第十二話 熊強襲 後編
取り急ぎ投稿
俺とモイモイは宴会の場に戻り、リンドウに事の次第を伝えた。
「胸にナイフを突き立てたから出血はしてるはずなんだ。でも、刃が骨で止まった感触がした」
「このまま追撃するので御座るか?」
「いや、痕跡探しは夜明けから始めようと思う。今夜は戸締りを厳重にするよう、郷の皆に伝えたほうがいいだろうな」
ラハヤたちも頷き、何かを見つけたラハヤが俺の背中を軽く叩いた。
「ねえ、ねえ、お兄さん。背中ががっつり破けてるよ。爪痕状に」
「あれ? まじか」
手探りで皮鎧を確かめると、三本線状に破れていた。モイモイを後ろに投げた時に、引っ掛かれていたのかもしれない。痛みはなかったから掠ったのだろう。
だが、十六万のスコープと一緒に皮鎧もお釈迦になってしまった。無性に腹が立つ。
「志道殿、替えの服が御座います故、こちらへどうぞ」
「すみません、どうも……」
俺はリンドウに頭を下げた。
「私たちも自室に戻って準備してくる。早朝になったらシドーを起こしに行く」
「変な起こし方はやめろよ?」
「分かっているとも」
俺はリンドウに連れられ、綺麗に整頓された部屋に案内された。
「では、お脱ぎください。志道殿」
「お、おう」
破れた皮鎧を脱ぎ、同じく破れた白いシャツを脱いだ。
彼女は箪笥からカーキ色の着物を取り出して俺に着せた。それを尻端折にし、動きやすく丈を上げる。黒いズボンの上に、尻端折りにしたカーキ色着物。和洋折衷な風体となった。
「ぴったりで御座いますね」
「本当にいいのか? こんな上等な服をもらって」
しかも、これはリンドウの兄のものだろう。何だか悪い気がするな。
「兄上もきっとお喜びになられるはずで御座る。志道殿、どうか着てやってください」
「そうか。ありがたく着させてもらうよ。大事にする」
狐面に隠れたリンドウの顔は、どこか笑っている気がした。
そして、次の日の早朝。
鬼人族の猟師たちと一緒に、手分けして熊の痕跡探しをすることになった。
血の痕という明確な痕跡がある。なので猟師たちは四人一班の、それが三個班の一二人で探している。
俺たちはいつも通りのメンバーで山に入っていた。
音を立てずに目を凝らして探す。足跡や糞、爪研ぎ痕、今回に限り血痕。これらが俺たちが見つけるべき痕跡だ。時には悪路を進み、山深く入る。
「お兄さん、目の前の小川の先に痕跡がある」
ラハヤの指さす方向を双眼鏡で覗く。見えた木の幹に爪研ぎ痕があり、近くに足跡があった。
小川を渡り、足跡を見る。おそらく前足だろう。幅は二四センチほど。これから考えるに、この熊は体長二四〇センチ、体重は三〇〇キロと推定できる。
「……でかいな」
「昨日の熊でしょうか?」
周りに血痕らしきものはない。違う熊か、足跡が古いかだ。
「シドー、誰か来るぞ」
木々の上を音も立てずに飛ぶ影が見えた。
その影が俺の目の前で跪く。リンドウだ。
「件の人食い熊の痕跡を猟師たちが見つけました。こちらで御座る」
どうやらこちらは空振りで向こうが正解を引き当てたようだ。
俺たちはリンドウの後ろに続く。ほどなくして鬼人族の猟師たちと合流した。
鬼人族の猟師たちは和装で、獲物は熊槍や弓だ。一人の猟師が俺に話し掛ける。
「ここに足跡と血痕がある。奴はこの先だ」
先ほど見つけた足跡と同じ幅の長さだった。足跡と足跡の中央には、等間隔に点々と血痕が地面に付着している。それほど出血をしている訳ではないらしい。
「良し、進もう」
俺は猟銃を握りしめた。
スコープなしでどこまでやれるかは、正直なところ分からない。十メートル以内まで接近して無理やり狙うしかないだろう。いざとなれば、全員で囲んで仕留めればいい。
俺たちは更に進む。三人の猟師たちが大木の洞を囲っていた。
ボルトを操作しチャンバーを開ける。同時に開いた排莢口から実包を二発弾倉に込め、一発は薬室に装填した。ボルトを前に押し、ガチッと下に倒す。
俺たちが大木の洞に接近すると、突然熊が飛び出した。




