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第二七話 日本へ


 屋敷へと戻り、ニーカを交えて神馬と会ったことを話した。ラハヤたちは、俺が元の世界へ戻ることに理解があるからまだ良かった。すんなりと受け入れてくれたし、俺の立場を理解してくれた。だが、秋の終わりに一五歳になったばかりのニーカだけは、頑なに「なんで帰っちゃうんですか」と駄々をこねるばかりで何度言い聞かせても平行線のままだ。


「なんでって言われてもな……。仕方ないだろ、俺は向こうの世界の人間なんだから。それに屋敷も資産もお前らで好きに使えって言ってるんだから納得してくれよ。なあ?」


「他の三人見たいに『はい、分かりました』って納得してる方がおかしいんですよ。ほんとは帰って欲しくないくせに」


「お、お前なぁ……」

 

 そんなこと言ったら振り出しに戻るだろうが。


「ニーカさんは間違ってる。お兄さんは出来得ること全てをしてくれた。無理を言ったって困らせるだけ。残りの日数をどう過ごすか考えた方が建設的でしょ?」


「結局手だって出しませんでしたよ! キセーラさんだってほんとは……!」


「私たちに手を出さなかったのも、シドーがそれだけ想ってくれたからだろう。これが他の男だったら軽率に女を孕ませていただろうし、やるだけやって捨てられていたかもしれない。シドーの行いは我々に選択肢を与えるようなものだ。決して非難されるようなものではない」


「モイモイさんはどうなんですか? もっと一緒に旅をしたかったんじゃないんですか?」


「あっ……。私の方にも来るんですね……。いや、まあ、シドーさんの選択を今更とやかく言うのもガキっぽいと言いますか、そんなことを言っていたらきっとシドーさんは今すぐに屋敷を出ちゃいますよ。そういう人間なんで」


「良く分かってんな」


「随分と長い時間を共にしてきましたからね。流石に分かってますよ」


「ニーカ。もう一度言うぞ。俺は帰るが、屋敷だって資産だって好きに使っていいし、俺に固執せずに他の男を作ったって誰も責めはしない」


「……正論ばっかり」


 静かに自室に戻ったニーカに、キセーラが溜息をつく。一五の子どもが納得するには、まだ時間がかかりそうだ。


 そして月日は流れて、神々と約束した春。俺の帰る季節がやって来た。


 場所はとある山奥の聖なる泉。春の鮮やかな花々と青々と茂る木々の中央にある泉に、俺とラハヤたちは佇んでいる。ニーカだけは見送りに来なかったが、ラハヤが言うには「最後の最後でまた我がままを言いたくないから」らしい。


 バックパックから神器の白い鹿呼笛(コール)を取り出し、『プゥゥーーーー』と吹く。


 すぐに神鹿が現れ、小さくなった神使ノ兎もひょっこり顔を出す。神馬もゆっくりと俺たちの前に来た。


 最初に口を開いたのは神鹿だった。姿はまだ角も伸びきっていない若い牡鹿だが、纏っている雰囲気は神々しい。


「その力、返してもらうぞ」


「元からそのつもりだよ」


「跪くのだ」


 言われた通りに跪いて頭を垂れる。すると、鹿が俺の頭に額をくっ付けた。ぞわぞわと体中の毛が逆立つ感覚と共に、力が抜けていくのが分かる。


「良いぞ。頭を上げよ」


 俺の力を吸い取った神鹿の角が立派に伸びていた。


「さて、元の世界に帰りたいのだったな」


「ああ、早くやってくれ」


「そう急かすな。もう一度確認を取る。お主の居場所がないとしても、元の世界がお主を必要としてないとしても元に戻りたいか?」


「だから何なんだよ。たった一年いないだけで、そこまで大事に言いやがって」


 住民税の滞納ぐらいだろ。元に戻って大変なのって。後は親戚に説明もしないとだが。


「分かった。ならば連れて行こう」


「最初っからそれで良いんだよ。それでな」


「じゃあ、お兄さん」


「ん、ああ、ラハヤさんには世話になった。モイモイにもキセーラにも。三人とも、ありがとな」


「うん。私も」


「シドーさん、お元気で」


「達者でな。シドー」


 三人と握手を交わす。再び神馬の方を向くと、向こうの世界と繋がるゲートが出来ていた。


「背に乗るが良い」


 神馬の背に乗って、ゲートを潜り抜けた。


取り急ぎ。最後の章はコメディ全振りになります。

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