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第二一話 労い

っ取り急ぎ投稿


 臭くなった体を洗いたい。そう思い近くのゴブリンに尋ねると、浜辺近くの宿屋の風呂場を貸し切りで使っても良いと言われた。


「いいんですか?」


「ええ、ええ、表向きは皇太子殿下が大海蛇を仕留めたことになっておりますが、真に仕留めたのはカムロ様だとは誰もが知るところ。カムロ様は功労者なのですから、当然でございます。さあ、こちらへ」


 宿屋に案内されている途中、俺はゴブリンに魔食会のことを聞いた。


「まさか我々も、この浜辺で魔食会が暗躍していると思いませんでした。魔獣牧場の件もそうですが、今回の大海蛇の卵も」


「食を極めるにしては結構強引ですよね、奴らは」


「何でも魔獣の肉や卵には魔力を高める効果もあるとか。そこまでしてやっても良いと思うぐらいに、見返りが大きいのでしょうな」


「詳しいですね」


「さあ、こちらで御座います。話はこちらがつけておきますので、どうぞ心置きなくお体を休めになって下さい」


 最後の問いには答えなかった。推測になるが、魔食会とゴブリンたちの間で繋がりが過去にあったのだろう。魔獣ベヘモスの時だって、何故かピンポイントで救援に来てくれた。


 ま、追及はしないでおこう。


 俺は風呂に向かった。水着を着用、体を洗ってから湯に浸かることと注意書きが書いてあった。


 風呂桶でお湯を汲んで浴びながら思う。もうちょっと俺に見返りがあってもいいんじゃないか。毎回体を張るのは俺だ。まあ、体を張るのが俺だけとは言わないが、酷い目に遭うのは決まって俺。特に今回みたいな魔獣騒ぎとか顕著だ。


 石鹸を手に取り、風呂椅子に座る。鏡に映る己の姿を見ると、やはりどことなく疲れた顔をしていた。


「いたいた」


 俺は硬直した。状況が良く呑み込めなかった。ラハヤの声がして顔を上げると、鏡に水着姿のラハヤが映っていたのだ。


「うん?! どうしてラハヤさんがここに?」


「キセーラさんは元同僚の人たちに捕まってるし、モイモイさんとニーカさんは報酬の取り分の話をしてるからさ」


「そうなのか……」


「お兄さんと二人きりで話す機会、あんまりないし。それならついでに、頑張ったお兄さんの背中を流すぐらいはしようかなって」


「それは、その……ありがたいんだけども」


 ど、どうしよう。


 この状況どうしたものか、一線は越えていないと思うが、俺の心情的に問題がある。年下の女性に背中を流させるのは倫理的問題を孕んでいると言っても過言ではない。


 祖父はこういう時に何と言ったか、夫婦になってから男女の仲になるべきだとか教わった気がする。


 そ、そうだ、無になるのだ。無になって仏の心で乗り越えればいい。深く考えるな。意識するんじゃあない。


「じゃあ、流すよ。頭も洗ってあげる」


「お、おう」


 ラハヤが洗って背中を流してくれる間、俺は無になった。彼女の柔らかい感触も意識せず、目を閉じて乗り越える。明鏡止水の境地がそこにはあった。


「ふふ、お兄さん石みたいに固まってた」


「そりゃ固まりもするよ」


「心臓に悪かった?」


「まあ、うん」


「もう、二人とも水着だからいいじゃない」


「そりゃそうなんだけど……」


 ドギマギする俺などお構いなしに、ラハヤが俺の顔の匂いを嗅ぐ。


「うん。匂いが取れたね」


 ラハヤのことが時々良くわからなくなる。彼女の謎な行動に、一体何を考えているのか判断に困るのだ。一緒に湯に浸かり、俺が話のネタに困っていると外からモイモイたちの声が聞こえた。


 どうやら彼女たちもこの風呂場を使うようだ。確かにこの風呂場は水着着用の混浴であるし、貸し切りとも言われたが、まさか団体の貸し切りだとは思わなかった。


「今見られたら不味いかな?」


「二人きりで入ってるところを見られたら、何やられるか分かったもんじゃねえな……」


「良し、じゃあ皆が来る前に出ようか」


 ラハヤが湯から上がり、俺も後に続く。


 モイモイたちの声がどんどんと近くなり、ラハヤの足取りも早くなる。


「ラハヤさん、風呂場であんまり早足は」


「でも、早くしないと――っと!?」


 足を滑らせたラハヤが仰向けにひっくり返り、俺は咄嗟に彼女の頭と床の間に右手を滑り込ませた。同時に彼女の腰を左手で支えていた。


「あ、ありがとう」


「ああ、うん」


 鼓動が早くなる。さらに大きな音を立てて開かれる扉で、俺の鼓動は痛いほどに早くなった。今の体勢は非常に不味い。どう見ても押し倒している。


「シドーさん何をやっているのですか?」


 モイモイの冷たい目が俺の心に刺さる。冷や汗が止まらない。


「私の時は手を出さなかったな?」


 キセーラが怒りに拳を震わせ、俺は悪寒がした。


「もしかして、お金で買ったんですか!?」


 ニーカが驚いた顔で、俺が春を買ったと思い違いをする。


 というか、その思い違いはラハヤも被弾するから止めろ。


 無実を信じてもらうのは大変だった。


 事故だと言っても誰も信じようとせず、ラハヤも最初は笑うだけで助け船を出してはくれなかった。一時間後ぐらいに、やっとラハヤが説明してくれたことによって何とか凌ぐことが出来た。


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