8 スキルメイキング
ようやく主人公視点。
悠人の目の前で、ゴブリンもどきの頭蓋が砕け散る。
いったいこれで何体目だろうか。
正直覚えていない。
ただ、多いことは分かっている。
一体目のゴブリンもどきを殺して以来、同じ方法でずっとこいつらを殺し続けてきた。
いったいどれだけの時間が経ったのだろう。
長い時間が過ぎている気がする。
なんかすでに、一週間は過ぎている気分だった。
なのに、何故か腹は減らない。
僅かな空腹感があるだけだ。
それもちょっと小腹が空いた程度で、ふとした拍子に忘れてしまうくらい小さい。
水のまったく飲んでいないというのに、実に不思議な話である。
身体の不調は特に感じないので、そのままになってしまっているが、そろそろ心配したほうがいいかもしれない。
人間は、空腹の時間が長くたちすぎると、逆に空腹を感じなくなると聞いたことがある。
悠人は自分が隠れるそのまた目の前で、自分の読み込み放った小石がゴブリンもどきの頭を砕いた光景を見ながら、その左手に握った羊皮紙に目を落とした。
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魔力:159
気力:586
霊力:1002
特異能力
セーブ&ロード
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ゴブリンもどきを殺してまくっていたら、いつの間にか上がっていた各数値。
正直これにどんな意味があるのかは悠人には分からなかったが、良いことではあるのだろう。
最近はゴブリンもどきの動きが良く見えるようになった。
ここに来て最初のころは、あまりの速さにもはや消えているとしか感じなかった奴らの動きも最近は、少し速いなーくらいで普通に視認できる。
悠人の目が慣れたのか?
いや、流石にそれは無いだろう。
あんな超移動が慣れくらいで容易に視認できるわけがない。
悠人の身体能力が上がったと考えるのが自然だ。
するとこの羊皮紙の数値は、いわゆるゲームのステータス的なあれなのだろうか。
分からないことだらけで、簡単に信じることはできないが、可能性の一つとして十分に考えられるだろう。
そして”情報体”。
ゴブリンもどきの肉体からは、いくつもの情報体をいただくことが出来た。
脳のようなものからは『魔力』や『接続』の情報体を。
肺のようなものからは『放出』や『浸透』の情報体を。
心臓のようなものからは『気力』や『収縮』の情報体を。
腸のようなものからは『吸収』や『融解』の情報体を。
肝臓のようなものからは『浄化』や『変性』、『融解』の情報体を。
腎臓のようなものからは『強化』や『調整』の情報体を。
そしてその他のまがまがしい器官からは『霊力』『収束』『圧縮』『変性』の情報体を得ることが出来た。
また、牙から『形状:ゴブリンもどきの牙』、『材質:ゴブリンもどきの牙』。
眼球から『認識』。
血から『浸透』、『透過』、『巡回』、『再生』。
肉片から『肉体』。
皮片から『再生』、『防護』。
他にもいろいろと集められたもののあったが、大体がこんな感じだった。
情報体について。
幾つもの種類が集まったこともあって、色々と実験を行ってみたのだが、それによっていくつかのことが分かった。
まずは、最初から気になっていた高Lvの情報体による謎の高攻撃力。
そして情報体の統合による強化。便宜上Lvアップと呼んでいるそれが、何を強化しているかという点である。
これは悠人の結論として、情報の優先度とでもいうべきものであると予想された。
優先度。
もしくは情報の強度とでもいうべきか。
Lvを上げれば上げる程、その情報の優先度が高くなる。
つまり、どんどんその情報を優先的に行おうとしてくる。
仮に放物線であれば、Lvを上げる程、物理法則を無視して放物線を描こうとする。
仮に最大Lvまで上げると、その先に壁があろうと何があろうと、それを砕き掘り進んででも放物線の挙動を維持しようとするのだ。
だから壁に向かって『放物線LvΩ』を使われた小石は、その壁をドリルのように掘り進んで小石自体が砕かれようとも放物線上に移動し続けた。
ただ実際のところ、小石を基点とした情報体だったため、その基点が小石の形状を保てなくなるほど粉々に砕けるとその効力を失ったようだが。
悠人はこの情報体の力を使って、そろそろ移動を始めるつもりだ。
こんな場所にいつづけても未来はない。
ゴブリンもどき共の攻撃はすでに、避けられるほどにまで目が追い付いた。
あとは真正面からでも通用する攻撃手段を用意するだけだ。
そして、それを作るだけの用意はすでにある。
悠人が所持している情報体はすでにいくつかがLvΩへと至っていた。
今持っている数は。
『放物線LvΩ』×1
『加速直線LvΩ』×3
『高速直線LvΩ』×1
『材質:石LvΩ』×2
『形状:ゴブリンもどきの牙LvΩ』×1
『肉体LvΩ』×1
『再生LvΩ』×1
『防護LvΩ』×1
最初に比べれば、ずいぶんと数が増えた。
これだけあればゴブリンもどきにも負けない十分な武器になる。
いくつかの情報体を組み合わせて、一つの武器にするのだ。
まずは、
『材質:石LvΩ』×1、『形状:ゴブリンもどきの牙LvΩ』×1、『高速直線LvΩ』×1
を組み合わせる。
高速直線は、身体能力が向上してから取得したものだ。
今の悠人は小石を千、二千全力投球しても全く疲れないほどには力が増していた。
そしてその投擲速度も人間ではありえないほどにまで向上している。
それに残りの二つを組みあわせると。
『石』を素材に、円錐状の『ゴブリンもどきの牙』の形を取り、『高速で直線状』に射出される技になる。
『ゴブリンもどきの牙』はLvΩ。
最高値の優先度は、たとえその材質が石でも、その形状を優先的に保持しようとする強力な力が働き、破壊することは困難だ。
円錐状の形を持つ牙は非常に鋭利で、少しつついただけでも指の腹が破れ血が流れるほど鋭い。
ゴブリンもどきなど簡単に貫通できるだろう。
この組み合わせ。
何か記念に名前でも付けるか。
自分が作った第一号として。
何にしよう……
……。
<石の一撃>、で。
取り敢えず、これが攻撃用。
次は防御用。
『肉体LvΩ』×1、『防護LvΩ』×1
『肉体』を『防護』する技。
<巌の身体>。
もう一つ。
『肉体LvΩ』×1、『再生LvΩ』×1
『肉体』を『再生』させる技。
<外傷治癒>。
<巌の身体>は打撃や斬撃などの物理的ダメージを軽減できる。
<外傷治癒>は怪我を急速に回復することができる。
ただし、この二つの防御用の技はあまり頼りにしない方がいいだろう。
技を頼って敵の攻撃を受けるより、攻撃を避けた方がはるかに安全だ。
<巌の身体>を使ってみると確かに硬くなった感覚はあるが、どれだけ頑丈になったかは分からない。慢心して防御を抜かれ致命傷を負ったらお笑い種だ。
<外傷治癒>もいつの間にかついていたかすり傷をすぐ治癒できたが、どれだけの深さの傷を治せるか分からない。
うん、避けるの前提で。
まずは<石の一撃>の威力をゴブリンもどきで確かめて、それから行動を開始することにしよう。
現在の能力値
魔力:159
気力:586
霊力:1002
特異能力
セーブ&ロード
技
<石の一撃>
…円錐形の石を亜音速で打ち出す。
形状の情報体にて破壊困難、
移動の情報体にて防御困難な一撃となっている
<巌の身体>
…対象の物理防御力を上昇させる。
<外傷治癒>
…対象の傷を癒す。
お読みくださりありがとうございます。
やっとやりたいことが出来た。
これから戦闘マシマシになると思います。
ついにタイトルを回収できるときが……!