表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/121

第十四話 熊狩りを終えて 後編


 熊爪の首飾りを持ち、ラハヤたちの部屋へ向かう。


「お兄さん、どうしたの?」


「いつぞやのお礼に、これを持ってきた」


 ラハヤに熊爪の首飾りを見せる。モイモイとキセーラが、面白くなさそうな顔で寄って来た。この二人は俺に何かをしてくれた訳ではないので、二人にないのは当たり前だ。


「いつぞやのって、もしかして銃袋の?」


「そうだな。まあ、遅くなったけど、手作りには手作りで返さないと失礼だと思って。でも、俺の場合は爪の加工までしかやったことないんだけど……」


「うん。ありがとう、お兄さん。ずっと大事にする」


 ラハヤが首に熊爪の首飾りを付けた。鬼人の郷の細工師が腕利きだったのだろう。ラハヤにとても良く似合っていた。


「私にはないのですか?」


「今度俺に何かくれたらお礼をしてやるよ」


「なるほど」


 モイモイが考え込んだ様子で奥に戻った。多少は期待しておこう。


「シドーは何がほしいんだ? そうだ、私のしょ――あいたっ!?」


「言わせねえよ!」


 キセーラの暴走発言は俺の手刀によって防がれた。こいつは隙あらば成人指定に持って行こうとする。


 そして、この日の夜である。


 夜の祝宴は盛大に行われた。参加した猟師たちや、リンドウの家である佐名田家の者たちとの祝宴だ。


 熊肉は熊汁や、角煮、焼肉にされた。夏熊ということで、香草や酒で臭みを取られた熊肉料理は一級品だった。


「こちらは熊の心臓(ハツ)で御座います。一人二切れ、お取りくださいまし」


 女中が薄くスライスされた熊ハツの焼き肉を運んで来た。白ネギが上に乗った熊ハツの焼肉は、見るからに美味しそうだ。


「ええ、ありがとうございます。ほら、ラハヤさん、ハツが来たよ」


「うん。これが熊の心臓かぁ。どれどれ……」


 ラハヤが白ネギと一緒に熊ハツを食べる。口に入れた途端、ラハヤの顔が綻んだ。可愛い。


「ラハヤさん美味しい?」


「ふふ、美味しい」


「志道殿、ささ、もう一杯」


 リンドウがお酌をする。


「ああ、ありがとう。どれ、俺も食べるてみるか」


 箸で白ネギと一緒に熊ハツを口に運ぶ。熊ハツは想像以上に美味かった。酒が進む美味さだ。


「こりゃ美味い。おい、モイモイもキセーラも食べたか? 美味いぞ」


 ラハヤの隣に座るモイモイとキセーラを見る。


 既に箸をマスターした二人は、親指を立てて返事をした。


「さいっこうです! 美味しいです!」


「シドー、熊汁も美味いぞ!」


 二人とも上機嫌である。美味い料理に美味い酒、やはりこの組み合わせは最高だ。


「志道殿は素晴らしい御座る。突進してくる熊を臆さず冷静に仕留めるとは」


「いや、俺なんてぺーぺーだよ」


「そうなので御座るか?」


「俺の世界の先輩猟師はさ、四五〇メートル先の豆粒みたいな鹿や熊を一発で仕留めちゃうんだ。俺なんてせいぜい三〇〇メートルだった。だから、ペーペーだよ」


「なんと……! 志道殿の世界の猟師は、鬼掛かった者たちなので御座るな」


「あれが、あの時代の又鬼(マタギ)って奴だな」


 俺もいつかはあのレベルまで上り詰めたい。


 だが、肝心のスコープが壊れてしまった。この世界でスコープを作れる者は存在するのだろうか。帰ったらドヴァさんに聞く必要がありそうだ。


「鹿室殿、楽しんでおられますかな?」


「これは源太郎さん。ええ、俺も皆も楽しんでますよ」


「それは良かった。ほら、リンドウもお顔を見せて差し上げなさい。いつまでも恥ずかしがっているのでは、佐名田の名が廃ります」


「あ、兄上……」


 リンドウが俯く。


「そういや妹さんは、何でいつも顔を隠してるんです?」


「ははは、それがおかしな話でして」


「兄上!」


「狐面を付けていないと、人と目を合わせられないそうです。全く困った妹だ」


「なるほど……」


 俺に悪戯心が芽生えた。ゆっくりとリンドウの後ろに回り込み、がっしりとリンドウの両肩を掴んだ。


「志道殿!?」


「さあ、源太郎さん! 今です!」


「それっ!」


 俺の合図に合わせて、源太郎がリンドウの狐面を引っぺがす。これが酔っ払いコンビネーション。


「「「おぉぉーーー!!!!」」」


 一斉に歓声が上がった。リンドウは耳まで真っ赤にして俯いた。


「どうですか鹿室殿、僕の妹は中々に美しいでしょう」


「なるほど、これは確かに……」


 瞳の色は琥珀色で、整った眉毛、真っ白な肌を恥じらいで朱に染める姿は可愛らしい。真っ当な美少女だ。


 屋敷を壊されたのが、どうでも良くなるぐらいの美少女だな。


 俺が感嘆の息を漏らしていると、後ろから首根っこを首根っこを掴まれた。そのまま腕で首を絞められる。


「おい、シドー! 私がいるのに、他の女に鼻の下を伸ばすとは! ゆる゛ぜん゛!!」


 上気した顔のキセーラ。厄介な絡み酒である。


「首が締まる、締まってる!! つ、つーかそれはお前の勝手な妄想だろうが!!」


 ラハヤに助けを求める視線を送った。


「キセーラさん、やっちゃえ!」


 現実は非情である。息が苦しい。


 俺はそのまま後ろに引き倒された。馬乗りになったキセーラが、俺の頬を往復で叩く。度数が高く飲みやすい鬼人族の酒をしこたま飲んで、キセーラの思考がはちゃめちゃになっているのだ。誰か助けてくれ。


「ごんなに゛っ!! 愛しているのに゛!!」


「言動が一致してねえんだけど!! 痛っ! 痛い、痛いから! 痛いから止めろっ!!」


「ふふふ、いい気味ですねシドーさん」


 誰も彼も大笑いするだけで、誰も助けてくれなかった。


 そうして騒がしい祝宴は終わり、四日間を鬼人族の郷で過ごした。その四日間は熊の被害はなかった。

 

 山を探索しても熊の気配はなく、新たな痕跡もない。完全に解決したと見ていいだろう。


 馬車で帰る時がやって来た。


 馬車を御し、郷の出口に向かう。遠くから六歳ぐらいの女の子が、精一杯両手を振っているのが見えた。小松という鬼人族の少女だ。


「ねえ、お兄さん。あの子がコマツちゃん?」


「ああ、そうだろうな。彼女のことはリンドウたちに任せよう。あいつらなら、きっと大丈夫」


 俺たちは小松に向かって手を振ると、鬼人族の郷を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ