第十六話 海へ行こう その1
取り急ぎ投稿
だが、問題があるとすれば、商人組合の小型魔導魔導飛行艇に乗っても良いのかということと、俺は水着を持っていないということだ。
「商人組合専用の小型魔導飛行艇って俺たちも乗れるのか? それと俺は水着、持ってないぞ」
「実はですね。シドーさんが街へ繰り出している時に、ゴブリンたちが来たんですよ。去年の夏から帝国の新たな行楽地として浜辺を整備したとかで、特別に小型魔導飛行艇で送迎しますと言った話でした」
「てことは新しい情報はないんだな……」
新しい情報がないので代わりに、と言った理由なのだろう。
「シドーの水着なら私が用意した。だから問題はないぞ」
「いや、色々と問題大ありだろ」
何で俺のサイズ知ってるんだよ。……あっ。
俺は察した。そういやこいつは散々俺のことをストーカーしていた。それは川で水浴びをしている時もだ。俺のパーソナルデータを詳らかに把握しているのだろう。この変態は。
「色はえんじ色にしておいた。ほら、これだ」
……俺の好きな色まで把握してやがる。
キセーラが見せた俺の水着は、えんじ色のトランクス型だった。ドヤ顔でそれを見せるキセーラを前にして、俺はどんな顔をすればいいのだ。喜んでいいのか、怒ればいいのか、笑えばいいのか、誰か教えてくれ。
「……ああ、うん。俺はお前のことが底知れなくて末恐ろしいよ」
「あ、お兄さん。出発は明日なんだけど、ニーカさんも来るからね」
「チェッカードさんも来るのか」
ニーカも来るとなれば、大所帯である。こんなに大勢で海へ行くのはいつぶりだろうか。そもそも、女性を連れて海に行ったことがない。何だか緊張してきた。
時間は飛んで次の日の朝。
俺はラハヤたちを連れて、帝都郊外の小型魔導飛行艇発着場へ向かう。
新しく建てられたこの発着場は、商人組合の空郵便サービスのためのものらしい。民間航空会社めいた事業を展開する辺り、ゴブリンたちの商売の才能はとんでもなく高いと言える。
「これはこれはシドー様と、そのご友人方、ようこそおいで下さいました」
小奇麗な商人服に身を包んだゴブリンが、恭しく頭を下げた。彼の後ろには、全長四〇メートルほどの箱型の魔導飛行艇が見える。翼なしで飛べるのだから、どっちかというと宇宙船にも通ずるデザインだ。
「友人だと……!!」
何故かキレたキセーラに、ゴブリンがビクッと体を硬直させる。
「それは聞き捨てならん――あいたっ!?」
「おい、早速問題起こすんじゃねえよ。無実のゴブリンさんが、アワアワしちゃったじゃねえか」
「そうですよ。ゴブリンさんには、これからも世話になるんですから」
「ああ、これはチェッカード家のご長女さん」
世間話が始まりそうだったので、皆を急かす。
「さあ、ほら入るぞ」
「あ、シドー様にはこれを渡しておきます。我らの神の手記、それの写しを製本したもので御座います。少しでも解決の糸口になればよろしいのですが……」
「おお、手記か。ありがとうございます」
思わぬ物が手に入った。謎めいた古川三郎の異世界生活を綴った手記。有用な情報が手に入るかもしれない。機内で読もう。
魔導飛行艇が離陸し、高度二,〇〇〇メートルぐらいまで上昇した。
空の旅の間、俺は古川三郎の手記を読むことにする。
ちょっとした読み物だ。
最初の文はこう始まっていた。
『一九四三年二月一六日。私はガ島撤退作戦において取り残され、周りは悪鬼が待ち構える地獄の様相であった。だが、絶望する私の前にこの場に似つかわしくない白馬が現れた。とうとうおかしくなったかと思った。何せその白馬は人語を喋ったのだ。背に乗れ、と』
「俺を連れて来たのもやっぱりこいつで確定だな。……今度会ったら桜鍋にしてやろうか」
「お兄さん、何を読んでるの? 本?」
ラハヤが覗き込む。
「ちょっとした手記だよ。俺の大先輩の。ラハヤさんも見る?」
「一緒に見ていいなら、見るよ。書いてある字とか読めないし」
「それなら、分かりやすく朗読しようか」
「うん。いいね、退屈しのぎになりそう」
古川三郎の手記で特筆すべきことは特になかった。途中から、この世界の動植物の絵が描かれていたり、彼なりのこの世界の考察ぐらいだったからだ。その考察も特に目新しいものはない。
ただ、最後のページに七芒星が描かれていた。俺にはこれがなんなのか分からなかった。生憎と俺はオカルト知識を持ち合わせていない。
『大いなる獣、緋色の女を欲す』
「全く意味が分からんな」
俺はそう呟くと、途中からすっかり寝てしまったラハヤを見た。




