第三八話 魔獣グリフォン狩り 前編
翌日の早朝。俺はエルフの職員四名と、モイモイ、クーを連れてグリフォンが現れた泉へ向かった。それとラハヤは置いていくことにした。魔獣の前に彼女の姿を晒すと、必ず面倒なことになるからだ。
キセーラとユーマラの二人には、ラハヤの護衛という建前で同じく留守番を任せた。本音を述べると、最初はラハヤ一人だけを残すつもりだったのだが、そうラハヤに伝えたら随分と不機嫌になってしまい、仕方なくこうなったのだ。帰る頃には機嫌が直っているといいが。
「それで、なぜあの職員さんは馬に跨っているんです?」
「家族同然の馬を生贄に出すぐらいなら、自分も生贄になるんだとさ」
「ええ~……」
モイモイが馬鹿を見る目で、ウッドエルフの職員を見た。
「まあ、死なせるのはちょっとなぁ……」
「可愛い女の子だからですか?」
「いや、馬の方」
ジトッとした目でモイモイが俺を見る。
「何だその目は」
「あの職員さんが可哀想に思えてきましたよ」
「何を誤解しているのか知らんが、どっちも助けるつもりだよ」
「そうだったのですか。てっきり、馬だけ助けて桜鍋にするのかと」
「お前なぁ……。愛する家族が、桜肉『本日絞め』四〇〇キログラムとかなったら笑えねえだろ。少なくとも、俺は嫌だ」
「分かってますよ。ただ、彼女のことがちょっぴり羨ましくなったので、腹いせにシドーさんをからかっただけです」
「あー、はいはい」
そんな会話をしながら、俺たちは二列縦隊で進んで行く。ウッドエルフの職員は、視界不良で進みにくい山道を、苦もなさそうに進んでいる。その器用な御し方は、さながら人馬一体だ。
それぐらい長きに渡り、ずっと一緒にいたのだろうと思うと、昨日の彼女の落ち込みようも分かる。これでも俺は牧場で働いていた身だ。人一倍に共感してしまった。
「なあ、名前なんて言うんだ?」
「へあっ!? な、名前? あ、えっと、この子ですかね?」
ウッドエルフの職員が馬上で飛び上がり、恐る恐る振り返った。
「その子はハマノパって名前なのは知ってる。……まあ、何だ。もし、奴が来たら俺の方向に馬を駆けさせてくれればいい。そうすれば、その子が喰われる前に、この猟銃で仕留められる」
「え!? い、いいんですか!? ……で、でも、それだと作れる隙は一瞬では?」
「隙が一瞬だろうが、俺の猟銃も一瞬だよ。パッと構えてズバンと一発。一発当てれば墜落するはずだ」
「ほへ~。リョウジュウですかぁ。……あ、貴方も自分の武器に名前をつける人ですか?」
「ん? 名前?」
リョウジュウを名前と勘違いしたのか、彼女の目は同好の士を得た様な輝きだった。
「ぼ、僕も短弓に名前を付けてるんですよ」
「……へ、へぇ~」
「この子は友ちゃんって言うんです。『武器に名前つけるのか』って仲間に馬鹿にされましたけど、お、同じような人がいて嬉しいですね。……え、えへへへ」
あっ、この子別ベクトルでヤバい。
「なんだ、人間は武器に名前つけるのか? っぷははは!!」
しかもエルフの職員たちに誤解された。エルフの彼らは笑うが、馬上の彼女は鼻歌を歌っている。
「え? シドーさん、名前つけてるんですか?」
「んな訳ないだろ」
「実は私も、この魔杖に名前を……」
「つけてるんかい」
森が突然とざわめいた。鳥や鹿や猪の警戒鳴が響く。
『ピャァーーーー!!! ピャァーーーー!!!』
グリフォンの鳴き声だ。上を見上げても目視出来ないが、上空を飛んでいるのは確実だろう。
「人間と魔導士、足を速めるぞ。いいな?」
「ああ、分かった」
「これ以上速めるんですか?」
「荷物持ってやるから、鞄を貸せ」
「今日のシドーさん、いつもより頼れますね」
「減らず口言いやがって」
モイモイの荷物を持ち、エルフの職員たちと逸れないよう歩みを速める。モイモイも歩みを遅らせることなく付いて来ているようだ。
先へ上へとペースを速めて進む。モイモイが徐々に離れていた。傍目から見ても、彼女が息を切らしているのだと分かる。
「え、エルフの山って、結構、きつい、ですね……」
「斜面が所々急だからな。クーの上に乗ればいい」
「そ、そうします」
モイモイがクーに跨る。小柄なモイモイと、大きな魔狼のクーだからこそ出来る芸当だ。
「なぜシドーさんは、余り息を切らしていないのですか?」
「そりゃあれだ。陸自時代は、もっと重い装備を持たされて山を登らされたからだな。あれに比べればマシだ」
足を速め、時々お互いの無事を確かめ合うかのように会話して歩く。
そして、グリフォンが降り立った泉のある場所に到着した。時刻は昼下がり頃になっていた。




