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第二七話 その後の顛末 前編


 その後の顛末はこうだ。

 冥界の門を悪用していたフィリバールを倒し魔法陣を消して冥界の門を閉じたことで、廃砦から怨霊やら悪霊が溢れ出ることはなくなった。


 冒険者組合には後始末の依頼が出されているそうだが、今の俺たちには関係ない。ここ最近の冒険者紛いのことをしていたのが、根本からおかしかったのだ。やっと正常に戻れる。


 現在の俺の前には、銀髪ツインテールのブラックリリーが立っていた。


 このゴッシクロリータな服を着た彼女、いや彼、いやこれは俺の顔を見るや詰め寄って来る。


「良くぞ戻って来た! して首尾はどうじゃ? 上手く消せたかの?」


 こいつの顔を見る前は暴力は止めようと思っていた俺だが、やはり顔を見るとどうも腹が立つ。見た目が悪い訳じゃない。悪びれた様子がなさそうなのが悪い。


「フン!」


「痛っ!! 何をするのじゃ美少女相手に!! これは家庭内暴力じゃぞ!!」


 つい抑えきれずに、拳がブラックリリーの脳天に飛んだ。というかロリじじいと家庭を持つ奇特な趣味はない。


「戯言言う前にまず言うことがあると思うんです。幸い死人は出なかったみたいですけど、怪我人は続出したんですから」


「……も、申し訳ない」


「で、まあ、リリーさんのことはバレてません。ただ、情報がしょぼかったら知り合いのエルフに突き出しますんで」


「……お主かなり怒っておるな?」


「さっさと言え」


「……では、まずお主をこの世界に連れて来た神のことを話そう。その神は数多の世界を駆け、時空を駆ける神馬じゃ。他の異世界人もこの神馬が関係している。古川三郎という者も神馬の背に乗ってやって来たのじゃ」


「乗った記憶はないんだが……」


「お主は来てすぐに飢えていたと言っておったな?」


「ええ、酷く飢えてましたよ。地面に寝ていましたし……」


 ブラックリリーが両手を腰に当てて言った。


「お主は神馬に轢かれてやって来たのかも知れぬ」


「轢かれた?」


「この世界に引きずられて来た際に、体と持ち物を再構築されたのであれば、胃の中が空っぽであるのも頷けるのじゃ」


 もしブラックリリーが言うことが真実であれば、俺を轢いてくれた神馬に殺意が湧く。


「まあ、真偽はその神馬に会って確かめろって話ですよね。帰れるかどうかも」


「そうじゃな」


 俺はどっと疲れが出た。事故で来てしまったとなれば俺は被害者だ。だが、同時に目的は見えた。神馬に会えば元の世界に帰れるかも知れない。可能性は決して低くないはずだ。

 

「騒動を起こしたお詫びとして儂も神馬を探してみようと思う。エルフと言うのは転移魔法が使えるからの。お主らよりも効率がいいはずじゃ」


「その転移魔法って俺にも使えるんですか?」


「いや、エルフとダークエルフしか使えぬ。他種族は使えぬし通れぬぞ」


 種族格差という奴だ。残念だが楽はできないらしい。


「お兄さん、なんか偉い人が組合の中に来てお兄さんを呼んでるみたいだよ」


 ラハヤが俺を呼びに来た。偉い人と言うのは何だろうか。呼ばれるようなことをした覚えはない。強いて言うなら、目の前のロリじじい関連である。


「ああ、すぐ行く」


 狩猟組合は人で溢れていた。中央には偉そうな女性文官と護衛の騎士たちがいた。

 

 入った途端に他の猟師や受付嬢たちが拍手で迎えてくれた。俺の名前を呼んで讃えてくれる人もいる。怒られるわけではなさそうだが、一体何が始まるのだろう。慣れない出来事に俺は委縮した。


「シドー・カムロで間違いないですか?」


「え、あ、そうです」


「今日はアドニス皇帝の名代として参りました」


「……誰でしたっけ?」


 俺が首を傾げると笑いが起こった。皇帝やら貴族とは、接点を持たないだろうと思っていたのだから仕方がない。


「この国の皇帝陛下ですよ!」


 女性文官に怒られた。当然である。


「あ、すみません」


「ゴホン。まあ多少の無礼はいいでしょう。一介の猟師がこのような待遇を受けるなんて稀ですからね。ではシドー殿は前へ」


 俺は前へ進み出る。背筋を伸ばし気を付けの姿勢を取った。


「帝都近郊の廃砦でのフィリバール討伐及び、一連の騒動を解決した功績を讃え貴殿に士爵位を授け」


 士爵って何だっけ? 一番下の爵位?


「屋敷と騎士戦功金章を与える」


 勲章はいいが屋敷まで? 神様だって探さなきゃいけないんだぞ。


 間が悪いのは俺の宿命のようだ。


「さらに準配偶者であるモイモイ・マイトパルタの借金及び、賠償金全てを貴殿に与えられた報奨金を以て全額返済とする」


 最後の最後でとんでもないことが述べられた。


「は? いやいやいや、今なんて?」


「既婚者救済法ですよ。配偶者及び準配偶者の借金を肩代わりできるのです。これを実際に行った人は非常に稀ですけど、それだけ愛が深いのでしょう」

 

 周りから熱いコールが巻き起こり、何故か兎獣人の受付嬢ニーカが「私と言う女がいながらぁ!!」と泣き崩れ「お、お兄さんと、も、モイモイさんが……」とラハヤが焦り始め、俺は理不尽に打ちのめされそうになった。


 いやいやいや、おかしいだろ!! 俺とモイモイがそんな訳ねえし、チェッカードさんは金が欲しいだけだろ!!


「……ちょっとすみません」


「え、ええどうぞ」


 罰が悪そうにフードを深く被るモイモイに、俺は早歩きで詰め寄った。


「おい、放火魔。説明しやがれ」


「……借金を返すいい機会だと思いまして」


「思って? なんだ?」


「準配偶者ということにしました。あ、署名は私が一人でやったので、そこはご心配なく」


「しました。で済むと思ってんのか……!?」


「ちょ、ちょっと顔が怖いです。あ、あれですよ。借金返済の手続きが完全に終わったら離婚手続きをしましょう。離婚手続きは二人の実印が必要なので印鑑とか作って下さいね」


 あぁぁぁああぁ!!! ちっくしょう!!!


「フン゛!!」


「い゛っったぁぁぁい~~~!! 何するんですか!!」


 俺の鉄拳制裁を頭頂に受けたモイモイが(うずくま)る。


「説教は後だ。それとお前が誤解を解くんだぞ? いいな?」


「……はい」


 詐欺が横行しそうな法律を作りやがってと帝国に怒りたい気持ちもあったが、今は心の内に納めておくとする。悪法もまた法なり、だからだ。


「あ、あの~、式典を進めても宜しいですか?」


「あ、はい、すみません。今戻ります」


 俺は戻って片膝をつき、首を垂れると長剣を肩に当てられた。これで俺は士爵となった。その後も空しい式典だった。祝福されても空しい。こんな気持ちは初めてだった。


さようなら平成。はじめまして令和。

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