第一話 プロローグ 狩猟組合からの依頼 前編
第二部を始めます。応援ありがとう御座います。これからもご愛顧のほどよろしくお願いいたします。
シドーはツンデレ。
俺は朝起きて体を拭き、服を着ると窓を開けた。
季節は夏真っ盛り。日が昇れば一気に気温が上昇する季節である。
俺たちが旅を一旦中断し、しばしの休息を決め込んでから早くも一週間が過ぎている。その休息も自分の家であるのに、何故だか精神的な疲労が付いて回る異常事態に俺は頭を悩ませていた。
理由は色々ある。
まず一つ。それは――
「シドー、何故いつも部屋に鍵を掛けるんだ?」
俺の部屋の扉をガチャガチャやりながら、エルフのキセーラが文句を垂れる。
彼女はエルフの中でも高位のハイエルフで、相手の魂を見ることができるらしい。優秀な弓の腕前と鷹の目を持つ非常に頼れる奴ではあった。
だがその性格は二五三年も処女を守り、男日照りの中に居たせいか、色々と性癖を拗らせたものだった。俺をストーカーしたり、さりげなくセクハラしてくる。ラハヤたちからは許されたらしいが、シュトガルドまでの一件は今思い出しても閉口する。
「お前が勝手に入ってくるからだろ」
俺は鍵を開けた。
「同棲しているのだから、そこまで警戒する必要はないだろう」
「そもそも許可した覚えはねえよ」
キセーラの見てくれは良いのだ。金髪ショートヘアに美しい碧眼。絵に描いたような美人だ。緑の服に胸当て、スカートに下のスパッツだって似合っているし、本当に変態なのを除けば素晴らしい女性なのだ……変態なのを除けば。ここ大事だからな。
「シドー様、起きられたのですね。今朝も朝食を精魂込めて作りました!」
理由そのニが顔を出した。
クラシカルなメイド服を着た彼女の名は、ニーカ・チェッカード。桃色の長髪の兎獣人で、見た目は男をコロッと騙せそうなレベルだ。歳は驚きの一四。初めて会った時は、ハイティーンにしか見えなかった。
だが、こいつが曲者だった。元の世界でも、ここまでの女性はいない。
その片鱗は俺がユニコーンを狩った後に見えた。俺を稼ぎの良い男と見るや、態度を媚びたものに変え、フィリバール討伐の後は、俺の屋敷に押しかけて来たのだ。
その暴挙はフレームアウトしていたモブが、いきなりメインヒロイン面してくるような滅茶苦茶な姿だ。それに至る理由が理由だけに恐ろしすぎる。肉食系にも程度があるだろう。
後、彼女の料理は美味しくない。味覚が兎獣人と人間では違うかららしい。
「ああ、今行きますよチェッカードさん。それと、そろそろ様呼びは止めてくれません?」
「ええ? なぜですか?」
「……イラッと来るんで」
「ひ、酷い!」
ニーカが抗議し、何故かキセーラが勝ち誇った顔をしている。
「……うう、じゃあ、どうお呼びすれば?」
「カムロさんとか」
「じゃあ、今度からそうお呼びします。……うう、名字呼び」
ニーカが口を尖らせて一階に降りて行った。
ただまあ、ニーカの実家が極貧生活から抜け出せそうなのは、素直に喜ばしいことだと思える。商人組合の品種改良事業と、高級作物栽培の認可が下りたようで、今では娼婦になっていた妹たちも戻っていると言っていた。それだけは本当に良かった。
廊下を歩き、ラハヤの部屋の前でモイモイが朝の日課をやっている。
「ラハヤ入りますよ~。っと、また裸で寝てる……」
理由その三が、毎朝繰り返されるこの光景だ。
ラハヤは灰金髪のミディアムヘアと綺麗な緑の目を持ち、スタイルも良く性格もゆったりと自然体で悪くはないのだ。薄々気づいていた彼女の酒癖の悪さは、俺たちに気を許したからなのかは分からないが、段々と悪くなっていた。
それは酒を沢山飲んだ彼女は、おもむろに服を脱ぎ始めるのだ。
酒を皆で楽しみながら月夜を鑑賞していた時のことだ。『暑い』と言っていきなり脱ぎ始めたラハヤに俺はギョッとした。
その時のモイモイは即座に俺の股間を杖で叩き上げ、キセーラとニーカが大慌てでラハヤにバスタオルを羽織らせ、俺以外はことなきを得た。
ラハヤとは酒が絡むとそういう娘なのだ。
「シドーさん、おはようございます」
「なんかいつも大変そうだな」
「まあ、もう慣れましたけどね」
俺の目の前で常識人ぶっているモイモイは、上級魔導士だ。
容姿は背が低く、胸も平たい。それに加え、銀髪サイドテールと赤目という顔立ちだ。
赤い魔法使いの装束が示すように、火焔魔法を得意とするのだが、テンションが上がると高威力の火焔魔法をぶっぱなす放火魔。半魔族らしく少しゲスい守銭奴めいた性格で、問題を起こすのはだいたいこいつだった。
「あ、お兄さん、おはよう」
「おはよう。……ちょ!?」
「ラハヤ! ダメですよ下着姿で出ては!!」
寝ぼけ眼のラハヤは下着姿で、とても目のやり場に困る。
俺は早々に退散した。後はモイモイに任せよう。
このように自分の家であるのに、何故だか精神的な疲労が朝からやって来るのだ。
まだ旅をしていた方が、全員の気も引き締まって楽かもしれない。
「……そう遠くない内に精霊国を目指した方がいいかなこりゃ」
俺たちは一階で朝食を摂り、食後は各々のやりたいことをしていた。
そして、その客は突然やって来た。
玄関の扉のベルが鳴らされ、ニーカが応対に向かう。
屋敷に入って来たのは狩猟組合の人たちだった。受付嬢を始め、何故か女文官までいる。その後ろに控えている男性は、ボロ布を纏っているが佇まいに気品を感じた。
「シドーさんに内密の依頼があります。説明するお時間を頂けますか?」
それがとんでもない依頼だった。




