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9 VSゴブリンもどき(奇襲)


 物陰に隠れて待っていると、ゴブリンもどきがゆらりと現れる。


 十個の目。

 まるでイソギンチャクのようにズラリと生えた円錐状の牙。

 異様に肥大化した腕。

 余りに異様な姿。


 しかし、すでに数えきれない程こいつを倒している悠人に動揺はまるでない。


 調べたいのは<石の一撃(ロックシュート)>がゴブリンもどきに通じるか、だが、もっと正確に言えば戦闘状態のときの異様に体が硬くなったゴブリンもどきに通じるか、だ。


 奴らは油断しているときはなぜか体が柔らかくなるから、今まではそれを狙って倒していたが、この洞窟内を探索することになれば、きっと、いや絶対奴らと正面切って戦わなければならないときがくる。

 その時にこちらの攻撃が通用するかが肝要だ。


 しかし、こちらの存在を敵に知覚させてから攻撃を行うのは危険だ。


 もし仮に<石の一撃(ロックシュート)>が通用しなければそれでジ・エンド。

 そもそも実験する意味が無くなる。

 ならばこちらは安全でなければならない。


 少し離れた真正面から放ってみるか。

 射出点をこちらの場所からずらせば、仮に見切られてもこっちが見つかりはしないだろう。


 情報体を自分から離れた場所に読み込み(ロード)するのは、いささか集中しなけらばならないが、今はそれは隙にはならない。


 <石の一撃(ロックシュート)>の射程は大体二十メートルといったところ。

 ゴブリンもどきとの距離は、少しマージンを取って十五メートル程でいいだろう。


 悠人はゴブリンの前方十五メートルあたりに集中する。

 すると、そこから十センチ程の石の円錐が形成され、同時に勢いよく射出された。


 <石の一撃(ロックシュート)>の円錐は、ゴブリンもどきの速さに慣れた悠人の目を持ってしても見切れない速度だった。


 しかし、ゴブリンもどきは何かに気づいたのか、反射的ともいう動きでその頭部を肥大化した両腕で防ぐ姿勢を取ったのを悠人はぎりぎり知覚した。


 一瞬ののち、何かを軽く叩くような小気味のよい音が洞窟内に響く。


 何の音だと疑問を持ったその瞬間、ゴブリンもどきの体が仰向けに倒れる。

 まさかと思い、周囲を警戒しながら確認しに行った悠人の目に映し出されたものは、攻撃を防ごうとした太い二本の腕ごと、その頭にソフトボール大の風穴を開けているゴブリンもどきの姿だった。


 「よっしゃっ!」


 悠人は小さくガッツポーズをとる。

 どうやら<石の一撃(ロックシュート)>は戦闘状態のゴブリンもどきにも十分通用するようだ。


 試しにゴブリンもどきの腕を指で叩くと、コツコツと硬質な音が返ってきた。

 予想以上に硬い。

 確実にこの洞窟の石以上だ。

 これの情報体を手に入れられたらいいのだが、どう試行錯誤しても、その類の情報体は入手できなかったのだ。


 悠人はいつも通り、ゴブリンもどきの死体からできる限りの情報体を入手すると、いつもの休憩場へと戻っていった。






 そしてしばらく時間が経った頃。


 そこからは表情をいつもより硬くした悠人が出てくる。

 ついに、この洞窟内部の探索を開始するのだ。


 正直あてはない。

 闇雲に動くしかないだろう。

 途中で力尽きて死ぬかもしれない。

 それでも、ここで来る希望もない助けを待つよりはずっといいはずだ。


 身に纏うのは制服のブレザー上下。

 ズボンの左ポケットには能力値を教える羊皮紙。

 ズボンの右ポケットには念のため手に入れていた、ゴブリンもどきの牙数本。


 内ポケットにはもはや充電が切れて使い物にならなくなったスマホと、ずっと入れ忘れていた一個の飴玉がある。

 ここに来てからは大事に取っていたら食べる機会を失った。

 もはやお守りに近い。


 悠人は左右のポケットを二、三回確かめるように叩く。

 そして一度胸元をぎゅっと握りしめて、噛み締めるように洞窟の奥へと進んでいくのだった。


お読みくださりありがとうございます。

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