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第四四話 神熊

取り急ぎ投稿


 だが、俺だけ牛歩の進みなのは、手伝わせる仲間に対しても申し訳がない。できることは本に記された神々が集う泉のある地をメモすることぐらいだった。

 

 メモ帳を取り出してペンで記す。このメモ帳は、俺が狩猟免許試験予備講習会の座学で使っていたノートだ。


 それが今、神々が集う泉のある地の情報が記されるのだ。事情を知らない者が見れば、ふざけた落書きに思えるだろう。それでも俺にとっては必要なこと。


「王国に三か所、帝国に一ヶ所、連邦に一ヶ所、ミュレックス共和国に二ヶ所、レイヨナ獣国に一ヶ所、南アシュタイに一ヶ所……」


 王国のは、最初に会った時の泉か? あの泉で放血しちまったけど穢れとかないだろうな?


 何だか、候補地の一つを自らの行いで潰してしまったような気がする。近くに小川や流水がある場所で放血するのは、猟師の性と言っていいものだ。何しろ、そういう所で先に処理してしまえば楽なのである。


 しかし、言い訳じみた考えを過ぎらせても冷や汗が垂れる。これはやらかしたか?


「シドー、どうした?」


「こういう泉ってさ、穢れたりするのか?」


「血で汚すと穢れると言われている。ユニコーンの時も、私は泉で放血するなと言っただろう? あれは、そういった理由なんだ」


「……やっぱりか」


 明確な心当たりがある場所が、早くも潰れた。


「それに最近の魔獣騒ぎで、聖なる泉が穢れている可能性もある」


「どうするかな……。なるべく早く探し出した方がいいんだろうが、帰る頃には秋が終わってるよな? なあ、この世界の冬は厳しいのか?」


「ああ、厳しいぞ。冬へ備えないと凍え死ぬ。冬に都市間を移動するのは、金のある商人ぐらいなものだ」


「無理に動いて八甲田山になるのも嫌だな……。冬の間は帝都で生活するのが最適解か」


 八甲田山は、八甲田雪中行軍遭難事件を題材にした映画のことだ。その映画のように、『天は我々を見放した!!』となるのは避けたい。厳しい冬に山々に登り泉を探すのは避けるべきだ。


「ラハヤについてだが、魔獣はラハヤを攫おうとしていたらしいな。先程マルグリードが言っていた」


「ん? ああ、なるほどな。ラハヤさんも難儀だな」


「シドーさん、シドーさん」


「どうした?」


 モイモイが一冊の本を俺に見せる。そこに書かれていたのは、魔銃の設計図だった。一見、その絵はマスケット銃に見えるが、呪文がライフリングのように銃身の内側に刻まれている。弾丸は魔石を削りだしたもののようだ。俺の実包よりも値段が高い。


「これ、凄くいいと思いませんか?」


「作れる奴いねえだろ」


「……む、盲点でした。残念です」


 しょぼんとしたモイモイが、マルグリードに本を返しに行った。


 この世界で作れるとしたら、エアライフルが限度だ。エアライフルならば、シグリッドとドヴァさんがタッグを組めば、数か月も掛からず作ってしまうだろう。


 装薬銃はドヴァさんが承諾しないだろうことは、手に取るように分かる。


「お兄さん、終わった?」


「ラハヤさんは?」


「私は終わった。けど、何だか釈然としないなぁって」


「俺も似たような感じ。勝手に巻き込まれて、四苦八苦する羽目になるなんて阿呆らしい。だから大いなる獣とやらにも、きついの一発ぶち込んでやるし、神様にも文句言ってやるつもりだよ」


「皆で抗議する感じ?」


「そうだな。皆でぶちかましてやろう」


 俺がそう言うと、ラハヤは微笑んでくれた。どうやら、安心してくれたようだ。


 大図書館で調べものが終わり、宿屋に帰って夕食を摂り、次の日の朝である。


 キセーラが見せたいと言っていた、最終日の催し物が行われていた。


 最初に市内を進むのは、白い神馬の大きな被り物。その後ろにエルフやダークエルフ、人間、獣人、ドワーフ、ゴブリンなどに仮装したエルフたちが踊りながら進んでいる。


 白い神鹿を模した大きな被り物の後ろには、色々な種族の勇者に仮装したエルフたちが剣舞をしながら進む。


 白い神猪(しんちょ)の大きな被り物の後ろには、他種族の姿に仮装した子どもたちが花びらと種を撒きながら進んで行く。


 最後に神熊(しんゆう)の大きな被り物の後ろに、精霊国の女王が護衛の騎士たちを伴って行進する。


「あれが、私たちの女王。アルヴァータだ。月色の髪と碧眼、古代エルフの血統を維持している」


 白い牛車に乗っている精霊国の女王アルヴァータは、俺を一瞥してから前を見据えた。


 ふと、視線を感じた。遠くにある崖の上からだ。


 そこに目を合わせると、白い大熊がいた。


「なあ、あそこに何かいないか?」


「シドーさん、なにも居ませんよ?」


「お兄さん、何か居たの?」


「確かに見えたんだが……」


「シドー?」


 突如、悲鳴とざわめきが起こった。白い大熊が、女王のすぐ近くの家の屋根に居たのだ。


「なんだあれは!?」


「女王陛下を守れ!! 騎士隊、方陣組め!!」


 すぐさま、護衛の騎士たちが女王を囲み防御の構えを見せる。


 しかし、白い大熊は、それらをまるで最初から居なかったように無視し、俺の前に降り立った。その白い大熊は低い声で俺に話し掛ける。


貴方(おはん)が鹿室志道か? おいと一緒に来え」


「……は?」


 薩摩弁? 


 俺が思考する間もなく、白い大熊に咥えられ、どこかへ連れ去られた。


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