第二話 プロローグ 黒い狐と白い狐 後編
やっと帰って来れました。横浜の親戚の墓参りをした後→箱根→伊勢→道後とお盆休みを有効活用して旅してたのですが、まさかの台風が直撃するとは。遅れて申し訳ないです。
ドヴァの鍛冶屋に入ると、既にモイモイがドヴァと揉めていた。彼女が広げているのは、精霊国で興味を示していた魔銃の設計図。それの写しだった。どうやら諦めきれず、作れそうなドヴァを見つけたらしい。彼は魔石実包を作ってしまうほどに、魔石にも精通している。雷管にも粉上の赤い魔石を使っていたし、魔石に関する独自の技術体系を持っているのだろう。
「おお、シドーじゃないか! お前さん良く来てくれた! このガキには、ほとほと困っていた所だ!」
「ガキって何ですか!! 私は大人です!!」
「おい、それって……呪いに掛かってそんな体に――いてっ!?」
同情する素振りでからかってやったら、モイモイに脛を蹴られた。ちくしょう、痛い。
俺の後ろにいるイルメリ、ウルメリに気が付いたモイモイが、不審者を見るような目で俺を見る。
「子ども好きが高じて攫って来たのですか?」
「ちげえよ。あれだよ、新手のストーカーだよ」
「あの嬢ちゃんたちか。そういや朝来たな」
辺りを物色していたイルメリたちが、こちらの視線に一瞬固まった。イルメリが咳ばらいを一つすると俺たちに向き直る。
「モイモイ・マイトパルタのことも調べは付いているのだよ! グレーメンの冒険者組合を半焼させ出禁になった悪党なのだ!!」
「ちょっとぶん殴って来ていいですか?」
怒り心頭のモイモイが、殺気立ち口元をひくつかせている。
「悪党と悪党が結託するとは、怪しさが鰻登りなのだ!」
「……姉さん、魔導士さんは一応だけど赦されてるよ?」
「失礼な狐獣人共ですね。私はとっくに借金を返済し、国から赦されています! 悪党呼ばわりされる筋合いはこれっぽっちもありません!」
借金返したの実質俺だろ。
「お前さん、また厄介事に巻き込まれてるのか?」
俺の後ろではモイモイとイルメリが言い争いをしているが、そんな些事はそっちのけで俺は粛々と用事を終えることにした。
「ええ、まあ。俺は魔石実包の補充をお願いに来まして」
「ああ、いいぞ。ちょっと待ってろ」
「ほら、持ってけ」
銀貨一八枚を支払い、青と黄の魔石実包を補充した。
「でな、儂も聞いておこうと思ってよ」
「何でしょう?」
「あの嬢ちゃんに、魔銃を持たせるのはどう思う?」
「そうなれば、俺はあいつに銃の取り扱いを厳しく厳守させますけど……。でも、ドヴァが困ることになるのであれば、俺としても困るので難しいですね」
「商人組合のゴブドリンがな……」
「あの老ゴブリンさんですか?」
「あいつが言うには大昔に逆戻りするかもしれないってよ」
「大昔?」
「魔獣が地上に蔓延っていた時代さ。そうなれば、魔銃ぐらいは解禁してもいいかもしれんと思っている。だがそれは、儂が信用するに足ると思った人物にのみだ」
ドヴァが手招きし、俺はそれについて行った。
奥の設計図やら工具が雑多にならんだ部屋に立つと、ドヴァが天井から垂れる紐を引く。
「うおぅ!?」
ごうんごうんと回りながら床が下がり、俺は隠し部屋に案内された。
その円形状の隠し部屋の一面には、上下二連の散弾銃のような物や、三八式改狙撃銃の模倣品と思われるボルトアクションライフルがある。机には実包などの弾薬や、作りかけの魔石実包が雑多に置かれ、お手製のリローディングマシンがあった。
「儂の秘密の工房へようこそ」
ドヴァが不敵に笑う。
「モイモイの奴に持たせる気はあったんですね」
「あいつに銃の取り扱いを厳しく厳守させる、とお前さんは言ったろ? それを信じて儂の父親が作った魔銃を渡そうと思ってな」
ドヴァが俺に手渡したのは、上下二連の中折れ式散弾銃のような魔銃だった。普通の銃との違いは、銃身に呪文が刻まれ、側面に丸い無色透明な魔石が嵌め込まれていることだ。
「元々儂らドワーフは魔法が不得意でな。微々たる魔力で最大限の威力がある武器を作ろうと試行錯誤したのが、この魔銃なんだよ」
ドヴァが無色の魔石実包の中身を見せてくれた。薬莢の中は火薬ではなく、緑色の魔石が砕かれた物だった。
「こいつは空気で飛ばす。火薬じゃない」
「俺が渡すんですか?」
「儂はお前さん以外は信用してない。それにそれは売り物じゃない。儂は生意気な小娘に説明するのも億劫で面倒なんだ。だからお前さんに全て任せる」
そう言って五〇発入りの弾薬箱も渡され、俺はモイモイのところへ戻る。
俺が抱える魔銃を見るや、モイモイの目が煌めいた。
「これは魔銃ですか!?」
「ドヴァさんが作……いや、地下迷宮から掘り出した物を使えるようにしたそうだ。ほら」
モイモイが魔銃を見よう見まねで構えて見せる。だが、人に向け始めたので頭を小突いた。
「いたっ!?」
「人に向けるな。それを向けていいのは、的か獲物か魔獣だけだ。例え実包が入ってなくてもな」
「もしかして、これからシドーさん直々の厳しい訓練がついたり?」
「銃の扱い方は、俺の世界のやり方で厳守させるから覚悟しとけよ」
モイモイの目が泳ぐ。彼女にとっては新しく使える武器が手に入った認識なんだろうが、俺がその認識からぶち壊して猟銃としてだけ使わせるつもりであるのが分かったようだ。
唐突に外が騒がしくなった。
人々の悲鳴のような驚きの声だ。イルメリたちが外に出て、俺とモイモイも後に続く。ドヴァもついて来ると通りに大きな影が差した。
空を見上げると、大きな鉄色のドラゴンが上空を旋回していた。




