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第十七話 海へ行こう その2


 横で寝るラハヤを見ている内に、俺も眠気に襲われた。モイモイもキセーラも寝ているし、到着まで寝ることにする。


 四時間後、俺たちは浜辺に到着した。


 燦々と輝く太陽に、潮風香る透き通るような美しい海、どこまでも青い空。波の音と海鳥の鳴き声や、ここに訪れた人々の楽しむ声は、俺の居た世界のビーチと謙遜ない。


 それに、訪れている人々が種族豊かであるのも面白い。


 人間にエルフにダークエルフ、獣人や鳥人たち。


 何より美形が多い。当然、美人も多い。そう思いニヤケて居たら、モイモイに横腹を抓られた。


「いってえ! 何だよ!?」


「着替える場所はそこの小屋です」


 小屋に入り、水着に着替える。


 陸自時代の肉体を維持するよう努めていたが、この世界に来てから筋肉痛を経験したことがない。不死身となった体に関係しているのだろう。


 外に出るとラハヤたちも着替えていた。クーは舌を出して暑そうにしている。


「ラハヤさん、似合ってるね」

 

 空色の水着を着たラハヤ。とても良く似合っている。


「うん? ああ、うん、ありがとう。お兄さんはあれだね。結構筋肉ついてるね」


「腹が出ないように気を付けてるよ」


 ぽんぽんと自分の腹を叩いて見せる。


「っぷ、ふふ」


 モイモイの方を見ると、赤いフリル付きの水着を着ていた。彼女は貧乳を隠すスタイルでいくらしい。特にグラマーなラハヤとニーカを見た後に見ると哀れに映る。彼女以外はビキニなのが、憐れみを加速させた。合掌。


「今、見比べませんでした?」


「いやあれだよ。フリルが良く似合ってるなって、いてっ!?」


 モイモイに脛を蹴られた。


「私にはないのか?」


「似合ってる」


 緑の水着はキセーラに良く似合っている。


「そ、そうか」


 キセーラが少しだけ恥じらいを見せた。


「カムロ様、私はどうでしょうか!」


「似合ってる」


 白い水着はニーカに良く似合っている。


「もー! さっきと同じじゃないですか!」


「う、うるせえな」


 ……決して一々褒めるのが面倒な訳ではない。本音を述べると今までの経験上、女性の水着姿を褒めたことがないのだ。小学生並の感想しか出てこない。


「それより、この世界にそういう水着があるんだな」


「私が教えてやろう。私たちエルフというのは裸になるのに抵抗がないんだ」


「エルフはちょっと変なところあるよね」


 ラハヤも言うんだからそうなんだろう。


「そして、時の皇帝が精霊国を訪ねた際にエルフが泉で裸になっているのを見てしまった。大層驚いた皇帝は、精霊国の女王に意図を尋ね、尋ねられた女王は国民が未開の野蛮人のように思えて恥ずかしがった。で、最低でもこれぐらいの布は着ろということになった訳だ」


「なるほど」


 服飾が発展しているのを、素直に喜んでおこう。


 正直、眼福です。


 俺は心の中で両手を合わせ感謝した。


「さあ、皆さん海を楽しみましょう! シドーさんも早く」


 モイモイが俺の手を引く。娘を持った父親の気分だ。


 ラハヤたちが海を泳ぎ、キセーラが食べられそうな貝を集めている。俺も久しぶりに海を泳ぐ。確か五年ぶりぐらいだ。


 海から上がったラハヤを、俺はふと見た。


 左胸の外側にほくろか。


 ついつい見てしまったが、俺が見たかったのはラハヤにあるという紋章だ。


「この紋章が気になる?」


「あ、すまん……」


「見てもいいけど、代わりにお昼を一緒に買いに行こうよ」


 本当に左の内股に七芒星の紋章があった。股間のすぐ下に。しかし、緋色の女がラハヤなら、大いなる獣とは何なのだろうか。


「買いに行くか」


 やはり分からないことを考えても意味がない。その時が来たらまた考えよう。


 ラハヤと一緒にサンドイッチを買って皆のところへ戻っていると、見慣れた人物が視界に入った。


 ボディスーツタイプの白い水着を着たそいつは、ダークエルフの死霊術士。見た目は幼女、中身は爺さんのブラックリリーである。どうやらこいつも夏のバカンスを満喫しているらしい。用がある時以外は、あまり会いたくない人物だ。


 そのまま立ち去ろうとした俺の手首を、ブラックリリーが掴んだ。


「お主よ、見て見ぬ振りをしたな?」


「そりゃ、厄介事は勘弁なんで……」


「あ、ブラックリリーさん」


「ラハヤがいるということは、他の者たちもいるようじゃな。楽しんでいるようで何よりじゃぞ。……そうじゃ、忘れておったわ。お主にはいい話があるぞ。今度日を改めて教えてやろう」


「まあ、多少は期待しておきます」


 ブラックリリーと別れ、昼食を摂った後も俺たちは思い思いに海を楽しむ。ついでの観光はしたことがあるが、観光が目的で行動したのは初めてだ。だからこそ、はしゃぐラハヤたちは微笑ましい。


 俺はパラソルの下で座り少し休憩していると、隣にキセーラが座った。


「シドーは楽しんでいるか?」


「ああ、そうだな。海に行くのは久しぶりだし、海風に当たるだけでも心地いい」


 体育座りに座り直したキセーラが詰め寄り、俺の顔を覗き込んだ。息が当たるほど近い。自然とキセーラの変態行為に身構える。


「顔が近いんだが……」


「そう身構えるな。私だって他人の目は気になるものだ。下手な真似はしない。ただ、いい思い出になったか心配なだけだ」


「と言って、俺の二の腕を擦るな」


「我慢出来なかった」


「お前ぇ、とうとう真顔で言い切りやがったな。というか、俺のどこがいいんだよ? いまいち腑に落ちないんだ俺は」


 キセーラはもじもじすると、太陽を指さした。


「私は魂が見えると言ったな? シドーの魂はまさに太陽だ。それも相手を焦がすのではなく、とても暖かいものだ。傍に居るだけで心地いい」


「俺には分からん。だけどま、あれだ。俺にもキセーラの魂の色が見えるぞ」


「ほう? 何色に見える?」


「桃色だ」


「し、失敬な!」


 ぶつくさ文句を言うキセーラ。俺は別に間違ったことは言っていない。


「なあ、シドー。一つ聞いていいか?」


「なんだよ?」


「もしも、シドーの帰還と引き換えでないと助けられない者がいたら、どうする?」


「変態の癖に難しいこと聞くんじゃねえよ」


 誰であっても迷わず助けるだろう。だが、帰還も諦めない。選択肢が二つってのはどうにも腹が立つ。


「お兄さんとキセーラさんの分も持ってきたよ。はい、どうぞ」


 ラハヤが赤いお酒を持って立っていた。


 ラハヤの後ろには、いつぞやの女魔法使いミュラッカがいる。髪色と同じ青い水着を着た彼女は、赤い酒の売り子をしているようだ。


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