20 草原の終わり
お待たせいたしました。
広い草原を歩き続けて、長い時間が経った。
景色は変わらず日も落ちないここでは時間の感覚が上手くつかめない。
分かっていることは長い時間が経ったということくらいで、それがどれほどの時間かという事は分からなかった。
しかし、何故か空腹も喉の渇きも感じることもなく、疲労もほとんど訪れない体になってしまっている悠人にとっては、過ぎた時間がどれほどなのかという事はそれほど興味の引く事柄ではなかった。
最初のころは、早く元の場所へ帰らなくてはいけないという焦燥もあったが、次第に、ちゃんと帰れればそれでいいや、という考えに置き換わり始め、今ではその考え一色に染まっている。
人はこれを、諦め、もしくは開き直りと言うのだろうと思う。
ともかくすでにそういった考えを持つに至った悠人にとって時間は、かかっても別にいいやと思うものでしかなかった。
また、草原を歩いているたびに、次第にちょっとずつ、しかし確かに周囲に漂う魔力が濃くなってきていることから、自分がきちんと前に進んでいることも感じていたため、なおのこと焦る必要はなかった。
ただ、そのただ歩くだけというものも、これで終わりかもしれない。
悠人は、目の前の光景を見てそう思う。
目の前には、深く刻み込まれた大地の亀裂――切り立った崖が存在していた。
覗き込んでみれば、その下は真っ黒であり、果てることない奈落が口を開けているようであった。
後ろを振り返れば悠人が歩いてきた草原地帯が広がっているが、ここに来て突拍子もない崖である。
しかしそれは、道がこれで終わりというわけではない。
崖の向こう。
幅にして一キロメートルはあるであろうか、広大な奈落の向こうには、確かに向こう岸と呼べる陸があるのだから。
ただ、その向こう岸はこちら側とはまるでその景色が違う。
こちらが草原であれば、向こうは草木一本も生えない針山の如き山脈が連なる荒野であり。
こちらが日の当たる昼間であれば、向こうは毒々しい色の雲がかかる薄明るい魔界であった。
「さーて、助走をつければ飛び越えられそうか……? いや、いざというときに『音速直線』を自分にかけられるように準備はしておいた方がいいか……」
おそらくそれだけやれば十分にこの崖を飛び越えることはできるだろう。
魔力は向こう側から流れてきているのだから、もとより向こうに行かないという選択肢は無い。
ただ、遥か空中を自分の体だけでかっ飛ぶという経験はさすがにない為、少し怖いものがある。
「さーて、俺ちゃんがんばっちゃうゾ~!」
と、アホみたいな口調で自分を元気づけ、助走をつけるために後ろへ下がろうとする、その時。
悠人は、絶対に見たくないと思っていたものを、その目に映してしまった。
――それは、崖の下から上がってくる、鶏卵状の形をした真っ黒なあんちくしょう。”舞い降りる黒水晶”が二体、目の前に現れたのである。
「うっそだろおい」
反射的に呟いてしまう口。
崖下にいたため、目で近くにいるか確認ができなかったのだ。
アニメで宇宙戦艦が艦砲をチャージするかのような音が二つ聞こえ、二体の口腔が光り輝く。
その瞬間、悠人は全力で真横へ跳んだ。
衝撃。破壊音。
巨大な爆弾が暴発したような莫大量の爆発音が聞こえ、音速で跳びながら顔を振り向いた悠人の目には、巻き上がった二つのキノコ雲が混じり合い、形容しがたい形となった雲と土埃が目に映った。
凄まじい衝撃波が周囲にまき散らされるが、<氣闘術>使用時の通気抵抗と音速による衝撃波をなくすため一緒に常用することにした”空気を透過させる技”<虚ろな身>のおかげで爆発の衝撃波はすり抜け、悠人が遠くへ吹き飛ばされることは無かった。
悠人は転がるようにして着地すると、上を見上げる。
上からは、二体の”舞い降りる黒水晶”がこちらを見下ろしている。
「だから、二体以上はやめろって言っただろうが……!」
悠人は<石の衝撃>を乱れ打つ。
それと同時に、”舞い降りる黒水晶”を誘い出すように草原の方向へゆっくりと走り出した。
崖が近くにあっては、走り回るのは難しい。
できるだけ戦いやすい場所に行かなくては。
お読みくださりありがとうございます。
三日間投稿を空けたわけですが、実はあまり書けませんでした。
どうやら作者はせっつかれてないと筆が進まないタイプらしく……
まあ、これからもできる限りは毎日投稿する意気込みで頑張ります!




