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2 第一怪物発見!


初めに感じたものは、頬を撫でる一筋の風だった。


「う……ん――」


 麻取悠人(マトリユウト)は、目を覚まして起き上がる。


「え……、は……はあ? え、なんだここ?」


 悠人の目に入ったものは、灰色の岩肌。

 それは床にも天井にも続いており、悠人のいる場所は、どう見てもどこかの洞窟の中だった。


「どこだよ……何で、こんなっ、うぐッ!」


 悠人は突然の頭痛に、顔をしかめた。

 そして、これまでのことは思い出される。


 悠人は、通っている高校で授業を受けていた。


 いや、正確にはちょうど4時限目の授業が終わり、先生が教室から退出したところ。

 そのとき、()()が起こったのだ。


 突如として光りだす床。


 正直何が起きたのか分からなかった。


 あまりに突然な出来事に、悠人に体を動かすことが出来ることもなく。

 いや、悠人だけではなくクラスの全員が呆けていたと思う。

 余りに突拍子もない事態に、平和な日本の学生が即座の対応などできるわけがなかった。


 そして、光が強くなって教室中を満たし、そして――


 ――そこから先の記憶はない。


 これは夢なのか。

 それが最初の疑問だった。


 目が覚めたら全体が灰色の洞窟。

 周囲はまるで修学旅行のときに訪れた鍾乳洞のようにゴツゴツとしている。


 悠人は自分の抱いた疑問をすぐに否定する。


 悠人は、明晰夢――夢を見ているとき、自分が夢を見ていると自覚していながらそのまま夢を見続けること――を数度、見たことがある。

 今の状態は、それとは、状態も、感覚も、何もかもが違って、とても今が夢の中とは思えなかった。


 だとしたらこの状況は何なのか。


 他にも何か、人体実験だとか、植物状態になって現実として違和感のない夢を見ているとか、色々は可能性が一瞬脳裏をよぎる


 しかし頭を振って、その考えを懸命に排除する。


 今、一番まずいのは、これが現実で、気が付かないうちにこんな場所に移動させられたことだ。

 悠人は、漠然とではあるが確かにそう意識した。


 ――これが現実の出来事で実際にこの場所へ何らかの方法で移動させられているパターンが最もまずい。


 迂闊にした行動が、全て結果として跳ね返ってくるからだ。


 とりあえず、ここがどんな場所なのか見ておきたい。

 何とはなしにそう思い、悠人は訳も分からず、いまだ混乱した頭をひきずりながら歩を進めることにした。


 洞窟内は全く平らではない。

 非常にボコボコした地面を、転ばないよう、ゆっくりと歩く。


 周囲は薄暗くはあったが、全く見えないわけではなかった。


 灰色の岩だらけの壁や天井のあちこちに、淡く白色に光る石が露出していたからである。


 これはとても幸運だった。

 もし真っ暗だったとしたら、悠人はもっと苦労していたことだろう。

 もしかしたら真っ暗な状況に耐え切れず、発狂していたかも知れない。


 代り映えのしない洞窟だ。


 ずっと、岩肌が続いている。

 途中何回かの分かれ道もあったが、迷わないためにこれまでずっと右を選択していた。


 本当に意味が分からいない。

 なぜ自分がここにいるのか、何があったのか。

 いったいどうなっているのか。気が狂いそうだ。


 しかし、その思考も、長くは続かなかった。


 悠人は突然、本当に突然。

 岩陰を曲がった時に、()()と出会ってしまった。

 二十メートほど先にいた。


 ()()は、悠人の肩くらいの背丈で、薄黒色の肌をしていた。


 耳は尖って長かった。

 鼻も尖って長かった。


 しかし、その鼻の上には、十個の目玉が埋め込まれていた。


 血走った眼玉が、周囲を不規則に見回している。


 その鼻の下には、サメのような牙があった。

 何百もある歯は、それぞれが別の生き物のようにぐちぐちと蠢く。


 その体は骨が浮き出る程に痩せていたが、一つの例外のように両の腕だけは、恐ろしく太くなっていた。

 直径三十cmはありそうな腕は恐ろしく筋肉質で、肩からぶら下がって、地面に擦れている。

 腕に這う様な血管が、網目のように巡っていた。


「ひッ……!」


 悠人はその異形に、異様な恐ろしさに、思わず尻もちを突く。


 それが結果的に、悠人の命を救った。


 怪物は、いつの間にか、悠人の前にいた。


 そしてその恐るべき腕を、悠人目がけて振り抜いていたのだ。

 その腕は、ちょうど立っていた悠人の頭部の位置を通り過ぎる。


 耳をつんざく破壊音が響き渡る。


 灰色の岩壁が破壊された。

 粉々に砕け散り、岩の欠片が辺りに飛び散る。


 悠人はぞっとして顔を青くする。

 そして次の瞬間、悠人は立ち上がり怪物に背を向けて逃げ出していた。


 何かを考えていたわけではない。


 反射的な行動だった。


 もしかしたら、生物の生存本能というやつだったのかもしれない。


 悠人は精一杯走った。


 腰が抜けていなかったのは奇跡である。

 逃げるという行動を取れたのも奇跡だった。


 ――なんだ、なんだ、なんなんだよあいつは。


 訳が分からない。


 とりあえず、追いつかれれば死ぬ。

 逃げ切る。隠れる。どうにかしなければ、どうにかしなければ。


「グゲギぎゃグガギョぐぺりゃギャギャッッッ!!!」


「ひぃッ……!」


 化物の叫び声。

 悠人の口からみっともない悲鳴が漏れる。


 後ろから乱暴な足音が聞こえる。


 追いかけられてる……ッ!


 必死に足を動かす。

 自分でも信じられないような速さがでる。

 でも、それでも背後の足音は遠ざかるどころかどんどん近づいてくる。


 もう今の居場所なんてわからなかった。

 洞窟の分岐も、現れるたびに左へ右へと適当に進んでいく。


 足音は遂に、悠人のすぐ近くまで近づいてきていた。


 グギャッグギャッという声が耳元で聞こえた気がした。


「ひぃっ」


 喉の奥から悲鳴が漏れる。


 逃げられない、と直感した。


 しかし、そのときはいつまでたっても訪れない。

 まだ、捕まらない。


 あいつの声はまだ聞こえる。

 それはなんだか、愉悦の混じった嗤い声のように感じられた。


 ――ああ、遊ばれているのか。


 何となくそう思う。


 悠人に後ろを確認する勇気も余裕もない。


 それでも足を止めたら終わりだという思いだけでひたすら足を動かす。


 そして、ついに。


 悠人は体がガクンッとつんのめる。

 足場の悪い洞窟で走ったせいで、遂につまずいた。


 ころぶ。


 そう覚悟した悠人だったが、衝撃はこない。

 どころかなぜか浮遊感が。


 悠人が転んだところは崖だった。

 しかし深い崖ではなく、その底には。


「ガボッ!? ゴボボッ!?」


 ――み、水!? 水の中に落ちたのか!!?


 ま、ずい。流され……


 くる、しい……



お読みくださりありがとうございます。

評価・感想いただけますとテンションが上がり投稿速度が上がりますので(たかり)、よろしければお願いします。


次話は今日中に投稿予定です。(できない場合もあり)

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