11 VSコボルトもどき
目の前で広がる青白い炎。
悠人はいきなりのことに、反射的に後ろへ跳び退く。
しかし吹かれ飛ぶ青炎はなおも伸び、悠人の身体を嘗め回そうとする。
――<巌の身体>!
纏わりつく炎は、身体をじりじりと焼いてこようとする。
悠人は全身が串刺しになるような激痛を覚えた。
「ぐがあああぁッ!」
しかしその炎は悠人の肌に阻まれ、焼かれることは無い。
だがこれまでの人生で感じたことが無い恐ろしい痛みが体中を蹂躙する。
悠人は反射的に<石の一撃>を発動した。
凶暴な石の弾丸は、炎の幕を突き進んで見えなくなる。
悠人は体を転がし、奴からさらに距離を取ることになった。
「ぐうぅ、グウウゥゥ……ッッ!」
炎が消えてからも、体中から突き刺さる痛みはまだ続く。
倒れた体は大きく痙攣するだけで力が入らず、口からは涎が零れて地面の岩を濡らした。
脳へは濁流のように痛覚から情報が集まり、意識が朦朧としてする。
体中へ動くように命令を送っても、全く反応がない。
でも、悠人はどうにかして眼球だけで奴を探す。
ピクピクと震える瞼を煩わしい。
奴は相変わらずその場に立っていた。
牙の隙間からちろちろと青白い炎を発し、こちらを睥睨する。
悠人にはその口が歪みこちらをあざ笑っているように見えた。
<石の一撃>は外れてしまったようだ。
炎で視界が潰れていた中発動していたため、無理もなかった。
奴はのしのしと悠人に近づく。
そして両腕の鎌のような爪をこちらに近づける。
まさに絶体絶命なさなか、悠人は痛む頬を我慢しながら動かし、にやりと嗤った。
瞬間。
下方から飛び出した石が下顎から奴の頭を貫く。
そして、その大きな眼球を弾けさせた。
――<石の一撃>
真っ赤な血の噴水が噴き出し、そのしぶきが悠人の頬を濡らす。
奴の体は後ろに倒れ、数度痙攣するとその動きを完全に止めた。
悠人はそれをしばらく観察していたが、もう動き出さないと悟ると、芋虫のように這いずって壁に背を持たれかけさせた。
「ぐうぅ……ッ! い、つつ……油断するから、そうなるんだ……い、や、それはブーメランかな? ははっ」
悠人は笑う。
痛みに呻きながら体をチェックすると、その肉体には僅かなやけどが見られるもののそのほとんどが無傷だった。
「傷は、ほとんどない、か……、<巌の身体>が、働いたのか……? いや、でも、痛みは……ああ、そうか。体は頑丈になるけど、痛みはそのままってか……? はは、ふざけんなよお前……」
痛みを感じつつ苦笑いをしながら、傷を回復する。
――<外傷治癒>
ゆっくりと、やけどが治ってゆく。
深呼吸しながら待っていると、痛みは少しずつ引いてくる。
「ふぅ……」
あの狼頭のコボルトもどきめ……
えらい目にあった。
まさか炎を吐いてくるとは。
対処法としては、炎を使ってきた瞬間に背を低くして前に進むことだろうか。
炎はコボルトもどきの口から放射状に吐き出される。
横に避けても避けきれない場合があるし、視界が制限されるのは変わらない。
前であれば、炎が頭部から出ることから攻撃の死角ができる。
悠人はこぶしを握り締めると、身体を腕で支えながら立ち上がった。
先ほどまでのしっかりとした足取りは無く、身体にふらつきが見える。
しかし、その頭は先ほどまでとは違い異様に冴え渡っていた。
瞳は、獲物を探すようにギラギラと輝く。
しばらくすると、肌にざわつきを感じる。
これはゴブリンもどきの感覚じゃない。
悠人が立ち止まり少し経つと、洞窟の陰からコボルトもどきが姿を現した。
それを見た悠人は、前に向かって走り出した。
体が僅かに震える。
コボルトもどきは牙の間からチロチロと青白い炎を漏らす。
そして、その口から猛炎が噴き出された。
悠人はその瞬間、前へと飛び込む。
炎は悠人の頭の上を通り過ぎた。
――<石の一撃>
石の弾丸は、コボルトもどきの喉を貫いた。
頭上を覆っていた炎は掻き消え、奴の体はもんどり打って倒れた。
「いつつ……」
ゴツゴツした岩の地面が地味に痛い。
しかし何とかなった。
だが、この方法は安定しそうにない。
何か別の方法を考えないとな。
悠人は、コボルトもどきの死体に近づき情報体を入手した。
情報体の種類は、ほとんどゴブリンもどきと同じだった。
違うのは牙の形が違うのと、鎌の形をした爪の情報体が手に入ること。
そして、喉の辺りから『燃焼』の情報体を手に入れた。
「あ……さっきのやつから情報体貰うの忘れてた」
悠人は頭をガシガシと掻いて、元来た道を戻っていく。
戦わずに強くなれるなら、それに越したことは無い。
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