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第三五話 洞穴の中


 ――鈍痛だ。全身打撲をしたかのような鈍痛に意識を取り戻した俺は、まだ日が落ちてないことで左程気絶していなかったことを知る。


 抱えられる形で上に乗っているユーマラを見た。左腕から出血していた。すぐにバックパックから止血帯を取り出して止血を試みる。


 だが、ここで俺の左腕にある違和感に気が付いた。左腕がぶらんぶらんしていたのだ。


 右手で彼女の左袖を破る。幸運だったのは、この止血帯が片手で使用可能な商品で米軍も採用している優れものだったことだ。お蔭で彼女の左腕をきつく縛り止血することに成功した。最後にコートを脱ぎ、彼女に着せ体温が下がるのを防ぐ。


 俺の左腕が元通りになり、彼女を担いで歩き始める。先程の魔獣との鉢合わせは何としても避け、安全を確保しなければならない。そう思った俺は、あの魔獣が降り立てないほどの密度の高い森を進んだ。


 歩き続けて数十分は経った。にわかに雨が降り出し、俺は歩みを早める。


 小さい洞穴があった。五人は寝れるほどの広さだ。


 洞穴に入り、ユーマラを寝かす。野営用の枝束をバックパックから取り出し、メタルマッチを使って火を起こした。


 懐中電灯を照らして彼女の怪我の具合を見る。幸いにも太い血管を損傷したようではない。止血帯により、出血多量による失血死は回避出来た。


 残りの俺が出来ることは、容態の監視と救助を待つことだけ。


 クーがダメージを負ったことにより、モイモイにもダメージが返っているはずだ。なのでモイモイが異変に気が付き、捜索に動いてくれたと信じたい。


「問題はユーマラの体力が持つのか……」


 その日の夜。俺は寝ずの番でユーマラの容態を監視した。


 運良く彼女の容態が悪化するようなことはなかった。熱を出すこともなく安定している。


 外は雨が止み、風が落葉をざわざわっと攫っているような音がした。寒さで堪らず焚火に当たり、暖をとる。


 クーも傍にいない。ラハヤたちを呼びに行ってくれたか、俺を探しているかのどちらかだろう。


 翌朝、ユーマラが目を覚ました。


「目が覚めたか。ちょっと待ってろ。バックパックに干し肉がある」


 何故か一言も喋らない。


 考えても仕方のないことだ。俺は干し肉を火で炙り、鉄皿に盛って渡した。


「なぜユーマラを助けたんですか~?」


「理由? 人を助けるのに理由は必要か? あんたが爺さんでも婆さんでも俺は助けたよ。例え俺を嫌っていたとしてもな」


「ふ~ん」


「それにあんたが死んだらキセーラが悲しむだろ? 同じ隊に居たんだし、俺だって顔見知りに死なれたら気分が悪い」


「ふふっ。手を出した女性は泣かせたくない。ですかぁ~」


「あのな? 手は出してないからな? あれはあいつの頭の中で行われたものだからな?」


 一瞬黙ったユーマラが、また噴き出して笑った。


「っぷ、あのキセーラさんが? 逆に手を出さないのが不思議ですよ~」


「まあ、あんたの中じゃ優秀な隊長さんなんだろう。その実あれだぞ? 俺もちょっとはスケベ心持ってるつもりだったけど、それ以上にあいつは変態だからな? 流石の俺も引くんだよ」


「っく、ははははは!! キセーラさんが変態? それは初めて知りましたよ~」


「なるほどな。あいつは、ずっと真面目だったのか。だから反動で頭逝かれてるんだな」


「はぁ~、可笑しい。でも、キセーラさんが惚れた理由が分かった気がします」


「俺にとっちゃ頭が痛いよ」


「何故ですかぁ~?」


「あんただから素直に言えるけど。俺は元の世界に戻ろうとしてるんだ。そういう関係になったら子どもだって出来るかもしれない。俺はな、無責任なことはしたくないんだ」


「大切だから?」


「ああ、そうだ。……何だよ悪いかよ? 最初はただの猟友だと思ってたけど、今じゃ家族となんら変わらねえんだよ。あいつらが大切だよ、ちくしょう」


 それでも俺は元の世界に帰るために情報を集めている。時々、ラハヤたちのことを考えてためらってしまいそうだが、考えは変わらない。それはきっと、最後の最後に決定的な何かがない限り変わらないだろう。


「キセーラさんの目に狂いはなかった。ってことなんですかねぇ~」


「頭は狂ってる」


「ふふふっ」


 ユーマラが笑う。どうやら完全に打ち解けて、お互いに存在した敵意もなくなったようだ。


「まあ、兎に角な。俺は手を出さないから、少しの間だけあいつを貸してくれると助かる。だから、今回の勝負はなかったことにしてくれ」


「ええ、グリフォンが出たなら勝負どころではないですし~。貴方なら任せられますよ~。ふふふ」


「そうか! それは良かった。ただ……」


「ただ?」


「今の状況をどうにかしないと……。グリフォンもだけど……」


 ラハヤたちが助けに動いているとあれば、こちらから迂闊に動けない。グリフォンもいるとなると、尚更迂闊には動けない。半ば遭難している今の状況、どうしたものか。


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