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第八話 猪狩りリベンジ 後編


 子猪(こじし)を解体し鉄製の平皿に置く。皮を剥いで各部位に切り分けるのだが、たかだか一〇キロの子猪を解体するのは、まさに朝飯前なほど簡単だ。


 切り分けられた肉を食べたそうにクーが見つめていた。こいつは俺の誤射を腹に喰らったが、重症を負っている気配はない。見た目は美しい青毛の狼でも、純粋な生き物ではないのだろう。


 後ろ脚まるごとやるからいい子で待っとけよ。


 調理器具はラハヤの小さめの鉄製鍋やフライパンがある。今まで一人で野生の物を獲って食べることが当たり前であった彼女のバックパックの中身は、サバイバリティあふれるものであった。


 そんなガチキャン女子なラハヤは、春キノコや春山菜などを獲りに行っている。俺は解体を終えてしまったし、モイモイは小川で口をゆすぎに行っている。暇だった。


 改めてとんでもないところに来たと、小川を眺めながら俺は思った。言葉が通じるだけ、ましなのだろう。が、どうにもこの世界は思考停止しないとやってられない。


 実包も残り一三発だし、さっさと帝都とやらに行かねばなぁ。


 残り少ない残弾。一発使う度にこの世界でやっていく自信を削いでいく。愛銃のレミントンM700が、ただの玩具と化す日も近い。


 そうなれば、俺はラハヤのヒモとして生きていくのだろう。それは俺のプライドが許さない。何とか打つ手を考えねば。朝起きたらお金が置いてありました、とか笑えない冗談だ。


 帝都へ向かう駅馬車代金の銀貨一枚。何とかして工面する必要がある。猪一頭で銅貨二〇枚ならば猪換算で一〇頭分を狩ればいいか。生活費代を計算に入れたら、もう一、二頭は狩るべきかね。


 青銅貨一枚を一円としたら、銅貨一枚は一〇〇円かな? この前食べた定食はそう考えると食材は自給か?


 レート何ぞ分かるはずもないのに、円換算しても意味がない。そんな根も葉もないことを考えていると、ラハヤとモイモイが帰って来た。


「あら、お兄さん。もう解体終えてたんだね」


「子猪だから、あっという間に終わったよ」


「こっちはいつもよりなかったかな」


 ラハヤのマントに包まれた食材を見せてもらう。シメジに似たキノコは、ハルシメジのように見える。よく見ると柄を残すように切ったような跡があった。少し柄が短くなっていたのだ。また生えてくるようにするための彼女の計らいなのだろう。


 ニンニクの香りがするのはヒトビロかな。本州ではギョウジャニンニクと呼ばれている山菜だ。後は良く分からない細いアスパラガスのようなもの。


「お腹が空きました」


 モイモイが催促する。先ほど胃の中身をぶちまけていたのだ。()もありなん。


 まずは子猪のレバーとヒトビロっぽいので、レバニラ風炒め。味付けは塩と胡椒。これは俺が作る。

 

 ラハヤはキノコと肩ロースでスープを作り、子猪の脂で細いアスパラガスとキノコとを一緒に炒めるようだ。手慣れた手つきだった。


 調理せず残った物は、帰りに狩猟組合に売ってしまおう。はした金ぐらいにはなる。


 俺とラハヤが調理を開始してから約二〇分後。


 そこらの岩に座って食す。どれも滋味深く美味しい。


 特に子猪はどう調理しても臭みが少なく食べやすいのだ。初ジビエをするなら子猪が最適と言えるだろう。


 先ほど解体現場を見て吐いたモイモイも、目を輝かして口に運ぶ手を忙しくさせていた。


 クーも後ろ脚の生肉をがっつき、刻んだ腸などの内臓は既に平らげている。


「猪って美味しいんですね」


「冒険者って普段どんな食事してるの?」


 ラハヤが興味深そうに冒険者生活を聞く。


「そうですねぇ。肉は豚肉や牛肉、鶏肉で野草は食べません。お金があるので」


「このブルジョワめ。冒険者は皆金持ちかよ」


「いやいや、シドーさんは勘違いしてます。冒険者は儲かりますが、その分死にやすいのです。それはもう国の軍隊が大規模展開できないような、魔獣や魔物が闊歩する地下迷宮を行くのですから。報酬が高くないとやってられませんよ」


「インディジョーンズ的な墓荒らしみたいなもんか」


「インディ何某は存じ上げませんが、墓荒らしは合ってるかもしれません」


 ラハヤがおもむろに立ち上がり、空を見上げた。


 俺も釣られて空を見上げ、百近い鳥の群れが逃げるように飛んでいるのを見た。風が森をざわめかせ、鳥の鳴き声が辺りに響く。


「鳥が逃げてる? お兄さんは今まで見たことある?」


「いや、ないな」


『グゴオオオオォォウ!!』


 森の奥で聞いたことのない咆哮がした。虎や狼とは違う。地獄の底から響かせたような恐ろしい咆哮だった。


「あちゃ~。魔獣ベヘモスですねこれ」


 モイモイがさっさと帰り支度を決め込んでいた。


「逃げるのか?」


「どっかの馬鹿が、地下迷宮の階層主を地上まで引き連れて来ちゃったんですよ。逃げたほうが身のためです」


「ダメだよ。このままだと森が荒らされる……」


 ラハヤが咆哮の元へ行こうとする。珍しく怒っているようだ。


 その魔獣とやらは俺たちで倒せるものなのかが分からない。だが、森が荒らされるのは確実だ。招かれざる害獣であるのは間違いない。


「害獣なら駆除するのが俺の仕事だな」


「行くのですか?」


「俺とラハヤは行く。お前はどっちか決めろ。帰るならここで荷物を纏めといてくれりゃいい」


「はぁ。まあ仕方ないですね。無理だと判断したらすぐに逃げますよ」


 俺たちは森の奥へ進み魔獣の元へ向かった。どうやら一波乱ありそうだ。


細いアスパラガスはヨーロッパの野生のアスパラガスがモチーフです。

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