第四七話 エピローグ 秋の旅の終わり 後編
自分の部屋に戻った俺は、忘れないうちにニーカ宛に手紙を書く。面倒だが、約束をしたからには書いてやろう。そう思いながら書いていると、キセーラが部屋に入ってきた。
また良からぬことでも考えているんじゃあないだろうな?
「どうした?」
「今回の旅は、シドーが良く私たちの前から消えただろう? グリフォンの時と神熊の時の二回も。それでな……」
「だから機嫌が悪かったのか?」
「そ、それはもういいだろう。さっきのは少し口が過ぎた。それで、その、これをシドーにだな……」
歯切りが悪いキセーラの手には、緑色のミサンガのような鈍く光る腕飾りがあった。美しい黄色い模様がある。あのキセーラが女らしい物を編めるとは驚きだ。
「腕飾り?」
「魔法の糸で編み込んである。これがあれば遠く離れた私と念話ができる。どうだ? ラハヤが作った銃袋よりも機能的だろう? 模様も私とお揃いだ」
「全員分あったらもっと便利そうだが――」
「それは嫌だ」
即答で却下された。
「それで、シドーは何を書いているんだ? 見せてくれ」
ニーカ宛の手紙が取り上げられた。
「さらっと検閲するんじゃねえよ」
「エルフのことを事細かに書かれても困るからな」
「おい、それ今考えたろ。さっさと返せ」
俺が取り返そうとすると、キセーラが背を向けてガードする。
書いてある内容は至って普通の手紙だ。だからといって、勝手に見られるのはいい気はしない。
「ふむ。音読してやろう」
「ちょっと待て、音読する必要はねえだろ!!」
咳ばらいを一つして、キセーラが音読を始めた。
「ニーカへ。手紙を送るのが遅くなってすまなかった。魔獣に襲われたり、神熊と不意の遭遇で出すのが遅れた。この手紙と一緒に家に向けて出立するから、帰りは一週間後ぐらいになる。銀貨を一五枚ほど一緒に送るが無駄遣いはするなよ」
「フン!!」
俺の手刀が、音読を終えたキセーラの脳天に直撃した。
「いっだっ!?」
「ふざけ過ぎだ馬鹿」
涙目ながらも勝ち誇った笑みを浮かべたキセーラは、さらに最後の追伸まで読み上げた。
「書くかどうか迷ったが、いつ俺がこの世界を去るのか、それが分からなくなって来たから書いておく。また皆で食事をしよう。終わり」
「だぁ~!! くそが!!」
無理やり取り上げた。
「はっはっは!! シドーは本当に素直じゃないな!! 手紙でも口下手だとはな!!」
「うっせえ。余計なお世話だ」
「はははっ! はぁ~、清々した。まあ、手紙の方がいくらか素直になっているようだ。特に追伸に本音が出てる」
くっそ、書きなおそうかな……。
「筆が滑っただけだ。……くそ、何か今日のキセーラ、色々と酷いぞ」
「別に酷くはない。ユーマライヤに聞いたことで、少しモヤモヤしていただけだ。それも今のですっきりしたがな」
「あのサイコレズ、べらべら喋りやがったのか!?」
ちくしょう、まじかよ。
力が抜けて椅子に腰を落とした。あれが全てキセーラに筒抜けになったかと思うと、がっくりと項垂れてしまう。
すっきりした顔でキセーラが部屋から退出した。代わりに俺がもやっとしたが、まあ彼女のガス抜きになったのなら良しとしておこうか。
そして翌日の朝に出発し、俺たちの家へ向けて馬車を走らせる。
山を越えて、森の中を通り、丘を越えて、一週間近くかけて帝都に戻った。季節は晩秋で、俺たちの秋の旅も屋敷に到着することで終わりを迎える。
「カムロ様、皆さん!! お帰りなさいませ!!」
笑顔で出迎えてくれたニーカに、ラハヤたちも笑顔で返す。談笑をしながら屋敷に入り、浴場で疲れを取って、ニーカとラハヤが作った料理を皆で食べる。それはやはり安心するもので、食卓を囲んでの旅の話も盛り上がった。
「それでお兄さんは、ニーカさんにどんな手紙を書いたの?」
「それを聞いちゃうのか? 別に変なことは書いてない」
「私も聞きたいです。シドーさんは素直じゃない人ですから、きっと手紙じゃないと素直になれないと、私は思うのですよ」
ラハヤもモイモイも、興味深々で手紙の内容を聞いてくる。それを聞いたキセーラは笑いながら「あの手紙は笑えるぞ」と要らないアシストを決めて、とうとうニーカが手紙を皆に見せてしまった。
それを見たラハヤとモイモイは、やはりどこか靄が晴れたような顔をして笑っている。どこもおかしなことを書いたつもりはない。ただ、ほんのちょっぴり思うところがあって、素直に書いたまでのこと。
「ふーん。お兄さんってこう思ってたんだね。この手紙、面白いかも」
「追伸が全てを物語ってますね」
「カムロ様は意外と優しいですよねぇ」
「……うっせえ。もう二度と書いてやらんからな」
俺がふてくされ、ラハヤたちが笑う。何とも腹が立つ空気だ。だがまあ、こういう空気も偶には悪くない。今日ばかりはそんな気分だった。
近いうちに第三部、晩秋と冬の話と春の話書きます。モイモイの得物も増えます。




