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第四〇話 事後処理


「良し、仕留めた。っととと!?」


 グリフォンが丁度俺の真横に堕ちた。衝撃で落葉が舞う。グリフォンの大きな翼に圧される形で、俺はひっくり返っていた。そこまで重くはないが、獣臭いし血生臭い。


 もぞもぞと這い出る俺に、モイモイが手を差し伸べてくれた。


「シドーさんって、こういう時に大体締まらないですよね」


「魔獣倒せたんだから別にいいだろ」


「ま、シドーさんは私たちがいないと、魔獣を倒せないですから」


 モイモイが肩をすくめる。俺自身が実包に付呪(エンチャント)出来る訳ではないので、腹は立つが言い返せなかった。


「取りあえず、お疲れ様です。シドーさん」


「おう、モイモイもお疲れ」


「人間、良くやってくれた。今のは魔法か?」


 エルフの職員たちが集まり、俺の肩を叩く。


「ええ、まあ、そんな感じです」


「これは狩猟組合からの魔獣駆除の報奨金だ。後のことはアルブ戦士団に任せる」


 硬貨が入った袋を受け取ろうと俺が手を伸ばしたら、モイモイがそれを横取りして金額を数え始めた。


「ひ、ふ、み、よ……。うーん、銀貨五〇枚は安すぎませんか? グリフォンの魔石は、そちらが確保するのですから、これの倍は最低でもないと」


 モイモイのいやらしい指摘に、エルフの職員が露骨に嫌悪を示した。慌てて彼女の頭を下げさせる。


「何言ってんだよ、お前……!?」


「苦労したわりには安いんです。グリフォンの魔石は、銀貨一五〇枚で売れますから」


「これ以上欲しかったら、首都の狩猟組合で交渉しろ。全くこれだから半魔族は……」


 ムッとしたモイモイが、また何か良からぬことを言いそうだったので彼女の口を手で塞ぐ。


「むぐぐ!?」


「ちょっと黙ろう。話がややこしくなる」


「終わったんですか~!? 僕がそちらに行ってもいいですか~!?」


 森の奥からウッドエルフの職員の声が聞こえ、エルフの職員が彼女を呼ぶ。


「スヴィタナ!! 早く来い!!」


「は、はい!!」


 彼女の名前はスヴィタナと言うのか……。なるほど。


 馬に跨ったスヴィタナが俺の近くで降り、頭を下げた。


「あ、あの、ありがとうございました! なんか、もの凄い音がしたと思ったら、グリフォンが倒れてて何が何やらでしたけど、た、助かりました。僕もハマノパも」


「ああ、うん」


 彼女の顔をよく見ると、目は金色だ。まじまじ見ると、この子も元の世界で見たことないほど整った顔立ちをしている。じっくり見られているスヴィタナの顔が、段々と紅潮して目がぐるぐるしていく。


「あ、あ、あのぅ……?」


 恥じらうこの姿。モイモイの奴とは違って可愛げが――


「いてぇっ!?」


 モイモイに(すね)を蹴られた。


「エルフの職員さんが呼んでますよ」


「もうちょっと優しくしやがれってんだ」


 エルフの職員に呼ばれ、今夜はここで野営することを聞き、野営の手伝いをする。


「なあ、にんげ……いや、カムロとやら」


「何でしょう?」


「先程我々で考えたんだが、カムロが我らの首都で不自由しないように、今回の活躍を認知させようと思っている」


「認知ですか?」


「首都のアルブスは、国境近くにあるアルブリンデンと違い、他種族に対しての差別意識が強い。泊まる先々、行く先々で虫料理を出されたら嫌だろう? 大切な客人ということにしたいのだが」


 俺個人としては、虫を食べるのは別に問題はない。というのも、訓練の一環で食べさせられたことがあるのだ。さらに昆虫食に造詣の深い同僚に、炙ったサクラケムシを喰わされたこともある。それは桜餅の桜の風味が広がる、見た目と風味がかけ離れた代物だった。


「まあ、俺は別に大丈夫なんですが、連れは嫌がるでしょうね」


「なに? お前は虫を食べても平気なのか? 人間の癖におかしな奴だ。お前みたいな奴なら永住してくれても文句はないな。はははっ!!」


「ただ、連れは嫌がるので」


「ああ、分かった。こちらで不快な思いをしないよう取り図ろう」


「ありがとうございます」


「いや、お礼はいい。ふふ、全く面白い人間だ」


 何やら、この男性職員と仲良くなってしまった。名前もアランドと教えてもらったし、また彼の世話になる機会もあるだろう。


 夕食を摂り、俺たちは野営して、次の日の朝となった。寒さも朝夕は急激に冷えるようで、酷く肌寒かった。


 手早く綺麗に後片付けをして、狩猟小屋に向けて歩き出す。道中で朝食を摂りながら、狩猟小屋に辿りついた所でラハヤたちが出迎えをしてくれた。


「お兄さん、お疲れ様」


「うん。ただいま」


「でも、何も出来ないまま、待ってるだけってのも辛くてさ」


「……いや、そうかもしれないが」


「だから、これを編んでました。お兄さんに」


 ラハヤが俺の首にマフラー掛ける。赤地に柄は黄色いボーダーライン。首元が温かい。


「これは襟巻き、かな?」


「うん。柄はキセーラさんが考えたんだ」


「そうか。えっと、ありがとう」


「うん。キセーラさんにも言ってあげてね」


 にこやかな笑顔を見せてくれたラハヤに、俺の心臓は痛いほど高鳴った。どうしてこの子は、ここまで気を利かせてくれるのだろう。


「そうだ。シドー、聞いてくれ」


「どうしたキセーラ?」


「私とユーマライヤで考えたんだが、神聖処女隊に私一人分の穴が空いただろう? それを埋める方策を思いついたんだ」


「ほう……。代わりに?」


「ユーマラから言わせてくださ~い~!」


 ユーマラがスヴィタナに抱き着く。抱き着かれた当の彼女は、目を白黒させながら固まっていた。


「神聖処女隊に~、スヴィタナさんを入隊させるつもりなんです~!」


「え、えぇぇぇええ!? ぼ、僕を!? 腐った生卵みたいな僕を!?」


 さらっと自身をディスって見せた彼女に、憐れみを越えた何かを感じた俺だった。


「ええ、貴女なら大丈夫ですよ~。ウッドエルフの隊員は今まで居なかったですけど~」


「ほ、本当に大丈夫なんですか!?」


「友達だって沢山出来ますよ~?」


「え、え? ほ、本当ですか!? は、入ります!! 入らさせて頂きます!!」


 モイモイが俺の袖を引っ張る。


「どうしたモイモイ?」


「彼女の言った、友達ってアレですよね」


「言うな。俺もそれが過ぎったから」


 ガチレズの巣窟である神聖処女隊に、初心(うぶ)でボッチなスヴィタナが入隊したら、それはきっと友達を越えた何かを強要されるに違いない。


「まあ、俺にも守れないものはあるってことさ」


「なるほど。貞操とかですね」


 結局、スヴィタナが生贄になってしまった。神聖処女隊という名の性獣たちの生贄に。南無三。


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