わる短編を別に一日一話ずつ投稿しますので、もしよろしければご覧ください。

 本日の日付が変わるころに一話目を投稿します。

 投稿予定タイトル【スケルトンから始まる化物道】


 ↓投稿しましたら、URLを貼り付けます↓


 <https://ncode.syosetu.com/n2808fp/>

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