第四六話 エピローグ 秋の旅の終わり 前編
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途方に暮れていても仕方がない。俺が古川三郎のように姿を変えてしまうのかは、この際横に置いておく。古川三郎の認識票のことは、神馬の馬面を殴ってでも手伝わせてやる。
それに老ゴブリンに今あったことを話せば、もっと力を入れて手伝ってくれそうだ。神々が集う泉の正確な位置の情報集めは、ゴブリンの人海戦術に頼めばいい。
「シドー!」
「お、キセーラか。何だよ、随分と早いじゃないか」
「陛下に頼んで『視て』もらったんだ。陛下は一度視た者の場所を把握できるんだ」
「良く頼めたな」
「側近に姉がいるからこそのできた無茶だ。だが、そんなことはどうでもいい。あれは一体何だったのだ? 私には神熊に見えたぞ」
やっぱり、神熊だったのか。古川三郎さんは本当に神様になっちまったってことか。だから、もう日本には戻れないから俺に託したのか……。
「さっきのは古川三郎さんだよ。それでこれを託されてな」
「これは何だ?」
「認識票って奴だ。身元証明のための、それを実家の家族に届けてくれってさ。まあ、家族っていったって、五十かそこらのお孫さんになるんだろうけどな」
「受けたのか?」
「あの人は望まぬ形でここに来た。帰りたくても帰れなくて、藁にも縋る思いで俺を頼ったんだよ」
俺だってさんざ人に助けられてる。少しばかり返したっていいじゃないか。
「シドーは本当に頼られたら取りあえず助けようとする」
「……手が届いたからな」
キセーラは苦笑いを浮かべたが、どこか嬉しそうにしていた。
「さあ、戻ろう」
「戻る? 簡単に戻れるのか?」
「ここは宮殿の裏山なんだ。洞窟と洞窟が繋がっているから、シドーは私に付いて来てくれ」
キセーラの後に続き、近くの洞窟内に入る。
そうして、数十分歩き続けて宮殿裏に出た。
「いいのか、こんなところに入り込んじまって」
「既に陛下から許可を取ってある。それよりも、どうするんだ? 一度帝都に戻るのか?」
「そうだな。冬の間は動かない方がいいだろ? だから、屋敷に戻って……あっ」
ニーカのことを忘れていた。精霊国の街についたら手紙を送ると約束しておいて、まだ出していない。グリフォン騒動ですっぽりと抜け落ちていたのだ。
宿に戻ったら書いてやるか……。
「どうした?」
「ニーカのこと忘れてた。きっと屋敷で怒ってるなあいつ」
キセーラが面白くなさそうな顔をする。
「シドーは普段そっけない態度を取るのに、そうやって時々優しくするのはどうなんだ? 狙ってやってるのか?」
「狙ってるって何だよ。狙ってなんてねえよ」
「全く……。シドーがそれでは、騙される女もさぞ多かったのだろう」
「なんか、今日のキセーラはきついな。最初に会った時に戻ってるぞ」
「神熊に連れられて帰ってしまったのかと思ったんだ」
俺の前を歩きながら、こちらを見もしない。だが、彼女の声のトーンが少しだけ落ちていた。
「私だけじゃない。ラハヤやモイモイだって心の中でそう思っていただろう」
「……そりゃ悪かった」
ラハヤたちと合流し、宿屋に戻った俺は先ほどあったことを語った。
部屋のベッドに腰掛けるラハヤと、椅子に座り足をぶらつかせるモイモイが、それを静かに聞いていた。
「シドーさんをお迎えに来た訳ではないのですね」
「ねえ、お兄さん。一度屋敷に戻るの?」
「そうだな。明日出発して帝都に戻ろう」
ラハヤとモイモイが、顔を見合わせて安心したように笑っている。何を考えているのか、それは分からないが、これからも彼女たちの世話になったりしたりするのは、紛れもない事実なのだろう。




