第四話 商人組合からの依頼 秋の五目猟 その1
これで厄介な奴らをゴブドリンに預けて終わりと思っていた。なのだが、あろうことかイルメリとウルメリの二人は、俺の屋敷まで付いて来ていた。
「何でついて来てんの?」
「カムロ・シドーの近くには、いつも事件の香りがするのだよ!」
おれはどこぞの名探偵か何かか?
「……調べれば調べるほど、カムロさんは事件に愛されているようですし」
納得いかねえ。
だが、イルメリたちが言うように、渋い顔の俺をさらに渋らせる出来事が本当に起きてしまった。
屋敷に入るや、ニーカがラハヤたちを連れて大慌てでやって来たのだ。しかも、商人組合のゴブリンたちも慌てた様子だった。狩猟組合の受付嬢リゼットもいる。
「カムロ様大変なんです! 私の実家が!!」
「お兄さん大変だよ。商人組合さんの農場帯が害獣被害に遭ってるんだ。規模も例年より大きいってゴブリンさんとリゼットさんが」
「シドー、我々も早めに向かったほうがいい。既に狩猟組合の要請で、猟師たちが向かってる。冬に向けて我々も財を蓄えねば」
おそらくこの世界は、毎年こうなのだろう。食欲の秋は鳥や獣たちにも当てはまる。冬眠に向けて食いだめする熊や、冬に備えて脂肪を蓄える狸などによる獣害も、それはそれは良くあることだ。
しかし、俺は渋い顔をした。ニーカの実家なんぞに、例え仕事であっても行きたくない。着々と外堀を埋められて、本丸だけ残った大阪城のように最後には陥落が待っている気がするのだ。そうなれば最悪である。
「一応、依頼書を渡しておきますね」
リゼットに渡された依頼書には、このように書かれていた。
『収穫を控えたカブ類、芋類、柑橘類、カボチャやリンゴの被害が多発しております。例年よりも被害が多く、猟師の皆さまには五目猟をして頂きたく思っております。報酬は獲物の種類、数で決めさせて頂きます。商人組合農業部門』
電気柵や害獣対策グッズで対策しろと思わないでもないが、この世界の国々は山と人が住む場所の境目が日本以上に曖昧だった。それに電気柵なんぞないだろうし、国策で狩猟組合を作るほど猟師が出張って対処するのが当たり前なのだ。
日本が国策で職業猟師を増やすなんて現実問題で難しいから、そこはこの世界の良い所だ。
「でもなぁ……」
やっぱりニーカの実家に行きたくねえよなぁ。
「お願いですカムロ様! 実家は夏に高級作物を植えたばかりなんです! このままだと家族が飢えちゃいます!」
俺の心の安寧を取るか、猟師としての責務を取るか。実に悩ましい。人手を少しでも集めて、対処してもらいたいという商人組合と狩猟組合の気持ちも分からないでもない。
「私たちも行くから安心するのだよ!」
「……ウルメリたちは探偵、獣の痕跡捜査もお手の物です」
お前らも来るのか。
「そういえば、お兄さん。その子たちは?」
「なんだろうな。一応商人組合の者……かな?」
「なら安心だね」
ラハヤがイルメリたちに優しく笑いかける。これでもう、こいつらも同伴しての猟になりそうだ。何か方策を考えねば、また面倒なことになりかねない。
「それでシドー行くのか?」
「カムロ様、お願いします!!」
モイモイをちらと見る。新しい猟具を手に入れたモイモイは、あからさまにそわそわしていた。早く魔銃を試したいのだろう。その姿が、ガンショップで初めての猟銃を手に取った俺の姿と重なった。あの時の俺はサベージ220Fを手に取り、少年のような感情が湧きたっていた。だからこそ、彼女の気持ちが分かる。
「モイモイは猟に行きたいのか?」
「シドーさんに任せますけど、私個人としては試してみたいです」
「行くか」
モイモイの奴に猟銃の扱い方を叩き込むのには、うってつけの場であるのは確か。それなら、今回の五目猟に参加するのもいいだろう。
「では、明日の早朝に出立をお願いします」
商人組合のゴブリンから、農場帯の地図をもらう。距離は馬車で半日ほどの距離で近い。対象の獲物は熊に狸に穴熊、猪に鹿、害鳥全般と多岐に渡っている。




