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第二五話 夏栄祭 その3


 酔いが覚めた俺たちは、賑やかな帝都を散策する。


 色とりどりの幌が張られた屋台が建ち並び、酒を飲みながら食事を摂る人々。


 だが、祭りの熱気にあてられて気を大きくするのは小悪党もである。


 女性の悲鳴が響き、男の怒号が聞こえた。祭りの警備兵たちの声も聞こえる。


「シドーさん、シドーさん」


「どうした?」


「前から小悪党が突っ込んで来ているで御座る」


 小悪党が人を突き飛ばしながら強引に逃げている。手にはお金が入った財布に、もう片方の手にはナイフを持っていた。


「どーけ、どけどけどけい!!」


 小悪党がナイフを構えて突っ込んで来る。


 俺は左手で小悪党の右手首を持つと同時に顎を右掌(みぎてのひら)で押し上げ、左足を踏み込んで後ろに崩す。そのまま右足を小悪党の右足に掛けて転倒させ、すかさず倒れた小悪党のこめかみを回し打って気絶させた。


「お見事で御座る」


「真面目に訓練受けてた甲斐があるってもんだ」


「あ、ニーカがこちらに走って来てます」


 動きやすそうな半袖半ズボンの軽鎧を着たニーカが駆け寄った。全速力で走っていたように見えたが、息を切らしている様子はない。ニーカが縄で小悪党を縛り上げる。


「ご協力ありがとうございます。あれ? カムロ様じゃないですか! もしかしてカムロ様が捕まえて下さったのですか!」


「急に襲われたからな」


「こめかみに一発ですか。あ、そうだ、お夕食どうしましょう?」


「俺が作るからさっさと連れてけ」


「はい! それでは!」


 ニーカが気絶した小悪党を引きずって詰所に戻っていく。


 夕食が終わって屋敷の浴場で風呂に入り、部屋で眠りにつくが寝付けなかった。


 先ほどからベッドの上で寝返りしては、一睡もできない。夕食時のラハヤがずっと静かであったのも気になるし、俺も明日行われる狩猟組合の競技会が気になるのだ。俺が一番になってシグリッドが勝手にした約束をなかったことにする方法もあるが、人前で猟銃の便利さを喧伝するのは良くない。


 ラハヤさんとキセーラの二人を信じるしかねえのか。


「ダメだ寝れん」


 ベッドから起きあがって窓を開ける。


 涼しい夜風を部屋に入れて気分転換に換気する。


 外を眺めていると部屋の扉がノックされた。


 扉を開けると枕を持ったラハヤが、白い寝間着姿で立っていた。


「入っていい?」


「えっと……」


 これは一体どういう状況なのか、俺は何と答えればいいのか、こういった経験が乏しい俺が咄嗟に答えられるはずもなく言葉を濁さざるを得なかった。


「寝れなくてさ。お兄さんが手を繋いでくれたら寝れるかなって」


 なるほど、そうなのか、それなら仕方な……いやいやいや不味いだろう!?

 

 月の光でうっすら体のラインと下着が透けて見えるラハヤと添い寝をしてしまえば、間違いが起こらないとも限らない。そういう一歩踏み込んだ関係になるのは大変よろしくない。


「俺も寝れなくて――あだっ!?」


 窓から何かが入って来て俺を押し潰した。


「約束通り来たのじゃ!」


 この声はブラックリリーだ。約束をした覚えはない。いや、海の時に『いい話がある』とか言っていた。


「ちくしょう、よりにもよって今かよ」


「およ? これはもしや、二人でお楽しみでもするつもりじゃったのか?」


「あの、私は別にそんなつもりじゃ……」


 ラハヤが頬を赤らめて困った顔をする。


「で、何なんだ?」


「魔食会の真の目的について分かったことがあってな。それを伝えてやろうかと思って来たのじゃ。しかしあれじゃな、お邪魔じゃったようじゃの」


 ニヤニヤし始めたブラックリリーに、イラッとした俺はこいつの頭を(はた)いた。


「あいたっ!?」


「言いたいことあるならさっさと言え、そんでちゃっちゃと帰れ」


「仕方ないのう。……あやつらは大いなる獣の骨を探して召喚するつもりのようじゃ。まあ、その目的が成功するかどうかは分からぬが、お主はもうちょっと気合入れてラハヤを守護(まも)った方が良いぞ」


 言いたいことを言い終わると、俺たちの質問すら受け付けず、ブラックリリーは転移魔法で消えた。


「殆ど忠告じゃねえか」


「……うん」


 雰囲気だけぶち壊したブラックリリーによって、何だか白けてしまった。


「ラハヤさん、少し散歩する?」


「うん、そうだね」


 夜の中庭を散歩する。鬼人族の寝巻を着た俺と、白い寝間着を着たラハヤがいるこの空間は、夜鳥の声と虫の音や風の音だけで静かだった。


「シグリッドさんには本当に困ったな……。まさかお兄さんを欲しがるなんて」


「全くだ」


 この世界の女性の考えることが全く分からん。


 俺が気に入られる要素はどこにあったというのか。シグリッドが本当に欲しいと思っているのは、俺ではなく猟銃なのではないだろうか。俺は強くそう思う。


「お兄さん、負けたらごめんね?」


「まあ、ラハヤさんが負けたら俺は全力で逃げるから大丈夫だよ」


「ふふっ……やっぱりお兄さんは面白いね」


「理不尽にただ屈する俺じゃないからな」


 後ろ手に組んだラハヤが頷く。結局俺もラハヤも、今更ジタバタする訳にもいかないのだ。ジタバタするのは結果が出てからでいい。


 しばらく散歩をしてから部屋に戻り、ラハヤも自室に戻った。


 そして、次の日の朝が鶏声(けいせい)と共にやって来た。


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