第三一話 キセーラの元同僚 後編
だがまあ、これはある意味で因果応報という奴だ。神聖処女隊を辞してまで付いて来たのが原因なのだから、目の前のラハヤが作ってくれた鴨の丸焼き、とキセーラの些事を天秤に掛けると、鴨の丸焼きの方が重い。
「まあ、別にいいか。いただきます」
「そうですね。早く食べてしまいましょう。また鴨の丸焼きが飛翔されても困るので」
食欲をそそる匂い。半羽に切られた鴨のローストに、オレンジソースを掛けたらそれはもう絶対に美味い。何せ、鴨の濃厚な旨味と柑橘系の爽やかな香りは良く合う。
ラハヤが蜂蜜酒を飲みながら、美味しそうに食べている。俺もソースがしみ込んだ皮ごと、鴨肉を頬張る。これが美味いのだ。
「うん。美味しく出来てる」
「ああ、美味い」
涎を垂らすクーにも少しだけ分けてやろう。
周りをしばらく見まわしていたキセーラも、観念したのか食事を楽しみ始めた。
「なあシドー、明日は一回街に寄るのはどうだ?」
「そうだな……。排他的なエルフの街がどんなもんか知っておいた方がいいだろ」
「その紋章があれば、そこまで酷い扱いはされないと思うが……」
エルフの街の飲食店は、おもてなしと称してエルフ以外の客に昆虫食の料理を振る舞い、その反応を楽しむ輩が多いと聞く。まあ、これはドヴァさんから聞いた話ではあるが、身構えておく必要はある。
「ごちそうさま」
食事が終わり、再び馬車を四時間ほど川沿いの街道を走らせる。
日は傾き、夕方になった。綺麗な夕日が地平線に隠れる前に、野営の準備を始める。
荷台からテントを持ち出し、ラハヤたちのためにテントを張る。
火を焚き夕食の準備をする。この日の夕食は豚の腸詰めと黒パンにスープと簡単なものだった。
「ねえお兄さん、見て」
夕食の最中に、ラハヤが指さす。その先には、淡い青や緑に光る羽虫のような群れがいた。幻想的で、帝国領内では見たことのない景色だ。
「小妖精ですね」
「へえ、あれが……。おっと」
俺たちの胸にある小妖精のバッジから、小妖精が飛び立った。群れの中に混ざり遊んでいるようだ。今までバッジの中から俺たちの行動を見ていた彼女らの、束の間の休暇と言ったところか。
「精霊国は、その名の通り精霊たちの国だ。この世界全ての精霊たちの祖国なんだ」
「山に変なのがいそうだな」
「ああ、いるぞ?」
「いるのかよ」
精霊国は変な生き物が闊歩しているらしい。
「じゃあ、お兄さんお休み」
「うん。お休み」
食事が終わり、火の後始末をする。灰は埋めて、炭は水の濾過や腹を下した時の薬となるので取っておく。
ラハヤたちは、テントに入り就寝した。俺も荷台で寝ることにする。
翌日、朝食を簡単に摂った俺たちは近場の街を目指して出発した。
今のところ、キセーラを監視する視線はないようだ。
ストーカーと言っても、キセーラのようにアグレッシブなタイプではなく、邪魔者を消し去るタイプなのだろうか?
だとすれば、俺が一番危険な目に遭うような気がしてくるのだが、どうか杞憂であってほしい。
森の中を進み、街らしきものが見えた。らしき、というのは帝国や連邦にあった街を囲う壁がなく、境目が分からなかったからだ。
「あれが精霊国の東の街アルブリンデンだ」
「街ってかでかい集落だな?」
「中に入れば街だと分かる」
キセーラの言う通り、街に入ると確かに建物が沢山あった。すべからく木を模した建物か、木の上に居住区があったために錯覚していたらしい。
宿屋に向かう。馬車をエルフの宿屋の下男に任せ、俺たちは中へ入る。
そして、そいつは居た。癖毛金髪で、いつも笑ったような顔をした神聖処女隊のユーマラだ。
「あらぁ~奇遇ですねぇ? キセーラさん?」
甘ったるい声に毒が見え隠れしている。ユーマラが俺を一瞥した際に、明らかに敵意があった。キセーラも顔を合わせるや青ざめる。
次回から狩猟回を二話か三話挟みます。




