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第一話 プロローグ 黒い狐と白い狐 前編

実家に帰ったり墓参りと旅行と忙しくなったので八月十六日が次回更新になります。


 季節は秋の終わりの晩秋。最高気温は一〇度もなく、最低気温はマイナス三度ほどになる。必然的に厳しい冬に向けて、薪を割ったり保存食を蓄えたりと各々の家庭は忙しく動きまわる季節だ。


 朝方の俺もまた、ニーカがせっせと薪割りをしていたので、彼女の代わりに薪割りを申し出て汗を流していた。

 

 祖父の家に薪ストーブがあったのもあり、薪割りは手慣れている。それに女性にだけやらせるものでもないだろう。男がやることという意識もあったから申し出たのだが、何故だかニーカは俺に抱き着くほど喜んだ。正直、少し鬱陶(うっとう)しい。


「ニーカさん、離れてくれ」


「ひ、酷い!!」


 パッカンパッカン薪を割っていると、門前で呼び掛ける声が聞こえた。声色から女性だと思うが、初めて聞く声だ。すぐにニーカが応対に向かう。俺も作業の手を止めて、聞き耳を立てた。


「どちら様ですか?」


「私たちはバートン探偵社の者なのだ! ここに魔獣を召喚し、討伐することで金銭と名声を得る悪党がいると聞いてやって来たのだ!! 出て来いシドー・カムロ!!」


「姉さん、それは言い過ぎじゃ……。まだ分からないんだよ?」


 ああ? 俺が疑われてる? 何でだよ?

 

 軽く頭に血が上った。これまで体張って魔獣の対処をしてきたというのに、それが原因で疑われるのは腹が立つ。


「おい、俺になんかようか?」


 門から出た俺の前に立っていたのは、二人の背の低い狐獣人だった。片方の長い黒髪の奴は、生意気そうな顔をして服装も黒いフード付きケープコートを着ている。


 もう片方の長い白髪の奴は、俺を見るや怯えて黒い奴の後ろに隠れた。その服装は、白いフード付きケープコートで、二人は姉妹のように見える。さながら黒い狐と白い狐といったところか。


「カムロ様、大丈夫です。私は何があっても信じてます」


「そりゃどうも。で、あんたらの名前は?」


「私が姉のイルメリ。そっちの妹がウルメリなのだよ」


 見れば見るほど十歳ぐらいの少女だ。ガキの遊びに付き合っていられるほど、俺は暇じゃない。今日だってドヴァさんの鍛冶屋に用があるし、商業組合に行って老ゴブリンに精霊国であったことを話す必要がある。


「ああ、うん分かった。良し、帰ってくれ」


 黒い狐獣人のイルメリが目を見開き、狐耳をぴんと伸ばして不快感を露わにする。


「この無礼な態度、あったまきたのだ!!」


「……あ、あの、私たちも仕事なので」


 白い方もおどおどしながら食い下がろうとする。だが、そんなこと俺が知ったことではない。


「カムロ様、いいのですか? 探偵社と言えば身辺警護はもちろん、憲兵から依頼を受けて犯罪を未然に防いだり解決したりするのが仕事なんです。非協力的と見なされたら実力行使されますよ」


 このちびっ子が? モイモイよりも小さいぞ。


「大体俺に怪しい所なんてあるか?」


 イルメリがモイモイよりはある胸を張り、俺の疑惑をつらつらと宣った。


「一つ、黒い杖という古代ドワーフの遺物を使っている点が怪しいのだよ。冒険者でも使える者はいなかったのだ」


「遺物? いや、遺物じゃないけど」


「……ドヴァ・ガーキンさんが、そう仰っていました」


 ドヴァさんが? なんでだ? ……ああ、出所(でどころ)や仕組みを聞かれた時の逃げ道に、魔法の黒い杖ってことにしてるのか。なら、口裏合わせねえと最終的に俺が困るじゃねえかよ。


「まあ、そうだな。うん」


「二つ、商業組合のゴブリンを使って何やら調査させているのも怪しいのだ。ゴブリンたちは銀貨二〇枚ごときで、全国規模の調査など請け負わないのだよ。彼らを脅して良からぬことを企んでいるに違いないのだ」


 あれは良心価格だったのか。後でそれとなくお礼を言っておこう。


「企んではないが、俺が元の世界に帰るためと、呪いを解くために手伝ってもらってる」


「……どうやって信用を勝ち取ったのですか?」


 そんなのは決まってる。古川三郎さんが、ゴブリンたちと繋がりを得ていたからだ。俺はそれを上手く使わせてもらってるだけに過ぎない。それも認識票を持ち帰らなければと思った理由の一つでもあるが。


「ゴブリンが崇める神様と俺が似てるんだとさ」


「三つ目は特に怪しいのだよ」


 まだあんのか。


「つい最近、帝都で見かけるようになったシドー・カムロがいるところに、魔獣騒動が起きているのだ」


「そりゃしょうがねえだろ。いるんだから」


 魔獣に愛されてるラハヤさんがな。後は魔食会が迷惑なことをやっているせいだ。俺たちは不幸にも居合わせているだけ。それは二重にも及ぶ不可抗力の極み。


 門前で招かれざる客相手に対応していると、鳥撃ちに出かけていたラハヤとキセーラが帰って来た。


 二人とも鳩を二羽ずつ腰に下げている。


 今日の晩飯は鳩料理か、楽しみだな。


「お兄さん、ただいま」


「ああ、おかえり」


「シドー、そいつらは誰だ?」


「バートン探偵社とかなんとか」


 キセーラがイルメリを怪訝な目で見る。そして、彼女の胸辺りにあるバッジを見て納得したようだ。


「なるほどな。シドー、こいつらは誰の依頼も受けていない。大方(おおかた)、帝都で目立ってるシドーの裏を暴いて名を上げようとしているのだろう。拍を付けなければ、この帝都ではやって行けない」


「な、なにをー!?」


「……姉さん、落ち着いて」


 図星だったのだろう。イルメリが両手を上げて抗議した。


 どうやら、無名の奴がいちゃもんを付けに来ただけらしい。ならば、取るに足らない問題ということだ。俺は俺のすべきことを片付けよう。


「じゃあ、俺はドヴァさんのところ行くから」


「行ってらっしゃい、お兄さん」


 ドヴァさんの鍛冶屋に行く。なのだが、こいつら狐獣人の姉妹は、バレバレの尾行で付いて来ていた。


 全く何で面倒事に限って、向こうからやって来るんだろうな? 



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