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おしえて!ネクロマンサー先生  作者: 手綱ユルシ
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説明会

 入学希望者の皆さん、保護者の方々、死霊学ネクロマンシー科の説明会へようこそ。学科長のニールです。


 古来、死霊術は色々な誤解と偏見を招いています。生死、霊魂、死体など、世間一般には禁忌とされるものを取り扱っているため、邪悪な禁術だと忌まれることは多い。近年、死霊術の有用性と正当性は国々に認められつつあり、合法化が進めているため、死霊術師に対する迫害が大分減っているが、依然死霊術のことをよろしく思わない方が多くいます。


 それも必ずしも事実無根というわけではありません。部外者からの誤解だけではなく、業界でも自分の行為に十分の認識を持っていない者が少なくありません。やみくもに死者を蘇らせたり、違法で死体の調達したり、死霊術を犯罪活動に使ったり、世間の嫌悪を招く行為をする死霊術師が歴史上多く現れたのもまた事実です。こういうことを行う術者は大半正式訓練を受けていない、つまり野良もしくははぐれ術者に当たるとはいえ、彼らの行為が我々死霊術師全体に汚点をつけていると言わざるを得ません。故に、死霊術師は時に民に恐れられ、時に迫害を受け、時に己の不注意で身の破滅を招きます。したがって、当学科の使命は、死霊術の技術と知識を授けるだけではありません。自分の専門に対して、正しい概念、正しい心構え、正しい身持ちを有する一人前の死霊術師を育て上げることこそが、我々の使命です。


 死霊学科は一体どういった才能、資質と性格を有する人材を所望しているのでしょうか。細かい作業をこなせる細心さ。その退屈な作業を長い時間耐えられる忍耐と精神力。即時の見返りではなく、長期を考えてコツコツと努力を重ねる、そのための視野と思考力。いずれも死霊術師として欠かせない才能です。本学科が求めているのはすなわちその資質がある、もしくはそれを身につける見込みのある人材です。


 それでは、本学科のカリキュラムを簡単に説明します。


 一年生はまずオズワルド先生に就いて、スケルトンの蘇生から死霊術の基本理論と実技を学ぶことになります。また、一般教養も修めなければなりません。言うまでかもしれないが、生物構造に対する知識は死霊術師にとって必要不可欠なので、生理学と解剖学は必修科目です。


 必修科目以外の選択科目については、興味のある科目を選んでも構いません。ただし、実用方面を考えると、化学、錬金術とゴーレム作成は比較的に死霊術師の仕事に接点が多く、応用も利くので、特に興味のある科目がない場合、それらを選ぶのは無難でしょう。就職口が広がります。また、研究科への進学したい方は、高等霊魂学と魔法生物学を勉強するのがお勧めです。


 素養を築け上げる一年に対して、二年の授業内容は一気に実用死霊術に突入します。ゾンビとミイラの作成、各種類及び場面において幅広い死霊術の応用を学ぶことになります。技術方面だけではなく、進路調査と共に、死霊学と業界に関する講義、また関連企業及び官庁機構の見学も行います。二年の担任先生はクリスティーナ先生です。


 三年生になると、いよいよ就職希望の方は本格的な就職活動、進学希望の方は受験勉強しなければなりません。そのために、本学は完全なるサポート体制によって各生徒を全面的に支援します。就職希望の生徒は学校を通じて提携企業及び機関に実習して、実践経験を積み、卒業後そのまま採用されるケースも結構あります。一方、進学希望の方は受験に向けて特別指導や講義を受けます。三年の課程はそれに合わせて、各自の需要に対し高度な柔軟性を持つ少人数ゼミナール形式で行います。場合によって個人指導を受けることも可能です。三年の必修科目は霊体関係の授業と高等実技だけなんですが、進路によって役に立つ科目は幾つかもあって、個人の需要に応じ自由に履修することができます。


 では、その進路自体について話します。死霊術師は決して華やかな職業ではありません。炎術師パイロマンサーみたいに派手に燃え尽きることがなければ、薬学ポーションほど日常生活に浸透していません。しかし、十分に訓練を受けた死霊術師なら、就職先を見付けるのは決して難しくありません。近年、死霊術の合法化に伴い、各国において死霊術師の需要がますます高まっています。死霊術の伝統がない国は積極的に死霊術能力を拡大しようとしていて、新卒でも好条件で誘われるだけではなく、要職に昇進する見込みも付きます。一方、長年の死霊術伝統のある国でも、他国からの競争に応じて、死霊術師の待遇改善が進んでいます。業界において、野良術者ではない、正式訓練を受けている人材は、いつでも不足しています。


 本学科卒業生の就職先の例を挙げると、真っ先に思いつくのは軍事利用だろうが、実は建設工事の方がメジャーです。特にトンネルやダムなど、生身の人間にとって危険な作業はアンデッドを起用することが多い。死霊術はそれ以外にも鉱業、林業、廃棄物処理など、多くの産業に利用されており、応用の幅が非常に広いのです。


 また、各産業に勤めている死霊術師が要を握ることは決して珍しくありません。その故、死霊術師が官庁や民間企業に要職を占めることも多い。死霊術が受け入れられつつある背後には、彼らの努力は決して欠かせません。死霊術師としての技術以外、目の前のことではなく、常に何ヶ月先、何年先のことを見る、長期的な視点を持っていることが要職を努めるのに適するだと広く認められています。地味な仕事と揶揄されることもあるけど、死霊術師の進路の可能性は誰にも劣っていません。


 卒業後すぐに就職するではなく研究科に進学する場合は、学部より高等な課程を受けることになるので、無論相応な学力が問われます。学部では基本しか触れない概念を研究して、死霊術だけだはなく死霊学の学問も身につけます。死霊学研究科を卒業した後、当然普通に死霊術関連の仕事を務められるし、学部卒よりいい待遇が期待できますが、本学など学院で死霊術を研究して、もしくは教職に就き、死霊学の発展に貢献する道も開きます。また、レアケースですが、企業も政府も学院に務めず、フリーで大きい成果を挙げた方もいらっしゃいます。最近、肉ゴーレム研究で話題になったヴィクター氏も本学の研究科卒業生です。


 説明はここまでです。入口手前の机に資料が置かれていますので、是非ご覧になってください。シラバス、教員紹介、学校施設、学費、在学中死亡率、免責事項など、色々載せてあります。私はしばらく残りますので、何かご質問があればどうぞ前にいらっしゃってください。後にお問い合わせがある場合は、教務係にご連絡ください。連絡先も資料に載せています。


 それでは、本日来ていただいて誠にありがとうございました。皆さんのご入学、心よりお待ちしております。


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