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第二六話 夏栄祭 射撃競技会 その1

取り急ぎ投稿。次回もなるべく早く更新したい。


 夏栄祭の二日目。この日は帝都の円形競技場で、狩猟組合による射撃競技会が行われている。明日の冒険者組合による武技競技会が動の競技ならば、今日の射撃競技会は静の競技だろう。


 内容は選抜された陸自が毎年行く、豪州射撃競技会(AASAM)みたいなのではなく、どちらかと言えばオリンピックの射撃競技みたいなものだ。


 そんな競技に赴くラハヤとキセーラは、少し緊張した面持ちで登録している。彼女たちの背中を眺めながら、俺は頑張れと念じるしか出来なかった。


 だが、こうも思っている。札幌ドーム並の広さの円形競技場で、酒と肴をつまみながら観戦できる今回の観戦は物凄く楽しみなのだ。異世界の娯楽を、今は純粋に楽しみたい。


「シドーさん随分と楽しそうですね。自分が賭けられてるというのに」


「俺さ、シグリッドさんが考えてる本当のこと分かっちまったんだよな」


「本当のこと、ですか?」


「ああ、だから結果がどうであれ悲観しなくていいんだよ」


 シグリッドはヴァリ工房を営業する商売人だ。そんな彼女が、わざわざラハヤを焚き付けてけったいな競技会に参加させたのは、ずばりスコープなどの先進的アタッチメントの宣伝。俺が嫌がることを見越して、俺自身を参加させることも恐らくは計算に入っていたのだろう。


 あの大きな銃声と精度、弾速があれば嫌でも目立つ。その猟銃に装着されているのがシグリッド製スコープなのも、俺の推測が正しいとの裏付けになる。


「そうなのですか。言ってる意味が分からないですけど、シドーさんがお花畑ではないと一応は信じて見ます」


「異世界で何か月も生活してるのは伊達じゃないってことだ」


「じゃあ、私たちは控室に行くから」


「シドー安心しろ。エルフの中でも高位のハイエルフの私に掛かれば、鳥人族なんぞに負けはしない」


「ああ、俺たちは観客席で応援してるよ。何というか、えっと、まあ、気負わずに頑張れ」


「全くシドーさんは口下手ですか」


「……そういう経験がないんだよ」


 ラハヤとキセーラがクスクス笑う。


「そうか。ならシドーの初めては私たちがもらったということだな」


「その言い方止めろ。お前が言うと違う意味に聞こえる」


「じゃあ、行ってくるね」


 ラハヤとキセーラが控室に向かった。


「俺たちも客席に行くか。ゴブリンさんたちから一番いい席の券もらったし」


 その席は一瞬で売れるほど凄い席だそうで、俺の期待は俄然高まった。


「その席ってあれですよね。魔導士の実況映像が一番良く見れるっていう……」


 モイモイが少し引いた顔をする。


「あら、貴方は出場しないの? もしかして貴方って名声とかに興味がないのかしら」


 後ろから声がした。振り向くと、シグリッドが怪訝そうに俺を見ていた。


「全くない訳じゃないんですけどね。ただ、名声ってのは酒と同じく身の丈以上に浴びると身を滅ぼしかねないってだけで、何事もほどほどが一番なんですよ」


「ふーん。今時珍しい考えを持ってるのね」


「それよりも、シグリッドさんは製品の宣伝が目的なんでしょう?」


 シグリッドはショートパンツと布鎧を着て、関節防護のサポーターを付けていた。得物は、梃子の原理でレバーを押すシグリッド製の新型クロスボウ。その上にシグリッド製スコープが乗っている。

 

 薄々気づいていたが、この世界のクロスボウは速射できるように洗練されている。片手であっという間に引けてしまうのだ。代わりに射程が劣り、威力はブロードヘッド状の矢じりで賄っている。これも本来発達するはずだった火器の代わりに、発展させていった結果なのだろう。


「私の考え分かっちゃったんだ。尚更に貴方への興味が湧いたわね」


 シグリッドがほくそ笑むと、控室に向かって行く。


「なるほど。これがシドーさんが言っていた本当のことって奴ですか」


「まあ、そういうことだ」


 俺とモイモイは観客席に向かい、券に書かれた場所に座る。


「観客席は満席か。こりゃすごい」


 老若男女が観客席で、今か今かと競技の開始を待っていた。ここまで大勢の観客がいるとなると、出場する選手たちは緊張するはずだ。休憩時間になったら、ラハヤたちに差し入れでも持って行こう。


「ほら、シドーさん弩の競技が始まりますよ。最初は五〇メトロン(メートル)走って伏射(ふくしゃ)膝射(しっしゃ)立射(りっしゃ)を続けて行い、その時間と点数を競います」


「へー。一回だけの勝負?」


「いえ、三回の内の最も優れた結果ですね」


「三回もやるのか。しかも伏射、膝射、立射を続けてって、軍隊の訓練とそう変わらんな」


 ファンファーレが鳴り響いた。勇壮な音楽に観客たちはさらに興奮しているようで、俺やモイモイもラハヤたちの入場を待つ。


 入場する選手の数は女性部門だけで八〇名ほど。その中にラハヤとキセーラの姿が見えた。


 実況映像を客席に映す魔導士たちの魔法の大鳥が八羽、ゆっくりと飛び立ち選手たちの映像を大画面で映し始める。

 

 ちらっと映ったラハヤとキセーラは緊張した顔だ。そして、キセーラの得物がクロスボウに変わっている。


『今日の射撃競技会は一味違う!!』


 実況の女性が叫ぶ。マイクの類はない。魔法の一種だろう。


『何と参加者の中に意中の男性を賭けて参加した方が居られるようです!!』


「なんだと?」


「ああ、本当にシグリッドさんは、宣伝のために目立つつもりなんですね」


 俺は困惑した。映像に映し出されたラハヤ、キセーラも緊張と羞恥が入り交じった顔をしていた。当のシグリッドは自信満々の顔でいる。


『その選手は後程紹介致します!!』


「しなくていい」

 

「っぷぷ、シドーさん実況に突っ込み入れなくても」


 モイモイが肩を震わせて笑った。


 この競技会は随分とエンタメ性が強いらしい。


 始まった魔導士による実況映像も、真面目時々ふざけるようなものだった。全ては競技会を盛り上げるために。


スタイルがいい子が伏射、膝射、立射を続けてやる(意味深)

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